各種マイクロホンの周波数応答コントロール
2015年4月時点の内容です
部品の小型軽量化、パワーデバイスの高効率化、車のハイブリッドシステム化に伴い、スイッチングノイズなど、比較的高周波域(10kHz以上)の音計測に対するニーズが高まってきています。精密音響測定に用いられるマイクロホンは測定環境(自由音場、音圧音場、拡散音場)に応じて3つの応答タイプがあります。これら3種マイクロホンの作り分けを、製造時どのようにコントロールしているかについてご説明します。
マイクロホンの構造
一般的に精密音響測定に使われるマイクロホンはコンデンサ型と呼ばれ、構造は図1に示すとおり、薄いダイアフラムとバックプレートと呼ばれる固定金属板間にてコンデンサを構成しています。音圧が大気圧から変化すると、それまで平衡状態にあったダイアフラムが変形し、バックプレート間とのすき間が変わるため、ダイアフラムとバックプレート間の容量が変化します。マイクロホンはセンサとして、この容量変化を電圧変化に変換しています。標準の精密マイクロホン(ダイアフラム直径: 12.5mm、ダイアフラム厚み:5 μm、ダイアフラム-バックプレート間距離:20 μm)を用いて1Pa(94dB)の音測定をした際のダイアフラムの変位は僅か5 nm 程度です。
図1:マイクロホンの構造
マイクロホンの存在による反射
音は波の性質を持ち、反射や回折現象があります。音の周波数が変わると波長も変わります。人間の可聴周波数範囲は20Hz~20kHzであるため、音の測定で扱う波長も約1.7cm~17mと幅があります。
低周波のときは波長が長いため、マイクロホンが物理的に存在していても、音の反射や回折は発生しません。ところが高周波域になるにつれ、波長は短くなり、マイクロホンが物理的に存在することによる反射/回折の影響が無視できなくなってきます。(図2)
図2:音場中にある物体の影響
マイクロホンが使われる音場
マイクロホンが使われる音場には3種類あり、1番目は音の反射の無い大きな開空間や無響室である自由音場です。マイクロホンは音源に向けて設置します。2 番目はチューブ、ハウジングや空洞内のどこでも同じ振幅である音圧音場で、マイクロホンは壁やパネルに平坦に設置します。3番目は音が反射する壁のある環境や残響室で、様々な方向からの音がマイクロホンに入射する拡散音場です。(図3)
図3:各音場で使われるマイクロホンの種類
マイクロホンをそれぞれの音場で用いる際、周波数応答は測定する周波数全体でフラット(平坦)である必要があります。
周波数補正の実際
それでは、それぞれの音場に対応するマイクロホン製造の過程では、実際にどのようにして周波数応答特性を補正しているのでしょうか。
音が0°の角度でマイクロホンに入射する場合、ダイアフラムに音が当たり、反射することにより、ダイアフラム近傍では媒質である空気が圧縮されるため、音圧が上がります。この変化は波長がマイクロホンの径と一致するときに最大となります。
逆に音が90°の角度でマイクロホンに入射する場合、ダイアフラムにおける反射の影響は小さくなります。このため、周波数応答特性は、音源に対するマイクロホンの角度によって異なります。(図4)
図4:音源に向ける角度による周波数応答の変化
マイクロホンの径が1/2インチの場合、2kHzあたりから変化し始めます。このように感度について実はこれだけの差があり、周波数によっては10dB(約3.16 倍)程度も変化します。Rと書かれた曲線は拡散(random)音場における入射を意味します。これはすべての方向から等しい確率で音波が到達する場合の平均応答です。
自由音場型マイクロホンの場合、音源に向けることによる反射影響により、感度が上がります。そのため、ダイアフラムの張り具合を調整し、0°の反射影響およびグリッドキャップの周波数応答特性と合わせたときに、フラットな周波数応答特性となるようにします。(図5)
図5:自由音場マイクロホンの周波数応答
音圧音場型マイクロホンのダイアフラムには90°の角度で音が入射し、マイクロホンそのものの存在による音圧変化が小さいため、今度は逆に高周波域までの周波数応答を保つためには、ダイアフラムの張りを強くする必要があります。ダイアフラムの張りを強くすると、音圧によるダイアフラム-バックプレート間の容量変化が起きにくくなり、一般に音圧音場型のマイクロホン感度は自由音場型に較べ、1/4 程度になります。拡散音場型マイクロホンは自由音場型と拡散音場型の中間になります。このようにマイクロホン製造の過程では非常にデリケートな調整を行っています。