見出し画像

治療前の地獄

癌告知から1ヶ月。
やっと治療がスタートした。

治療がスタートするまでもいろいろなことがあった。

まず旦那はこの時点で仕事ができなくなった。
フリーランスでの音楽制作、
フードデリバリーをやっていたのだけど、
喉の腫瘍が潰瘍になっていて
カロナールやロキソニンでは痛みが引かず
医療用麻薬を処方された。

麻薬の副作用で運転は禁止されたので、
収入の大半であるフードデリバリーの仕事はできない。
精神的、体力的にもクリエイトする仕事もできない。
Timeeで家の近くの飲食店のバイトを
数時間やったくらいだった。

鎮痛剤を医療用麻薬に切り替える前に、
カロナールを処方されていたときは
痛みでご飯が食べられず
「医者にはこの痛みが分からないからこんな薬出すんだ」
と苛立って取り乱し、最終的に泣いてしまうという

癌への恐怖や痛みや不安など
いろいろなものが溢れてしまったようで
情緒不安定な姿も見た。

鎮痛剤について医師と相談しているときに
「まずカロナールで様子を見てみたら?」
と言ってしまった罪悪感もあったし、
不安定になっている旦那を見て辛くなり
私も泣くことしかできなかったのがしんどかった。

旦那の癌は首の両脇にあるリンパ節にも転移しており、
入院前には片方のリンパ節がパンパンになっていた。
1ヶ月でこんなにも進行するのかと不安になった。


そしてもうひとつ避けては通れないものがある。

お金。

私の資産は、全財産かき集めても50万円ほど。
旦那はほぼゼロ。
2年ほど前までお笑い芸人をやっていたので、
職種的には貯金がないことなんて珍しいことではないが、
将来子供を授かるという話をする時は
よく喧嘩になっていたくらい
家庭内でのお金事情は由々しき問題になっていた。

そんな最中に働けなくなるし
治療費や入院費もかかる。
生活するお金だってかかる。
医療保険も入っていなかった。

私はオワッたと思った。
もうこれから借金生活だ。
自分たちで賄えるわけない。

…と思っていたけど、

なんだかんだで高額医療制度という国の補助で
低収入な旦那は支払い限度額がかなり低く、
借りるとしても、
親戚への多少の借金でなんとかなりそうだった。

日本、ありがとう。

でも貯金も少なく働き手も私だけになる。
今までのような生活も、もちろん贅沢もできない。
これからどうなってしまうんだろう。

不安でもあるけど、
未知すぎて当時はぼんやりと
「まぁなんとかなるっしょ」とも思っていた。

そんなことより辛そうな旦那を早く治して楽にしてくれ
と願うばかりだった。
いつもは大喧嘩して罵り合うこともあるのに、
相手がただしんどそうなのは本当に辛い。

いつも一緒に食べていたご飯も、
嚥下のたびに喉が痛むようで
旦那はうつむいて顔をしかめながら食べていた。
治療が進むにつれてご飯が食べられなくなるので
今はたくさん栄養を摂るようにと医者から言われていた。
痛くて食べるのが辛いのに
食べなきゃいけないプレッシャーを感じていた
旦那にとって食事は一家団欒の場ではなくなっていたようだった。

仕事でこんなことがあったとか、
だれだれとこんな話をしたとか、
何気ない会話もなくなった。

今までの生活とは違うんだと実感した。

旦那は寝る時間も多くなった。
特に毎食後はグッタリして気絶したように眠った。
薬の副作用で眠くなるし、
今までもストレスや疲れを感じているときは
よく寝る人だったなと思った。

なので家で一緒にいるときは寝顔を見ることの方が多かった。


リンパ節の腫瘍が大きくなっているのが
目で見て分かるほどなのに、
治療はまだ始めないのか?
これは異常事態ではないのか?
と病院に対して苛立ちもした。
これが命取りになることはないのかと怖くなる。

そんな暗〜い中にいるような1ヶ月を過ごして
旦那が1回目の入院を迎えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?