消えた父
6月、母と沖縄待ち合わせを経ての一年ぶりに仙台帰省した。
沖縄旅行は楽しかった、旅行というよりかはウチナンチュの母の実家、わたしのセカンドホームを訪ねたのだった。
最高のタイミングだった。国際結婚先輩の従姉妹も家族揃って沖縄に帰省しているし、コロナのせいで長い事会えてなかった叔母叔父、やんちゃな姪っ子、そして新生児。
私の最も苦手とする’’家族’’という存在が、ひさしぶりに至極純粋で単純な’’幸せ’’というパターンのみで成り立った日々だった。それは別の機会に振り返ろう。
那覇空港から仙台空港まで3時間のフライト。
買い出し行ってくるからあんた先に家に帰っててよ、お父さん仕事から帰っているはずよ。
母から鍵を預かり、開けたのは深緑の玄関。
ただいまぁと懐かしの我が家。
さしたる変化なし、いつものつまらない東北の実家のはずだった。
さて、部屋は全体しんとしており父がいる様子がない。
玄関に彼の靴がないのでどうせまた畑にでもいっているのかと思ったが、一応父の部屋をあけた。
ただいまぁ、お父さん、いるー?
ん?え?なになになになに?!どういうことこれ???
なんと、彼の部屋を開けると、部屋が空っぽだった。
文字通り空っぽだった。がらんどうとはこのことか。
部屋に残されているのはベッドフレームと空っぽの机。カーテンはあっただろうか?今となっては思い出せない。
すっかり、きっかり、がらんどう。
え、どうなってるの??
再度も再度、意味がわからない。。。
状況が全く飲み込めない、私夢でも見てる??
かつての父の部屋は本当に、何もなくなっていた。
彼の所有物は跡形もなく姿を消していた。
布団も衣類も、ギターに三味線に、DIYに、絵描きセットに、手作りの家具に諸々と、クリエイティブで多趣味極まりない物で溢れた父の部屋が忽然と消失した。
どう考えても、どう落ち着いて観察しても、何が起きているのか全く持って理解できなかった。
え、待ってどういうこと、ひょっとして空き巣入った!?
でもなんで父の部屋だけ???
え、ひょっとしてお父さん死んじゃってるとか?!
沖縄旅行を台無しにしないために母が変な気を利かせて、父に起きた不慮を娘に隠しているとか。。。。???
でもそれにしても待ってなんでなんで?
白昼夢でも見ているのかと、もしくは異次元にでも迷い込んでしまったのかと混乱する自分を落ち着かせるために、再度家の中をひとつずつ確認して回る。
母の部屋、通常。
私の部屋、通常。
キッチン、通常。
リビング、通常。
洗面所、あ、ここもだ。父棚だけごっそりものがなくなっている。ひげ剃り、整髪剤、バリカン。
え、ねぇどういうこと?
お父さん、夜逃げでもした??
何が起きているか母に確認したいにも、彼女はまだ買い物から帰ってこない。焦りすぎて母に電話をするというアイディアさえ浮かばなかった。
死?疾走?事故?
消化するには早すぎる焦りと不安がみぞおちのあたりでパレード状態で脳がうまく作用しない。
一回深呼吸、そんでとりあえず母を待とう。それしかない。
物心ついたときから、この家族は半分崩壊していた。沼のような基盤にかろうじて見てくれだけが良い小屋がたっているような家族だった。
でも、それでも、父がこんなふうに消える日がくるなんてのは予想できなかった。だって、わたしのお父さんよ?
KLから、来月仙台に帰るよってLINEしたとき、気をつけて帰ってきてねって返事くれたじゃん。あのときすでに何か起こっていたってこと?
こんな壊れた家族。
タバコでも吸いたい気分で母を待つ私、リビングは30年前とほぼ同じ。
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