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ポートピア花壇を探して

はじめに

突然ですが、神戸市近郊にお住まいの方に質問です。
この花壇を街中で見かけたことはありますでしょうか?

白地に青のラインが入ったレトロかわいい外見のこの花壇、「そういえば見たことあるような…」という方も多いのではないでしょうか。

この花壇は、1981(昭和56)年にポートアイランドで開催された地方博覧会、『ポートピア'81』の会場で使われていたものです。

私自身がこの花壇に興味を持ちはじめたのは昨年春のこと、市内を散歩していた際に偶然見つけたのがきっかけでした。近づいてみると、花壇の側面にポートピア'81の文字が書かれています。

「この花壇、前々から市内のあちこちで見かけたことあるけど、ポートピア博覧会の時に作られた花壇だったのか~。ふむふむ…」

長年の疑問が解決してスッキリしたのも束の間、ここである疑問が浮かんできます。

(この花壇、一体いくつ残っているんだろう?)

気になって公式記録で調べてみると、この花壇は当時1,000個以上作られたそうで、閉幕後は神戸市内のほか、兵庫県内の県営施設や公園などへ配られたことが判明しました。なるほど、なるほど…。

(この花壇、一体どこまで遠くへ運ばれたんだろう?)

ポートピア'81が開催されたのは、今から40年以上も前のこと。劣化して処分されている花壇もあるだろうから、現存しているのは半分以下…いや、もっと少ないかも…。

気になって気になってしょうがない。こうしている間にも、劣化が進んでどんどん少なくなっているかもしれません。

こうなったら、探しに行くしかない。
果たして今、一体いくつ残っていて、どこまで運ばれたのか?

ポートピア花壇を捜索する日々が始まりました。


ポートピア'81とは?

本題に入る前に、ポートピア'81とは何かを説明する必要があります。

神戸ポートアイランド博覧会は、神戸港沖に造成された人工島・ポートアイランドの完成を記念して、1981(昭和56)年3月20日から9月15日まで開催された地方博覧会です。ポートとユートピアを掛け合わせた造語、ポートピア'81(エイティワン)という愛称で呼ばれていました。

『新しい"海の文化都市"の創造』をテーマに、世界31ヶ国、地元企業をはじめ日本の代表的な企業グループが多数参加。180日間の会期中に訪れた観客数は1,610万2,752人を記録し、その後の地方博覧会ブームの火付け役となりました。

会場全景(神戸ポートアイランド博覧会写真集. 1982. 172pより)

展示館は全部で32館。コーヒーカップを模した『UCCコーヒー館』や、ピラミッド状の三角屋根にソーラーパネルを敷き詰めた『松下館』など、各参加企業が趣向を凝らした外観のパビリオンが会場を彩りました。

最新のコンピューター技術と映像を駆使した展示が多く、特に人気だったのは『ダイエーパビリオン体験劇場《オムニマックスシアター》』で、最長待ち時間は10時間30分を記録。朝の開場と同時にここを目指して一斉に走ってくる入場者の様子が当時話題になったそうです。

また会場の南側に整備された『パンダ館』も、観客の人気を集めました。友好都市である中国・天津市から借り受けたジャイアントパンダ、蓉蓉(ロンロン)と寨寨(サイサイ)。2頭の存在は、遊園地のポートピアランドとともに観客層を広げ、子どもたちの心をつかみました。

花壇が作られた経緯

ボリューム感抜群の六角形三段活用
(神戸ポートアイランド博覧会写真集. 1982. 60pより)

さて、話を戻しまして…。
この花壇は、ポートピア'81の会場で使うために作られた特注品。
そもそもなぜ、こんなに大量に作られたのでしょうか。

会場内の緑化は、博覧会協会の策定した「緑化基本計画」に基づいて施行されました。この基本計画は、会場を花と緑豊かな会場にし、祭典にふさわしい華やいだ雰囲気・憩い・安らぎを入場者に与えるよう演出するとともに、会場の3割緑化を目指したものです。

"3割"という数字は、神戸市が1971(昭和46)年から推進してきた「グリーンコウベ作戦」の目標値と同じで、「市街地の3割を緑化することが、市民の健康を高めるために必要な最も重要な都市政策」という考え方が、基本計画にも反映されました。

しかし、会場内を緑化したところで、その大部分は閉幕後に撤去する必要があります。また一方で、3割緑化を目指し、最大限の緑量を確保しなければなりません。この2つの相反する命題をどう融合させるか。その解決策の一つとして考えられたのが、ポートピア花壇(公式記録ではフラワーベースと呼ばれているもの)の設置でした。

ポートピア花壇の共通点

花壇の形状は円筒形のほか、四角形と六角形のものが作られました。これは、まとめて配置することにより、緑や花のボリューム感を出そうという意図に基づいています。

高さは大中小の3種類で、どの形状・高さでも共通するポイントが2つあります。

①マリンブルーライン

花壇の外周をぐるりと囲むように設けられた、高さ5cmの凹み。マリンブルーのラインを背景にシンボルマークと、『ポートピア'81』の文字が描かれています。

②広告プレート

マリンブルーラインの下にはめられているもの。これは、花壇が企業からの資金提供などによって作られたためで、出資に参加した企業は企業名や製品のキャッチフレーズを表示することができました。

花壇の形状と配置

①円筒形

等間隔の配置(建築と社会 VOL.61. 日本建築協会. 1980. 13pより)

円筒形のデザインは、海のテーマに基づいて、船のマストをイメージして作られました。ゆえに、ポートピア'81の会場に最もふさわしい花壇といってもよいでしょう。まとめて配置というよりは、一定の間隔を空けて配置されるケースが多かったようです。

②四角形

真ん中に中サイズを2つ、両サイドに小サイズを1つずつ(絵はがき. ㈱NBCより)

正確には真四角ではなく角が面取りされているので、花壇の存在感を出しつつ、やわらかい印象を与えます。街灯を挟むように置かれているケースや、真ん中に中サイズを2つ、その両サイドに小サイズを1つずつのケースなど、様々なパターンが見受けられました。

③六角形

市民広場にて(神戸ポートアイランド博覧会写真集. 1982. 97pより)

市民広場や入場ゲート前、通路の中央など、人の往来が多い場所にアクセントとして置かれていたようです。六角形の特性を活かして、高さが異なる花壇それぞれの二辺同士をくっつけて、ひとかたまりで配置されているケースがほとんどでした。

閉幕後における花壇の行方

閉幕後、国鉄三ノ宮駅前に設置されたポートピア花壇。現在はありません
(神戸ポートアイランド博覧会公式記録. 1982. 465pより)

公式記録の記述によると、ポートピア花壇は当時、全部で1,215個作られたそうです。また閉幕後は、出資企業などに13個、兵庫県に302個、神戸市に900個展用されたことも判明しました。

では、どのような経緯で、どこへ運ばれたのか…という点については、まだ詳しいことは分かっていません。

…というわけで、本を作ってみました!

これまでに発見された花壇は約300個。私の予想では、まだ発見できていない花壇が少なくとも100〜200個ぐらいあるのではないか、と推測しています。

しかし、神戸市内全域はもちろん、北は加東市、西は明石市、東は川西市や伊丹市にまで散らばるポートピア花壇たち。一個人で全てを捜索するのはかなり困難です(というか不可能)。

そこで今回の本『ポートピア花壇捜索隊』の創刊に至りました。

創刊号の表紙を飾るのは神戸電鉄 丸山駅前のポートピア花壇たち。
花壇の調査レポートのほか、移設されたパビリオンの現在の姿やグッズ情報なども掲載しています
創刊号には2大特典として、シリアルナンバー付き隊員カードとペーパークラフトが付いてきます

本を作った理由としては、ポートピア花壇の存在を広く知ってもらい、目撃情報を収集し、一体いくつ残っていて、どこまで遠くへ運ばれたのか。その謎を解き明かすこと。

もう1つは、ポートピア'81がどんな博覧会だったのかをもっと知りたい!ということ。私は1994(平成6)年生まれなので、ポートピア'81を体験したわけではありません。ただ今回、花壇の捜索をきっかけに、当時の資料や写真に触れるうちに、ポートピア'81がいかにエネルギッシュな博覧会で、たくさんの人の心に刻まれたイベントだったかを感じることができました。

この本が、当時の思い出を振り返るきっかけの1冊になれば嬉しいです。

ストリートファーニチャーについて

ちなみに、創刊号では紙幅の都合で掲載できなかったのですが、実は花壇の他にも、ポートピアのカケラが県内のあちこちに散らばってます。それが、ベンチやテーブル、ゴミ箱といったストリートファーニチャーです。

灘区の王子スポーツセンターで発見されたベンチの土台。
上部に見られる1cm弱の出っ張りと、両サイドに付けられた鉄製の輪っかがポイント
閉幕後の解体作業の様子。ベンチはご覧のように両端の土台が切り離されたため…
(ポートピア'81 警察活動記録. 神戸博警察活動記録編さん刊行委員会 編. 兵庫県警察本部. 1982. 94pより)
このように鉢植え置きとして単独利用されるケースも。写真は中央区の東急ポートアベニューにて
川西市の兵庫県立西猪名公園で発見されたテーブル。
色がはっきり残っていないと見分けるのは難しいかも…
加東市の兵庫県立播磨中央公園 第6駐車場入口前で発見されたゴミ箱

劣化や退色が進んでいるものもあるので判別が難しいかもしれませんが、「あっ、これポートピアのやつかも…?」という個体を発見されましたら、ご一報いただけますと幸いです。

ポートピア花壇捜索マップ

また本の創刊にあたり、ポートピア花壇捜索マップを作成しました。

花壇の形状や状態のほか、ストリートファーニチャーの捜索結果と転用施設の情報も掲載しています。マップ上にない花壇やストリートファーニチャーを発見された際は、捜索隊本部(X ID @towers1961101 又は towers196136101@gmail.com)までご連絡ください。時間を見つけて調査に伺います。

noteでは引き続き、調査レポートやインタビュー記事などを更新できればと思いますので、よろしくお願い致します!

参考資料一覧

・神戸ポートアイランド博覧会公式記録, 1982年
・神戸ポートアイランド博覧会写真集, 1982年
・神戸ポートアイランド博覧会 公式ガイドブック, 1981年
・都市の知恵と活力を生かしたポートピア'81成功記. 宮岡寿雄 監修.
 学陽書房, 1982年
・ポートピア'81 警察活動記録. 神戸博警察活動記録編さん刊行委員会 編.
 兵庫県警察本部, 1982年
・建築と社会 通巻705号. 日本建築協会, 1980年
・公園緑地 VOL.42. 日本公園緑地協会, 1981年
・ひろば 通巻203号. 近畿建築士会協議会, 1981年
・神戸からの手紙 別冊 ポートピア'81特集号. 神戸新聞社, 1980年

『ポートピア花壇捜索隊 No.1』について

2024年1月25日現在、以下の店舗さまで取り扱っていただいております。

《取り扱い店舗さま一覧(敬称略)》

北書店 / 〒951-8052 新潟県新潟市中央区下大川前通4ノ町2230
 エスカイア大川前プラザ 1F

甘夏書店 / 〒131-0033 東京都墨田区向島3丁目6-5 一軒家カフェikkA 2F

BiblioMania / 〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄4丁目14-16 ミワビル 2F

レティシア書房 / 604-0827 京都府京都市中京区高倉通二条下る瓦町551

まがり書房 / 〒563-0056 大阪府池田市栄町8-1
 https://www.magarishobo.com/items/82456493

1003 / 〒650-0023 兵庫県神戸市中央区栄町通1丁目1-9

花森書林 / 〒650-0022 兵庫県神戸市中央区元町通3丁目16-4

本は人生のおやつです!! / 〒669-5103 兵庫県朝来市山東町矢名瀬町689

広島 蔦屋書店 / 〒733-0831 広島県広島市西区扇2丁目1番45号

はちみせ
 
https://83s.shop/items/65adfb9c5f2118002b5a71d6

《その他》

自家通販
 https://towers1961.base.shop

※自家通販は発送までにお時間をいただく場合がございます。予めご了承ください。

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