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AIとデジタル技術でEMI対策業務をアシストする「EMINT」

2022年12月時点の内容です


はじめに

近年、電子機器の高機能化に伴って内部構造の複雑化が進み、製品開発の過程でのEMI対策業務もより複雑になっています。また、製品のライフサイクルは年々短くなり、いかに効果的・効率的にEMI対策を行って製品を市場投入するか、ということもさらに重要になっています。

「EMINT」は、“AIとデジタル技術でEMI対策業務をアシスト”するソリューションとして、東陽テクニカ ワン・テクノロジーズ・カンパニーが開発した製品で、2021年に販売を開始しました。本稿では、「EMINT」が対象としているEMI対策についてご説明し、「EMINT」の機能や特長についてご紹介いたします。

EMIとは

EMI(Electromagnetic Interference=エミッション)とは、電子機器が、周囲に不要な電磁ノイズを放出することによって、他の電子機器に性能低下などの不具合を引き起こす障害のことを意味します。一方、他の機器からのエミッションを受けても、性能低下せずに動作する能力をEMS(Electromagnetic Susceptibility=イミュニティ)と言います。この両方の性質を持つことをEMC(Electromagnetic Compatibility=電磁両立性)と言い、電磁妨害波を発生させず、かつ、電磁的な干渉を受けないように、あるいは受けても正常に動作する(両立する)電子機器の能力を指します。

EMIは他の機器に影響を与えるので、電子機器からこのノイズを出さないようにすることが主な対策となります。EMIは放射エミッション(無線で伝わるノイズ)と伝導エミッション(有線で伝わるノイズ)の2種類に分けられます。

放射エミッションを例にとって対策の簡単な流れを説明します。電子機器に対してエミッション測定を実施した結果、ノイズの放射レベルが規定より大きく、対策が必要となった場合、まず以下を実施します。

1. ノイズ源は何かを特定する
2. 放射源が何でどのような仕組みで放出しているかを特定する

この2点を正確に実施できればできるほど、効果が高く、短時間で効率の良い、低コストのノイズ対策が行えます。十分な時間をかけて予測・検証を繰り返すことが重要です。

具体的なノイズ対策としては、設計の上流まで戻ってプリント基板のパターンを変更したり、基板は変更せずフェライトコアやコンデンサなどの電子部品を後付けしたり、ハーネスの引き回しを工夫したり、とさまざまです。電子機器メーカーはできる限り上流で低コストのノイズ対策を実施できるよう日々努力を重ねています。

EMI対策は製品開発の過程において非常に重要ではありますが、対策の知識と経験は人に所属しており、高度な対策技術を持つ熟練のエンジニア不足が深刻化していることから、その技術承継が業界全体として大きな課題となっています。また対策ナレッジの共有が進んでいないために、現場での対策が試行錯誤的になるという側面も課題の一つです。EMI測定やその分析・対策に関する技術文書が企業内に多く存在するにもかかわらず、それらの有効活用が進んでいません。

「EMINT」とは -AIとデジタル技術で効率的なEMI対策


https://www.toyo.co.jp/onetech/incubation/detail/id=16133

こういった課題に対応するソリューションとして開発したソフトウェアが「EMINT」です。AIを用いて過去のEMI測定データをもとに効果的な対策方法を見つけ出し、開発者が“今”直面しているEMI対策業務をアシストします。製品名は、EMC(EMI+EMS)の「EM」とIntelligenceの「INT」を組み合わせました。

「EMINT」は、開発エンジニアが個々に持っていた対策ナレッジを収集・集約し、さまざまな技術情報・測定データと関連付けて整理します。その整理されたデータベースをもとに、AIが必要なナレッジを提示することで、過去の資産や設計情報を活用した効率の良いEMI対策が可能となり、工数の削減に貢献します。さらにはエンジニア同士の技術知見が交換され、その共有が可能になります。それ以外にもデータ管理や業務のデジタル化などさまざまな面から業務をサポートする機能を備えています。

「EMINT」の機能と特長 -AIによる対策アシスト

AIを活用した「EMINT」の機能は次の2つです。

① 製品に組み込まれている部品の動作クロックと変調の情報をもとに、ノイズ源となる部品の推定を行う
② 類似した波形を持つ過去データを発見し、そのデータに含まれる作業ログを提示する
(作業ログ= EMI測定ソフトウェア上でエンジニアが付与する“コメント”)

①の機能は、測定データ中の任意の波形を指定することで、事前に登録された、製品の動作クロックリスト(動作周波数のリスト)の中からノイズ源を推定して提示する機能です。深層学習モデルを用いてノイズを分類し、その分類結果に応じた数値解析によって、ノイズ源を推定します。対象箇所(部品)の絞り込みを効果的に行うことができることから、例えば部品の電源をON/OFFさせながらノイズ源を突き止めていくような切り分け作業の省力化に寄与することができます。

②の機能は、測定データ中の任意の波形を指定することで、過去の測定データの中から似ている波形を含むデータを探し出し、対策の実施履歴から効果のあった対策を提示できる機能です。過去データに残されたコメントから対策のヒントを見出すことができます。

これらの機能にはクラスタリング(ある集合を何らかの規則によって分類する)という機械学習の手法を用いています。「教師なし機械学習」に分類され、データのグループ分けなどで利用される「教師あり機械学習」とは異なり、事前学習なく、各データの特徴をもとに分類を行うことができます。

「EMINT」の機能と特長 -EMI対策業務のデジタルシフト

「EMINT」はAIを用いた機能以外にも、データ検索やデータ管理、データへのコメント追記といった日常業務を効率化する機能を備えています。一般的なデータ管理は、ネットワーク上の共有フォルダにデータを保存する方法が多く、目的のデータを探し出すまでに時間がかかります。一方、「EMINT」では日付や検索データに付けられたメタ情報を条件にデータの検索が可能であり、また検索結果にスペクトラムグラフのサムネイルも提供するなど、効率よく目的のデータを発見できる工夫をしています。

複数のデータを俯瞰して解析するダッシュボードという仕組みも備えており、今はダッシュボード上に統計解析機能が実装されています。これまでデータの基本統計量を得るには、いくつもの測定データを表計算ソフトにコピー&ペーストして計算した結果をグラフ化していましたが、この手間を大幅に削減します。また、通常値からの外れ値を表示する機能もあり、出ているはずの信号がない、今までになかったノイズが出ているなどの重要な情報も瞬時に見つけることができます。

また「EMINT」はクライアントサーバ型の構成をとるため、ネットワーク経由でデータを閲覧するビューアとしての側面を持つことも一つの特長です。

このように「EMINT」は、測定データとAI/デジタル技術の組み合わせにより、EMI対策業務の工数削減に役立ちます。今後も、EMI対策の作業効率改善に役立つ機能を、お客様と共に検討し、継続的に追加してまいります。

「EMINT」関連記事のご紹介

「EMINT」の共同開発者でもある富士フイルムビジネスイノベーション株式会社 国際認証センター 主任エンジニアの原口 直也氏に、国際認証センターの業務内容、「EMINT」共同開発のきっかけや活用方法、さらには今後の展望についてもお話しいただきました。その記事は、こちらからご覧ください。

https://www.toyo.co.jp/magazine/detail/id=37386

【筆者紹介】

株式会社東陽テクニカ ワン・テクノロジーズ・カンパニー インキュベーションユニット 主任
李 从兵

2018年東陽テクニカに入社し、製品企画・開発部門にてAIエンジニア/ソフトウェアエンジニアとして活動。AI x EMI対策ソリューションの開発、機械学習 x ネットワーク監視ソリューションの開発、最適化アルゴリズムを用いた計測データ解析などを手掛ける。画像認識、時系列データ解析など分野の機械学習技術を得意としており、東陽テクニカの持つユニークな測定器との組み合わせにより、お客様にさまざまな価値を提供している。