研究書評


2023年4月11日分


初瀬龍平, 松田哲, 戸田真紀子(2015)「国際関係のなかの子どもたち」『晃洋書房』p42-52

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、ストリートチルドレンの現状を検証し、さらに、子どもを保護し彼らの権利を保障するために、タイ政府やGMS各国がどのような取り組みをしているのかを考察したものである。ストリートチルドレンの解決のためにどのような政策を行っているのかを知るため、タイ政府を取り上げたことが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
まず、当時の北タイにおけるストリートチルドレンの現状として、バンコクのチュラロンコン大学が2007年に行った調査によると、ストリートチルドレンの数はおよそ2万人であるとされ、2010年には、さらに1万人の子供がミャンマーやラオス、カンボジアからバンコクなどの都市へやってきていると推定された。チェンマイのストリートチルドレンは、タイの山民族のアカ族やミャンマーからやってくるアカ族、ミャンマー人が多く、その背景にはミャンマーの軍事政権による弾圧やタイとの経済格差などがある。
タイ政府のストリートチルドレンへの対応として、タイ政府は1992年に子どもの権利条約に加入した。その他にも「最悪の形態の児童労働についての条約」や「人種差別撤廃条約」にも批准し、国内の法整備や行政システムの構築に取り組むことによって、2003年に「児童保護法」を制定した。この法律は、子どもの権利条約の内容を反映させ、ストリートチルドレンの福祉を支援するように定められたものである。そして、この法律は、子どもの権利を守るための行政措置についても記されている。具体的には、子ども権利や社会福祉の政策の決定と実施を行う機関を定め、子どもの福祉や安全保護のためのサービスを向上させるための調整や制度化を規定している。さらに、県レベルでも「子ども保護委員会」を設置することを定めている。
しかし、タイ政府は子どもの権利条約の第七条の批准を2010年12月まで保留しており、これは北タイの山地民の子どもの出生登録や国籍取得の対応に消極的であったことを意味している。この第七条の保留を2010年に撤回した背景として、国連の子どもの権利委員会がタイ政府に対して、山地民の子どもへの対応を重ねて勧告したことが挙げられる。しかし、その時点では第22条の難民の子どもの保護については保留の撤回には至っていなかったとされている。

〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「タイ政府がストリートチルドレンの解決のためにどのような政策を行なっているか」について知ることができ、大きな収穫となったと考える。子ども権利や社会福祉の政策の決定と実施を行う機関を定め、県レベルでも政策を行なっていることが分かった。今後は、なぜこのような政策を定めているにも関わらず、ストリートチルドレンがいなくならないのかを批判的に考えていきたい。


2023年4月18日分


宮本みち子編, 2015, 『すべての若者が生きられる未来を : 家族・教育・仕事からの排除に抗して』岩波書店

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、日本学術復興会から研究費を得てチームを編成し、その共同研究成果をまとめたものである。この研究では、若者政策や若者支援の方法を検討し、7年間毎年海外調査を行っていた。それにより、先進工業国が抱える現代の若者問題の実態を把握しようとし、さらに、各国がどのような取り組みをその中でしているのかを探ったものである。前回の研究発表や研究書評を行った際に、「ストリートチルドレンに対する雇用政策」を今後考えたいと思った。そのため、海外で行われている「若者の雇用政策」についての知見を得ることが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
本書の205ページから始まる「若者制作における所得保障と雇用サービスの国際比較」(樋口明彦)を取り上げた。まず、所得保障制度が3つの類型に整理できると記されている。仕事に従事していない非労働力にとって、所得保障制度は自らの生活を維持する上で重要な役割を担っており、その給付は大きく三つの種類に整理することが出来る。一つ目に、働いている期間に失業保険へ加入することが前提となって受給資格が発生する「失業保険」、二つ目に、失業保険の受給期間が終了したり、失業保険に加入していなかったりする場合でも、その欠落を補う「失業扶助」、三つ目に。失業者や低所得者などの十分な資力のないものに対する「社会扶助」がある。そして、社会保障制度の3つの類型は、失業保険と社会扶助からなる主に社会保障制度に依拠する「保険型」、失業扶助に基づく「扶助型」、失業保険と失業扶助と社会扶助を併用した「混合型」に分けられる。日本は保険型に分類され、混合型はイギリスやフィンランドが挙げられる。
今回、混合型を取り上げた。イギリスでの社会扶助は「所得扶助」と呼ばれ、何らかの理由で働けない16歳以上が対象となっている。この所得扶助は、受給者に求職活動が課せられないという特徴があり、イギリスにおける受給率は他の国と比べてやや高くなっている。また、イギリスは失業保険を基盤としながら、実質的には失業扶助が大きな役割を果たしており、捕捉率がそれほど高くなく、代替率も低くなっているという特徴がある。一方でフィンランドは失業保険も失業扶助も手厚いため、捕捉率も代替率も相対的に高くなっているという特徴があるとしている。

〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「若者の雇用政策」について、多数の政策を知ることは出来なかったが、社会保障政策を複数の国で見ることが出来き、給付がどのようになっているかを知ることが出来た。しかし、本書のベースが「失業者に対する保障」であったため、ストリートチルドレンの雇用を考えるという点では適していなかったようにも思える。今後は、社会保障についても考慮しながら、雇用政策の成功事例を絞り込んで詳細に見ていきたい。

2023年4月25日分

亀山恵理子(2000)「児童労働に関する施策の展開 - 1980年 代 以 降 の イ ン ド ネ シ ア に お い て - 」『アジア経済』p41-43

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、インドネシア政府がIPECに参加を決めた後に、インドネシア国内の学術機関やNGOが、IPECから拠出金を受けて行われた調査が記されていた。ストリートチルドレンも、それ以外の児童労働も含めた実態を知るとともにどのような政策提言が行われたのかを知ることが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
1993年にはアトマジャヤ大学が児童労働の実態調査を行なった。この調査は、子供の福祉向上へ向けた政策立案に必要なデータを収集するために行われた。調査方法はインタビューや認識テストなどが用いられ、主に児童労働発生の背景や心理的発達に及ぼす影響を探ることを目的としていた。この調査の結果、親の学歴の高さと子供の中退率が比例している傾向が見られた。
1995年に同大学がインフォーマルセクターにおける危険な児童労働についての調査を行なった。この調査の目的は、労働に伴う危険を明らかにすることと、危険な労働に就いている子供達が抱える問題に解決策を提示することであった。この調査の結果、小学校就学年齢の頃から仕事をしている子供が多くいること分かり、仕事により様々な怪我や12時間以上の労働時間など、労働環境が極めて悪く危険であることが分かった。具体的には、路上で物売りをしているストリートチルドレンは、排気ガスの中で働いているので咳の症状を訴える子供が多くいたことや、実際に呼吸器系の病気にかかっている子供が多くいたことが分かった。この調査報告では、以下のような政策提言を行なっていた。「危険な労働が与える子供の健康被害に関して、地元の医師が作成した情報パッケージを用いて、社会の意識を高めることが必要である。宗教指導者や学校の教師などに加えて、ラジオなどのマスメディアの利用による指導や拡散が効果的である。その他にも、児童労働をなくすまでの措置として、子供たちへの健康ケアが重要である。」
また、1996年にインドネシア大学が行なった調査では、調査対象の子供の約半数が12歳以下のときに既に働き始めており、同様に半数の子供が1日に8時間以上働いており、約3分の1の子供が仕事中に怪我を経験したことがあることが分かった。
これらの他にも、ジャカルタやジョグジャカルタにおける調査では、子供達の1日の労働時間が12時間から15時間で、1週間休みなく働いていること、1ヶ月の賃金は大人の家内労働者の半分の賃金であることが分かった。

〈総評〉
 今回、文献の選択理由として挙げた「児童労働の実態を知ることと政策提言を知ること」について、一定の内容を知ることができ、大きな収穫となったと考える。しかし、文献が20年以上前のデータであること、政策提言が具体的でなく、その政策が生かされたか分からなかったことなどの問題は残った。ただ、相当過酷な環境で働いている子供がいることと、児童労働の発生に親の教育意識が関わっていることが分かり良かった。


2023年5月2日分


大塚啓二郎・黒崎卓編, 2003, 『教育と経済発展――途上国における貧困削減に向けて』東洋経済新報社

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、第一回箱根会議で計画が持ち上がり、第二回箱根会議でプログラムが組まれた「教育、発展、貧困削除」をめぐった編著書である。箱根会議とは、国際開発高等教育機構が開発経済学に関心を抱く研究者を集めて、国際開発研究のために開催された会議である。本書の特徴が「フィールドワークに裏打ちされた実証研究と計量経済学を駆使した分析」であり、親の教育と子どもの教育の関係について述べられている箇所もあったことが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
本書の253ページから始まる第10章「親の教育と子供の教育・技能形成――タイ製造業の事例」について取り上げた。ここでは、親の教育が就職した子供の勤続年数を延ばすことを通じて、技能などの蓄積に寄与していることを実証している。これは子供の教育や健康に与える影響についてではなく、経験や技能といった企業特殊な人的資本の形成について注目している点が特色である。つまり、教育年数や就学率だけではなく、また技能を計るための職場の勤続年数だけでもなく、親の教育水準と「教育投資、勤続年数、賃金」を実証している。調査対象は、バンコク近郊の製造業20社の従業員、1,867人としている。この約78.5%は生産労働者であり、残りは技術者や管理職である。データに関しては、2001年7月から10月にかけて個別の聞き取り調査を行ったデータを用いて分析していると述べている。また、賃金のデータに関しては、2001年のものだけでなく、1998年から2000年の賃金も調べているとしている。
実証結果として、特に母親の教育水準は子供の教育投資だけでなく勤続年数を延ばし、生産現場での経験や技能の蓄積に間接的に寄与していることが確認された。教育を受けた母親を持つ子供の勤続年数が長くなるメカニズムとして、親世代の高い教育が子供の能力を高め、そのように高められた子供の能力が雇用主によって容易に観察できず、子供は長く勤務して企業特殊的技能を多く形成するようになるという理論モデルで説明している。
父親ではなく母親の影響が強い要因として以下が挙げられていた。「女性の賃金が低ければ、男性と同等の教育を受けたとしても、労働市場ではなくその他の家庭内生産や家庭内教育などの誘因が強くなる。そして、そのような誘因が強ければ、女性は教育を受けていても、家庭内時間を増やし、家庭内教育や子供の健康状態の改善を行うであろう。」しかし、これは男女が結婚することを仮定しているため、女性の労働市場での機会のあり方によって、結婚の意思やタイミングや相手の選択も変わること、それにより家族の形成と次世代の教育のあり方も影響を受けることを考慮する必要がある。
また、国際的に比較すると、タイなどの東南アジアは南アジアと比べて、男性と比較した女性の社会的地位と平均教育水準は高い。2002年の研究によれば、南アジアの平均所得はサハラ砂漠周辺国よりも高いにも関わらず、子供の栄養水準は劣っている。このことは、南アジアでは、社会的にも女性の地位が低いことと関連づけられる。女性の労働市場での自由が奪われることで、家庭内生産に特化され、女性の教育が子供の人的資本形成に大きな役割を果たしているならば、南アジア諸国ではタイ以上に顕著な結果が出ると予測できる。
また、本研究では、母親の教育効果は女子に対して強く、父親の教育効果は男子に対してのみ存在しているということも示されていた。

〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「親の教育と子供の教育」について、タイでは、その関係があることが分かり大きな収穫となったと考える。また、父親の方が教育水準が高い傾向にあるが、母親の教育水準の方が子供に与える影響が大きいことを知れた。
今後は、親の教育以外の観点から貧困の子供について見ていきたい。

2023年5月16日分


gooddoマガジン編集部,2024年,「子どもの貧困を解決するため、政府が行っている対策は?」,(2024/05/15,https://gooddo.jp/magazine/poverty/children_proverty/108/).

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、日本政府が子供の貧困を解決するために行なっている政策をまとめた記事である。
私が貧困解決を制度面から考えた際に、「多くの制度を知ることで、その中でどれが貧困地域でも活用できるようなコスパの良い制度であるかを考えることができる」と思ったので、様々な制度を知るため今回はイメージしやすい日本で行われている制度について調べた。なので、貧困解決のための制度を知ることが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
日本の政府では、子どもの貧困に対する政策は大きく「教育支援、経済支援、生活支援、就労支援」の4つがあるようだが、今回は教育や就職の観点以外から考えたかったため、「経済支援と生活支援」について調べた。
まず、経済支援について。厚生労働省では、児童扶養手当の支給を行なっているようである。これは、ひとり親家庭に対して要件を満たせば支給するといった支援である。また、母子父子寡婦福祉資金の貸付を行なっている。これは、自立を支援するための制度である。自立が必要な家庭は、ひとり家庭に多いようである。実際、ひとり親家庭では、非正規雇用や病気などにより低所得者の割合が多いという調査結果がある。ひとり親家庭では稼ぎ頭が一人となってしまうため、その稼ぎ頭が病気になると、家計が急変し経済的にも困窮するケースがある。この制度は、こうした家庭に対して自立を支援し、生活の安定を目的とした貸付制度である。さらに、養育費及び面会交流に係る相談支援の実施も行なっている。これは、離婚の際の相談窓口として、弁護士による養育費や面会交流などの手続きを支援している。離婚後に養育費を受け取っていないひとり親家庭は過半数以上となっており、離婚した後にすぐに経済的に困窮する家庭も少なくないという現状がある。そのため、養育費を請求するための手続きについてテンプレートなどのひな型を配布するなどで、ひとり親の経済的な問題の解決に向けて支援している。
生活支援については、厚生労働省は様々な制度を実施している。一部を取り上げると、生活困窮者に関しての自立相談の支援や、家計に関する相談を行なっている。そして、養護施設の体制整備や訪問事業なども行なっている。また、国土交通省は住宅に関する相談にも取り組んでおり、生活や就労のためにも必要となる住居の確保を支援している。

〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「貧困解決のための制度を知る」について、日本での制度の一部を大まかに知ることができた。今後は、日本も日本以外でも、様々な制度についての知識を知っていきたいと思う。


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