研究書評


2024年4月11日分


初瀬龍平, 松田哲, 戸田真紀子(2015)「国際関係のなかの子どもたち」『晃洋書房』p42-52

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、ストリートチルドレンの現状を検証し、さらに、子どもを保護し彼らの権利を保障するために、タイ政府やGMS各国がどのような取り組みをしているのかを考察したものである。ストリートチルドレンの解決のためにどのような政策を行っているのかを知るため、タイ政府を取り上げたことが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
まず、当時の北タイにおけるストリートチルドレンの現状として、バンコクのチュラロンコン大学が2007年に行った調査によると、ストリートチルドレンの数はおよそ2万人であるとされ、2010年には、さらに1万人の子供がミャンマーやラオス、カンボジアからバンコクなどの都市へやってきていると推定された。チェンマイのストリートチルドレンは、タイの山民族のアカ族やミャンマーからやってくるアカ族、ミャンマー人が多く、その背景にはミャンマーの軍事政権による弾圧やタイとの経済格差などがある。
タイ政府のストリートチルドレンへの対応として、タイ政府は1992年に子どもの権利条約に加入した。その他にも「最悪の形態の児童労働についての条約」や「人種差別撤廃条約」にも批准し、国内の法整備や行政システムの構築に取り組むことによって、2003年に「児童保護法」を制定した。この法律は、子どもの権利条約の内容を反映させ、ストリートチルドレンの福祉を支援するように定められたものである。そして、この法律は、子どもの権利を守るための行政措置についても記されている。具体的には、子ども権利や社会福祉の政策の決定と実施を行う機関を定め、子どもの福祉や安全保護のためのサービスを向上させるための調整や制度化を規定している。さらに、県レベルでも「子ども保護委員会」を設置することを定めている。
しかし、タイ政府は子どもの権利条約の第七条の批准を2010年12月まで保留しており、これは北タイの山地民の子どもの出生登録や国籍取得の対応に消極的であったことを意味している。この第七条の保留を2010年に撤回した背景として、国連の子どもの権利委員会がタイ政府に対して、山地民の子どもへの対応を重ねて勧告したことが挙げられる。しかし、その時点では第22条の難民の子どもの保護については保留の撤回には至っていなかったとされている。

〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「タイ政府がストリートチルドレンの解決のためにどのような政策を行なっているか」について知ることができ、大きな収穫となったと考える。子ども権利や社会福祉の政策の決定と実施を行う機関を定め、県レベルでも政策を行なっていることが分かった。今後は、なぜこのような政策を定めているにも関わらず、ストリートチルドレンがいなくならないのかを批判的に考えていきたい。


2024年4月18日分


宮本みち子編, 2015, 『すべての若者が生きられる未来を : 家族・教育・仕事からの排除に抗して』岩波書店

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、日本学術復興会から研究費を得てチームを編成し、その共同研究成果をまとめたものである。この研究では、若者政策や若者支援の方法を検討し、7年間毎年海外調査を行っていた。それにより、先進工業国が抱える現代の若者問題の実態を把握しようとし、さらに、各国がどのような取り組みをその中でしているのかを探ったものである。前回の研究発表や研究書評を行った際に、「ストリートチルドレンに対する雇用政策」を今後考えたいと思った。そのため、海外で行われている「若者の雇用政策」についての知見を得ることが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
本書の205ページから始まる「若者制作における所得保障と雇用サービスの国際比較」(樋口明彦)を取り上げた。まず、所得保障制度が3つの類型に整理できると記されている。仕事に従事していない非労働力にとって、所得保障制度は自らの生活を維持する上で重要な役割を担っており、その給付は大きく三つの種類に整理することが出来る。一つ目に、働いている期間に失業保険へ加入することが前提となって受給資格が発生する「失業保険」、二つ目に、失業保険の受給期間が終了したり、失業保険に加入していなかったりする場合でも、その欠落を補う「失業扶助」、三つ目に。失業者や低所得者などの十分な資力のないものに対する「社会扶助」がある。そして、社会保障制度の3つの類型は、失業保険と社会扶助からなる主に社会保障制度に依拠する「保険型」、失業扶助に基づく「扶助型」、失業保険と失業扶助と社会扶助を併用した「混合型」に分けられる。日本は保険型に分類され、混合型はイギリスやフィンランドが挙げられる。
今回、混合型を取り上げた。イギリスでの社会扶助は「所得扶助」と呼ばれ、何らかの理由で働けない16歳以上が対象となっている。この所得扶助は、受給者に求職活動が課せられないという特徴があり、イギリスにおける受給率は他の国と比べてやや高くなっている。また、イギリスは失業保険を基盤としながら、実質的には失業扶助が大きな役割を果たしており、捕捉率がそれほど高くなく、代替率も低くなっているという特徴がある。一方でフィンランドは失業保険も失業扶助も手厚いため、捕捉率も代替率も相対的に高くなっているという特徴があるとしている。

〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「若者の雇用政策」について、多数の政策を知ることは出来なかったが、社会保障政策を複数の国で見ることが出来き、給付がどのようになっているかを知ることが出来た。しかし、本書のベースが「失業者に対する保障」であったため、ストリートチルドレンの雇用を考えるという点では適していなかったようにも思える。今後は、社会保障についても考慮しながら、雇用政策の成功事例を絞り込んで詳細に見ていきたい。

2024年4月25日分

亀山恵理子(2000)「児童労働に関する施策の展開 - 1980年 代 以 降 の イ ン ド ネ シ ア に お い て - 」『アジア経済』p41-43

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、インドネシア政府がIPECに参加を決めた後に、インドネシア国内の学術機関やNGOが、IPECから拠出金を受けて行われた調査が記されていた。ストリートチルドレンも、それ以外の児童労働も含めた実態を知るとともにどのような政策提言が行われたのかを知ることが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
1993年にはアトマジャヤ大学が児童労働の実態調査を行なった。この調査は、子供の福祉向上へ向けた政策立案に必要なデータを収集するために行われた。調査方法はインタビューや認識テストなどが用いられ、主に児童労働発生の背景や心理的発達に及ぼす影響を探ることを目的としていた。この調査の結果、親の学歴の高さと子供の中退率が比例している傾向が見られた。
1995年に同大学がインフォーマルセクターにおける危険な児童労働についての調査を行なった。この調査の目的は、労働に伴う危険を明らかにすることと、危険な労働に就いている子供達が抱える問題に解決策を提示することであった。この調査の結果、小学校就学年齢の頃から仕事をしている子供が多くいること分かり、仕事により様々な怪我や12時間以上の労働時間など、労働環境が極めて悪く危険であることが分かった。具体的には、路上で物売りをしているストリートチルドレンは、排気ガスの中で働いているので咳の症状を訴える子供が多くいたことや、実際に呼吸器系の病気にかかっている子供が多くいたことが分かった。この調査報告では、以下のような政策提言を行なっていた。「危険な労働が与える子供の健康被害に関して、地元の医師が作成した情報パッケージを用いて、社会の意識を高めることが必要である。宗教指導者や学校の教師などに加えて、ラジオなどのマスメディアの利用による指導や拡散が効果的である。その他にも、児童労働をなくすまでの措置として、子供たちへの健康ケアが重要である。」
また、1996年にインドネシア大学が行なった調査では、調査対象の子供の約半数が12歳以下のときに既に働き始めており、同様に半数の子供が1日に8時間以上働いており、約3分の1の子供が仕事中に怪我を経験したことがあることが分かった。
これらの他にも、ジャカルタやジョグジャカルタにおける調査では、子供達の1日の労働時間が12時間から15時間で、1週間休みなく働いていること、1ヶ月の賃金は大人の家内労働者の半分の賃金であることが分かった。

〈総評〉
 今回、文献の選択理由として挙げた「児童労働の実態を知ることと政策提言を知ること」について、一定の内容を知ることができ、大きな収穫となったと考える。しかし、文献が20年以上前のデータであること、政策提言が具体的でなく、その政策が生かされたか分からなかったことなどの問題は残った。ただ、相当過酷な環境で働いている子供がいることと、児童労働の発生に親の教育意識が関わっていることが分かり良かった。


2024年5月2日分


大塚啓二郎・黒崎卓編, 2003, 『教育と経済発展――途上国における貧困削減に向けて』東洋経済新報社

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、第一回箱根会議で計画が持ち上がり、第二回箱根会議でプログラムが組まれた「教育、発展、貧困削除」をめぐった編著書である。箱根会議とは、国際開発高等教育機構が開発経済学に関心を抱く研究者を集めて、国際開発研究のために開催された会議である。本書の特徴が「フィールドワークに裏打ちされた実証研究と計量経済学を駆使した分析」であり、親の教育と子どもの教育の関係について述べられている箇所もあったことが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
本書の253ページから始まる第10章「親の教育と子供の教育・技能形成――タイ製造業の事例」について取り上げた。ここでは、親の教育が就職した子供の勤続年数を延ばすことを通じて、技能などの蓄積に寄与していることを実証している。これは子供の教育や健康に与える影響についてではなく、経験や技能といった企業特殊な人的資本の形成について注目している点が特色である。つまり、教育年数や就学率だけではなく、また技能を計るための職場の勤続年数だけでもなく、親の教育水準と「教育投資、勤続年数、賃金」を実証している。調査対象は、バンコク近郊の製造業20社の従業員、1,867人としている。この約78.5%は生産労働者であり、残りは技術者や管理職である。データに関しては、2001年7月から10月にかけて個別の聞き取り調査を行ったデータを用いて分析していると述べている。また、賃金のデータに関しては、2001年のものだけでなく、1998年から2000年の賃金も調べているとしている。
実証結果として、特に母親の教育水準は子供の教育投資だけでなく勤続年数を延ばし、生産現場での経験や技能の蓄積に間接的に寄与していることが確認された。教育を受けた母親を持つ子供の勤続年数が長くなるメカニズムとして、親世代の高い教育が子供の能力を高め、そのように高められた子供の能力が雇用主によって容易に観察できず、子供は長く勤務して企業特殊的技能を多く形成するようになるという理論モデルで説明している。
父親ではなく母親の影響が強い要因として以下が挙げられていた。「女性の賃金が低ければ、男性と同等の教育を受けたとしても、労働市場ではなくその他の家庭内生産や家庭内教育などの誘因が強くなる。そして、そのような誘因が強ければ、女性は教育を受けていても、家庭内時間を増やし、家庭内教育や子供の健康状態の改善を行うであろう。」しかし、これは男女が結婚することを仮定しているため、女性の労働市場での機会のあり方によって、結婚の意思やタイミングや相手の選択も変わること、それにより家族の形成と次世代の教育のあり方も影響を受けることを考慮する必要がある。
また、国際的に比較すると、タイなどの東南アジアは南アジアと比べて、男性と比較した女性の社会的地位と平均教育水準は高い。2002年の研究によれば、南アジアの平均所得はサハラ砂漠周辺国よりも高いにも関わらず、子供の栄養水準は劣っている。このことは、南アジアでは、社会的にも女性の地位が低いことと関連づけられる。女性の労働市場での自由が奪われることで、家庭内生産に特化され、女性の教育が子供の人的資本形成に大きな役割を果たしているならば、南アジア諸国ではタイ以上に顕著な結果が出ると予測できる。
また、本研究では、母親の教育効果は女子に対して強く、父親の教育効果は男子に対してのみ存在しているということも示されていた。

〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「親の教育と子供の教育」について、タイでは、その関係があることが分かり大きな収穫となったと考える。また、父親の方が教育水準が高い傾向にあるが、母親の教育水準の方が子供に与える影響が大きいことを知れた。
今後は、親の教育以外の観点から貧困の子供について見ていきたい。

2024年5月16日分


gooddoマガジン編集部,2024年,「子どもの貧困を解決するため、政府が行っている対策は?」,(2024/05/15,https://gooddo.jp/magazine/poverty/children_proverty/108/).

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、日本政府が子供の貧困を解決するために行なっている政策をまとめた記事である。
私が貧困解決を制度面から考えた際に、「多くの制度を知ることで、その中でどれが貧困地域でも活用できるようなコスパの良い制度であるかを考えることができる」と思ったので、様々な制度を知るため今回はイメージしやすい日本で行われている制度について調べた。なので、貧困解決のための制度を知ることが、文献の主な選択理由である。

〈内容〉
日本の政府では、子どもの貧困に対する政策は大きく「教育支援、経済支援、生活支援、就労支援」の4つがあるようだが、今回は教育や就職の観点以外から考えたかったため、「経済支援と生活支援」について調べた。
まず、経済支援について。厚生労働省では、児童扶養手当の支給を行なっているようである。これは、ひとり親家庭に対して要件を満たせば支給するといった支援である。また、母子父子寡婦福祉資金の貸付を行なっている。これは、自立を支援するための制度である。自立が必要な家庭は、ひとり家庭に多いようである。実際、ひとり親家庭では、非正規雇用や病気などにより低所得者の割合が多いという調査結果がある。ひとり親家庭では稼ぎ頭が一人となってしまうため、その稼ぎ頭が病気になると、家計が急変し経済的にも困窮するケースがある。この制度は、こうした家庭に対して自立を支援し、生活の安定を目的とした貸付制度である。さらに、養育費及び面会交流に係る相談支援の実施も行なっている。これは、離婚の際の相談窓口として、弁護士による養育費や面会交流などの手続きを支援している。離婚後に養育費を受け取っていないひとり親家庭は過半数以上となっており、離婚した後にすぐに経済的に困窮する家庭も少なくないという現状がある。そのため、養育費を請求するための手続きについてテンプレートなどのひな型を配布するなどで、ひとり親の経済的な問題の解決に向けて支援している。
生活支援については、厚生労働省は様々な制度を実施している。一部を取り上げると、生活困窮者に関しての自立相談の支援や、家計に関する相談を行なっている。そして、養護施設の体制整備や訪問事業なども行なっている。また、国土交通省は住宅に関する相談にも取り組んでおり、生活や就労のためにも必要となる住居の確保を支援している。

〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「貧困解決のための制度を知る」について、日本での制度の一部を大まかに知ることができた。今後は、日本も日本以外でも、様々な制度についての知識を知っていきたいと思う。


2024年5月23日分


吉井美知子, 2008, 『ベトナムのストリートチルドレン問題に関する政府の対応とNGOの可能性』

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、ベトナムのストリートチルドレンに対する政府の対応を取り上げたものである。
ストリートチルドレンに対する各国の政策を積み上げていきたいので、今回はベトナムについて取り上げた。

〈内容〉
ベトナムは、国連子どもの権利条約が1989年に締結された後に、世界の中で2番目に署名し、世界で10番目に批准していた。これは、実際にベトナムが国際法に則った国内の法整備に取り組んでいたことからも、ドイモイ政策が軌道に乗っていない時期から、子どもの権利について関心を表明したという重要な意味を持つ。
1991年に公布された「子どもの保護、ケア、教育に関する法律」では、問題解決のためには国内外の民間や個人からの協力を得る必要があるとの規定もあり、具体的で整備の進んだものであった。この国内法整備に続き、「ハノイ及びホーチミン市のストリートチルドレンを家庭及び地域社会に復帰再編入させる計画の展開について」の政府公文、同計画の批准についての人口家庭子ども委員会決定、ホーチミン市におけるストリートチルドレン問題解決計画のホーチミン市人民委員会決定が出されている。また1998年から2003年の間だけで14本もの法律が発令されていることから、政府がストリートチルドレン問題を解決しようと努力していたように見える。他にも教育法などを用いて、一貫性を持って整えられていたことが分かる。
ベトナムの国家機関は、日本の内閣に相当する政府の下に位置する中央機関では、4つの省や機関がストリートチルドレン問題対策の所轄官庁となっている。ストリートチルドレン解決に関する市の担当機関は、生活上のケアを行なっている社会局、普及学級などの教育を行なっている教育訓練局、補導などを行なっている公安、政策決定を行なっている子ども委員会の4つに分類できる。
このように法律や組織が整備されているにも関わらず、問題が起きている原因は3つ挙げられる。一つ目は、現場で政策実施を行う公務員が人脈によって選ばれていることである。このような公務員は業務内容に関する専門性や経験、能力が不足しているため、政策を実施する際に問題が起こる。二つ目に、政策実施の目的が公務員としての成績を上げることに集約されていることである。子どものケアが適切に行われストリートチルドレンの数が減って、それが公務員としての好成績につながのではなく、より安易に数を減らすことに主眼が置かれているため問題が起きている。教育訓練省が行う普及学級においても同様に、報告のための統計データを取る一時期にだけ普及学級を開いて、後は閉鎖するということも行われている。三つ目に、一党独裁体制の堅持のために政策が実施されている点である。ストリートチルドレン問題を解決しようと国家が決断する際、治安維持や都市の美化、そして一党独裁体制の安定のためという理由が本音で政策が実施されるという問題である。一党独裁体制の安定であるため、NGOが行うストリートチルドレンのケアが子どものために適切なものであっても、政府の認めるところではない際には、実施されないという問題が起こる。


〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「ベトナム政府のストリートチルドレンへの対応」について、おおまかに知ることが出来た。
法律や組織、政策を整備するだけではなく、政策を正しく実施することも大切であると分かった。
本文では、取り上げたところ以外ではNGOについて多く触れられており、一党独裁体制を批判する際にもNGOを重要視していたことから、タイトルにも書いている通りNGOの実施は大切であることが分かった。
今後も研究の方向性は政府の政策とするつもりだが、NGOについても留意したい。様々な国の政策を調べた後に、NGOについても調べたい。


2024年6月6日分


土井隆義,2024年,「『トー横』や『グリ下』に若者が集う理由とは?」,Well-being Matrix,(2024年6月5日,https://well-being-matrix.com/posts/20240330/).

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、若者が抱える問題やその背景を研究する社会学者である土井隆義へのインタビュー記事である。このインタビューでは、東京・歌舞伎町の「トー横」や大阪・ミナミの「グリ下」などに集まるローティーンの若者たちについてのものであった。これらをターゲットにした背景として、日本のストリートチルドレンのようなものを調べることで、海外のストリートチルドレンへ活かすことができると考えたためである。自分の近くにある日本から海外に広げるという視点を手に入れたため、このように考えた。

〈内容〉
「トー横」や「グリ下」に集まる若者には、昔と共通する部分と、現代の特徴の両方がある。
「トー横」や「グリ下」のような場所に集まる昔からの理由として、地元を嫌い、都会へやって来るという背景がある。このその行動原理は、大きく分けて2つあり、1つは地元が窮屈だ、人間関係がうっとうしいといった地元からの押し出し(プッシュ)要因。2つ目は、都会の文化や娯楽に憧れ、その魅力に引き込まれる(プル)要因。この地元に「不満」があって、そこからの解放感を求めるという要因で集まってくる人たちは、刺激にある程度満足すると地元へ帰っていく傾向がある。
一方で、いま「家庭や学校など地元に安心できる居場所がないため、不安を感じている」人たちがいることは大きな問題となっている。この要因で集まる若者は自分を受け入れてくれる居場所を求めて繁華街へやって来ているので、そのまま居着いてしまう傾向がある。こういった若者は近年になって急激に増えており、現代的な現象と言われている。地元に居場所がなくなった主な理由は、人間関係の流動化や自由化である。ひと昔前は地縁や血縁といった共同体の縛りが強かったが、現代では居場所を提供する機能が衰えてきている。友人関係も同じように、自分と価値観が同じと思える人同士だけで関係を閉じて、それ以外の人とはあまり親しく付き合わない傾向が強まっている。こうして「誰も自分をちゃんと見てくれていないかもしれない」という不安を抱えた若者が、自分と同じ価値観を持っている仲間や安心できる居場所を求めて、「トー横」へやって来るようになった。そこは身の安全な場所とはいえないかもしれませんが、心理的な安心感を得られる場所として機能していると考えられる。
解決に必要、大切なこととして作者は以下を挙げていた。地元に家庭や学校以外にも安心できる居場所づくりが必要である。なぜなら、犯罪被害を防ぐために安全な場所をいくら行政が用意しても、それでは刺激が足りなくて、若者は寄ってこないと考えられる。そのため、まずは民間の支援団体の活動を行政が支援する形がいいと筆者は述べていた。
また、「トー横」へやって来る若者の親に対する支援や、「トー横」とは別の刺激を見つけることができる視野を広げる仕組み作りも大切である。例えば、「トー横」よりももっと充実感を得られるアニメや漫画などの趣味、スポーツ、起業などのビジネスなどといった別の刺激も大切と述べていた。

〈総評〉
今回、文献の選択理由として挙げた「日本の若者の貧困の現状を知る」について、具体的な「なぜ集まってくるのか」といった心理的な面を知ることができた。今後は他の面からトー横やグリ下に集まる若者について調べていきたい。


2024年6月13日分


〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、NHKの記事で、東京都に求めている政策を取り上げたものであった。
日本の街に集まる若者は貧困とは関係が薄く、日本の若者独特の問題を抱えているかもしれないが、親が原因でそこに集まる若者が多いことや、他の居場所を提供することが解決策の一つとして挙げられるなどの共通点があった。そのため、もう少し「トー横」や「グリ下」に集まる日本の若者についての研究を続けようと思う。

〈内容〉
今回は、協議会が、「トー横」に集まる子どもたちは、新宿区以外や都外の県から訪れていることが多いため、新宿区固有の問題ではなく都が向き合う必要があると指摘するところから始まっていた。この協議会の調査によると、「トー横」に集まるのは家庭や学校で悩みを抱えた子どもたちであり、 家庭関係の悩みとしては、家族との不和や児童虐待、貧困等などが挙げられていた。また現在改善が見られていない原因として、「上から目線」の大人に対して拒絶感を有していることを挙げている。そのため、子どもが拒絶感を覚えるような一方的なコミュニケーションはやめて、彼らの心情に寄り添う工夫をするべきだとしている。
これらの解決策として、子どもが気軽に相談できる窓口を設置することを挙げていた。これにより、「トー横」を訪れる背景となっている悩みや不安を聞いて、個々人のニーズに応じて寄り添うことのできる相談窓口を構築すべきとしている。そして、被害の予防だけではなく、すでに被害に遭ってしまい誰にも話せず孤立感を深めているというような相談にも対応することも求めている。子どもたちが心を許して相談できるようになれば、「トー横」に代わって、自らを認めてくれる「居場所」として窓口が機能する可能性があるとしているため、体制が整っている窓口を作成することが必要である。
また、保護者への支援も必要であるとしていた。子どもが犯罪に巻き込まれるなどした際に、保護者向けの相談先が十分に周知されているとはいえないとして、都が関係機関をとりまとめ、パンフレットや都のホームページに公開するなどの工夫が必要だとしている。

〈総評〉
解決策を知れてよかったが、具体的にどのような施策であるか分からなかった。過去の政策も調べたい。
また「トー横」のような最近の物を取り上げると文献がなく記事を取り上げることになってしまったので、今後は過去日本にあったタケノコ族のような問題を取り上げて文献調査をし、効果の有無を調べる。


2024年6月20日分


湯浅誠・上間陽子・冨樫匡孝・仁平典宏編,2009,『若者と貧困 : いま、ここからの希望を 』明石書店.

〈内容総括・選択理由〉
今回取り上げた文献は、若者と貧困というテーマに関して、様々な視点から述べている著書である。
私はストリートチルドレンの研究において、日本という身近な視点から問題や解決策を探し、それを海外のストリートチルドレンに広げるというアプローチをかけようと思っている。そして、前回までは親が原因で発生しているなどの特徴がストリートチルドレンと似ている「トー横」や「グリ下」に集まる若者という、現在日本にいる若者について研究していた。しかし、それらは現在発生している問題であり、参考文献がまだ少ないなどの研究の難しさがあった。そのため、今回は、15年ほど前の日本の若者や貧困について記した著書を選んだ。

〈内容〉
今回は、本書の第3章「若者の貧困と社会」の中の、118ページから始まる、北海道大学大学院の教育学院博士課程である大澤真平が記した『不平等な若者の自立―貧困研究から見る若者と家族―』について取り上げる。

当時、この「若者と家族」に焦点が当たるようになった背景として、若者の貧困問題を家族内で対処することが出来なくなるような状況が、社会的に広く認知される程度にまで広がったからであると述べていた。以前の1970年代後半には、若者の貧困は家族の個々の問題というよりも世帯の問題として扱われる側面が強く、その後はワーキングプア層が生活保護制度から排除されたことなどから分かるように、若者の貧困は社会的関心の外に置かれていたようである。そのように関心が失われたことや若者の貧困が顕在化しなかった要因として、家族の中に隠されていたことが挙げられている。具体的には、日本の20代の若者は親との同居率が高く、若者期を親の扶養下で過ごす者が多いため、若者の問題が家族の中に隠されていた。その一例として、若者が失業状態であっても家族に包摂されることで貧困問題として認識されなかったなどがある。しかし、親世代の生活基盤が若者に影響を与えていることから、親そのものが貧困である家族や、離婚している家族、若者が家族に頼ることのできない状態にある家族の場合、若者は不安定な状況で過ごさなくてはいけないという状況がある。

また、生活保障制度にも問題があるようである。戦後に整備された社会保障は、性別役割分業を政策の前提にしているため、ケアの問題を女性が担うという社会政策が作られていた。このようなシステムは家族主義と言われ、日本は特に家族主義の側面が強い国として考えられている。このような制度では、未婚やひとり親世帯は社会政策から除外されやすく、母子家庭では貧困率が高くなっている。また、就業していてもひとり親世帯では社会保障や生活保障が十分ではないという現状があったようである。さらに、家族主義の強い国では国家による家族関連政策への財源支出が少ない傾向にあり、加えて日本では社会保障制度が子供の貧困率を高めるという逆機能を果たしているようである。これは、家族の福祉機能を重視し、社会政策の中心に置くことで、逆に家族の中に内包されている子供の貧困に対応できていないということである。

以上から、若者の貧困問題は、家族資源の不平等による若者の自立家庭の不利であり、それが再び貧困や低所得の生活に繋がる「貧困の世代的再生産」と述べている。そして、貧困層が誰に集中して割り当てられているのかや、若者と家族の問題を見据える必要があり、それができないと家族資源の不平等を再び隠すことになるとしている。言い換えると、家庭によって将来が著しく制限されることなく、より公正な社会制度を構築していくことが必要であり、そのためには家族背景と所得や学歴達成の統計的な相関を明らかにする他に、不利な条件にある若者の意識や行動が、どのように人生を形成しているか理解する必要があるとしている。

〈総評〉
今回、海外だけではなく2009年の日本でも、家庭環境によって若者の人生のあり方や選択の自由と幅が制限されていることが分かった。今回の文献での日本の若者はストリートチルドレンよりも年上で、家庭以外の依存先がある訳ではないという違いがあったものの、ストリートチルドレンに活かせる点もあった。
必要なことは、家庭の改善や親の教育よりも、それら家庭環境が悪い若者を対象に人生の選択肢を増やし、一般レベルまで引き上げることがゴールであるように思えた。具体的には、雇用機会や教育機会という選択肢を増やすことが思い浮かんだ。そのためにはデータや若者の意識を知り、公正な社会制度を作ることが必要であるように感じた。
一方で、若者が自立していく際には、どこまでが親の責任で、どこからが若者の責任かということも考える必要があるように感じた。


2024年6月27日分


日下部元雄,2023,『 若者の貧困を拡大する5つのリスクーその原因と対応策―』晃洋書房.

〈内容〉
「貧困」拡大の最大の要因として挙げられているのが「しかるしつけ」である。しかし、貧困の原因が社会的階層や少年期の貧困だけに起因するわけではない。「貧困」を拡大する主な要因は、幼児期の親子関係に関するリスク要因であり、「しかるしつけ」が第1位、「父接触少」が第2位である。
「しかるしつけ」が貧困リスクの拡大に与える影響は1.39倍であり、若者世代の36.2%がこのリスク要因を保有しているため、貧困リスク拡大への寄与度が11.9%ポイントと高い。しかし、全ての「しかるしつけ」を受けた子供が貧困に陥るわけではない。
多くの人々は、貧困の原因として「若年無業者」や「非正規雇用」が所得に直接関係するリスクであると理解しやすいが、「しかるしつけ」が貧困を増やすという考え方には実感がわかないことが多い。何故、「しかるしつけ」が貧困を増やすのかというと、「しかるしつけ」が「授業理解困難」や「不登校」などの学齢期リスクの主要な原因であり、これらが大きなリスク拡大率で貧困を増やしているからである。
最近の脳科学の研究では、「しかるしつけ」のような言葉による不適切な対応が、体罰よりも子供の脳の発達に大きなダメージを与えることが示されている。これが脳機能の発達に影響を与え、その結果として様々な社会関係への影響を通じて直接的に貧困を増やす可能性もある。

〈総評〉
本文では、引用部の前後には親の教育のレベルが子供に影響するといったようなことが書かれていたが、親の卒業学校レベルに加えて、親の教育方法(しつけ)といった点も子供に非常に大きい影響を与えていることが分かった。
現在日本について調べているが、ストリートチルドレンではそもそも教育を受けていないことや、親と接していないという子供もいるため、今回取り上げた若者とストリートチルドレンは前提条件が異なっているように思えた。ストリートチルドレンと近い内容で日本の若者について抽出したいため、ストリートチルドレンの理解度をさらに増す必要があると感じた。

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