三軒茶屋的風景

出張で東京に来るたびに思うが、ホテルの高騰がひどい。出張先から賄われる宿泊費では完全に赤字になる。1万円台で泊まれるところなんて、カプセルホテルくらいだ。どうにかしてくれ。

そういうわけで、東京に来るたびに、1円でも安いホテルを探すことになる。場所にこだわることなんてできない。だから毎回違うホテルを取ることになる。今回は三軒茶屋の宿を取った。

考えてみれば、三軒茶屋に来たのは初めてだった。おしゃれな飲食店が立ち並ぶ、雰囲気のいい街だ。のんびり散策してみたいが、出張で来ていることもあって、そうした余裕は特にない。いつかレジャーで来たときの楽しみにしておこう。

駅からホテルまでの道で、抱き合っているカップルを見かけた。路上で、深いハグを交わし、二人とも目を閉じている。男性はかなりの高齢で、女性は若者に見えた。傍らにはギターケースが置かれていた。二人は音楽家なのかも知れない。二人の間に、どんな残酷な運命があるのか、想像した。言葉なく抱擁する二人は、きっと救いようもなく引き裂かれているのだろう。抱き合いでもしないと連続性を保てないくらいに、二人の生きる世界は切断されているのだろう。抱擁は、その残酷な運命に対する、無言の抵抗なのだろう。抱擁を終えた後、二人はそれぞれの世界に帰っていくのだろう。決して交錯することのない運命のなかに戻っていくのだろう。

三軒茶屋的風景。

ホテルの近くに、「ラーメン豚野郎」という店舗があった。いや、気持ちは分かるが、「豚野郎」はいかがなものか。あなたたちは豚の犠牲によってビジネスを成り立たせているのだ。もう少し豚への敬意があってもいいのではないか。たとえば「ラーメン豚貴族」とか。「鳥貴族」を見習ってほしい。貴族が持ち上げすぎなら、せめて、「ラーメン豚市民」くらいにはしてあげてほしい。それくらいの配慮はあってもいいのではないか。

それもまた、三軒茶屋的風景。

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