給料ファクタリングについておもうこと

Yahoo!ニュースにこんな記事がありました。

給料ファクタリングとは、給料日の何日か前に給与債権を買い取ってもらって、給料が出たら買い取り代金ごと返済するものです。

仕組みを簡単に説明すると、たとえば、25日にバイト代10万円が入る予定のA君が給料日2週間前の10日に5万円必要になり給料ファクタリング会社X社に申し込みます。X社は、25日にもらえる予定のA君の給料10万円を7割引きの7万円で買い取り、買い取り代金7万円をA君に渡します。25日に予定通り10万円の給料をもらったA君は10万円をX社に払い、取引が終了します。A君の給料である10万円と、買い取り代金7万円との差額3万円がX社の収入になるというものです。

記事で指摘されているとおり、労働債権はほとんどの雇用契約で譲渡が禁止されていますから2社間ファクタリングの手法を用いたとしても現行の民法では譲渡自体が無効です。A君の無知に付け込んだ不当な契約なので、消費者契約法の面からも契約を無効にできると思います。

ちなみに、一部のまっとうな会社が提供している給料前借サービスは全く問題ありません。それがどういうものか、さきほどのA君のケースでざっくり説明します。まず、A君のバイト先P店は前借サービスのZ社とサービスの利用について契約しておき、従業員であるA君にもその旨を周知しておきます。A君が前借を希望したときは、P店の保有するA君の勤怠データから前借可能な金額が算出されて、Z社からA君に前借分のお金が支払われます。このとき、A君は手数料を負担しません。手数料はP店が負担します。といっても給料日の2週間前に5万円を前借されても100円程度の手数料で済みます。A君は給料を前借できてハッピー、P店は前借制度のおかげでバイトを確保できてハッピー、Z社は手数料で儲けてハッピーということです。

そもそもファクタリングというのは、債権を譲渡して資金を調達したり、債権の回収不能リスクを軽減する手法をいうのですが、債権ならなんでも譲渡していいわけではなく、譲渡できない債権や、譲渡にあたってやっておかなければならないことがあります。最近の闇金まがいのファクタリング業者は、そういうことはお構いなしに無知な消費者や事業者から荒稼ぎしています。

ちなみに、債権譲渡の基本は、次の3つです。その一、債権を譲渡したときは譲り渡した元債権者は債務者にそのことを通知しないといけません。通知することで新債権者は債務者に請求できるし、債務者は支払う相手が新債権者だと知ることができます。これを「債務者対抗要件」といいます。

その二、債権を譲り受けた新債権者は、せっかく譲り受けた債権が第三者に侵害されないように登記をしなければなりません。登記することでその債権が自分の債権だと主張できます。これを「第三者対抗要件」といいます。なお、現在のところ、債権譲渡が登記できるのは法人間の譲渡のみです。ファクタリング会社のほとんどが法人を対象にしている理由の一つです。

その三、債権を譲り受けた新債権者は、債権者として回収不能になるリスクも負います。債権を譲り受けるというのは、債権者としての地位を引き継ぐということです。元の債権者は譲り渡した後のことに責任を持ちません。それなのに回収不能のときは債権を買い戻すよう求める特約を付けたりすると、これは債権の譲渡ではなく、債権を担保とした貸し付けとみなされます。貸付だとみなされるということは、貸金業法や利息制限法、出資法といった法律の規制を受けます。

なお、譲渡と聞くと「タダ」「0円」で譲ると思われますが、法律上は無料だろうが有料だろうが同じ「譲渡」です。

いわゆる2社間ファクタリングというのは、上記3つのうち、ひとつめの「債務者対抗要件」となる債務者への通知を留保しているという建付けです。「第三者対抗要件」を整えるための登記も留保するケースがあるようですが、これも第三者から権利侵害されたり二重譲渡されるリスクが低ければ留保して構わないと思います。こうした法律上の建付けをすっとばして無知な消費者や事業者をだます手口が横行している現状は、ファクタリングにかかわってきた者として許せません。

今年4月には改正された民法がスタートします。改正後は債権譲渡禁止の特約がある場合に債務者の承諾や通知をせずに譲渡しても無効になりません。つまり、今以上に債権を譲渡しやすくなります。債権を流動化して中小企業や個人事業主の資金調達手法を増やすのはいいことですが、ファクタリングの定義くらいはきちんと整えてほしいと感じました。

それから、一般の方はなんだかよくわからないものに安易に手を出すのは止めましょう。危ないものだと気づいた時には遅いですからね。




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