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今後もマンション価格は絶対に下がらない

首都圏を中心にマンション価格が上がり続けている。不動産コンサルタントの長嶋修さんは「それは物件の『在庫』が圧倒的に少ないからだ。私はこの業界に約30年いるが、ここまで売れ行きが良い市場は初めてだ」という――。

税制優遇でマイホームを買う人が増えている

アフターコロナの新しい動きとして見られたのが、在宅時間が増えた「住まい」を見直す動きです。長い時間を過ごす自宅を、それなりのゆとりのある空間にしたいという思い。またリモートワークをするならそれなりのワークスペースも必要になってきます。
 一般的な賃貸は分譲(持ち家)と比べて間取りも狭く、部材や設備などの仕様も相対的にチープな傾向にあるなか、歴史的な低金利や住宅ローン控除といった税制優遇を活用してより快適な住まいを求めようという、賃貸住宅脱出組のいわゆる「一次取得層」の動きが活発化しました。
 さらに住宅ローンは変動金利であれば0.3~0.4%、固定金利なら住宅金融支援機構のフラット35は1%台前半の超がつく低金利。加えて毎年のローン残高の1%を所得税から10年間控除(2021年現在は特例で13年間)できます。ということは例えば0.4%の変動金利で資金調達をしながら、1%の補助金をもらっているようなもの。差し引き0.6%を受け取ることができるのです。

「在庫」が圧倒的に足りない2つの理由

ローン残高適用上限は4000万円ですが、金利分はもちろん、年間24万円、毎月換算で2万円を受け取っているのと同じです。また昨今は圧倒的に共働き世帯が多く、夫婦で借入する場合は、最高4000万円×2=8000万円まで控除の対象となり、このケースでは年間48万円、毎月換算で4万円受け取っているのと同じ効果があります(2022年以降は本制度改正の動き)。
 こうした低金利や税制優遇を利用した一次取得者の活発な行動が新築中古・マンション・一戸建ての住宅市場全般に見られます。ただしそのニーズはまず「都心」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」といったワードに象徴される物件に集中。都市郊外であってもやはり利便性の高いところが中心です。
 特筆に値するのは「在庫」が圧倒的に減少していること。中古マンションの在庫件数は、コロナ以前の19年頃から減少の一途をたどっています。全国の大都市圏はどこも似たような状況です。ニーズが多いにもかかわらず在庫が少ない状況下にあり、需給バランスの崩れも価格の上昇要因につながっています。
 理由は2つあり、1つは先述した「一次取得者の動きが旺盛であること」。もう1つは「買い替え層が動かない」ということです。

住宅にも「ステルス値上げ」が起きている

すでにマンションや戸建てを所有している持ち家層は、間取りを含め現在の住まいに満足している上、この10~20年の間に、そこそこ良い立地で購入した物件の価値は下がらないか値上がりしているケースが多く、自宅は高値で売却可能なものの、いかんせん買い替え先も高いという悩みがあります。
 また例えば新築マンションはここ数年価格を上げると同時に、間取りがかなり窮屈になってきました。100円のお菓子などが値上げせず価格据え置きで200グラムから180グラムへと少なくするのと同じ要領で、上昇を続ける不動産市場において、過度に総額を膨らませないための、新築マンションデベロッパーの企業努力と言えます。要は「ステルス値上げ」と言われるものです。
 かつてなら3LDKであれば70平米超えが当たり前だったところ、昨今は60平米台前半がせいぜいなところ。中には50平米台のものもみられます。こうなると間取りは崩れ、リビングや各部屋は小さくなり収納は減りと、居住快適性も損なわれています。さらにはコストダウンのためにキッチンやユニットバス・洗面化粧台といった設備のグレードも落ちています。
 その他にも室内では「2重床を直張り」「複層ガラス」「ディスポーザー」「建具」やトイレの「手洗いカウンター」、バルコニーの「スロップシンク」と呼ばれる底の深い流しなど、かつてならついていた設備がことごとく省略されています。

5000万円の物件を10組が競争するケースも

共用部では「エレベータの台数を減らす」「コンクリート製だったのを鉄骨階段にする」などが目立ちます。価格が高い割にこうした難のあるマンションに、買い替え層ほど食指が動きません。自宅より明らかに狭く、いかにもチープに思えるからです。
 「賃貸から持ち家」の新規プレイヤーが増加する一方で、「買い替え層」が動かないため売り物件が少ないというダブルパンチで、在庫は減少の一途をたどっているわけです。
 不動産価格は最終的に「需要と供給の関係」で決まります。売り物件1つに対し3人の購入者候補がいるときより、5人いる場合のほうが競争が激しくなるため、価格は上昇方向に向かいます。
 最近では、5000万円で売りに出ている人気物件に申込者が殺到し、5組、時には10組の購入申込みが入るといった事例もちらほら見られます。なかには「5100万円で買うからこちらに譲ってほしい」「こちらは5200万円だ」というように買値がアップするいわゆる「買い上がり」といった現象まで起きているのです。
 新築マンションについても、発売戸数は頭打ちであるものの、これは主に用地取得がうまく進んでいないことが理由で、売れないからといった理由ではありません。価格、契約数ともに上向き。コロナ禍をよそに、不動産市場は活況が続いています。

「都心」「駅近」「大規模」「タワー」の傾向は続く

短期的な見通しを言えば、現状のような低金利時代が続くうちは、不動産市場において在庫が減り続けるか、現状維持、またはもう一段取引価格が上昇することも可能性としてはあり得ます。
 中古マンションに関しては、先述のように在庫が減り続けているため、このまま行くとそこまで取引の数は増えないでしょう。数は横ばいか、むしろ減ったりしながら取引価格は維持または上昇していくと考えられます。
 新築マンションは長らく市場を縮めており、戸数を減らしつつ、より「都心・大都市部」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」への集中傾向が続くでしょう。したがって価格は下がることもなく、維持、もしくは上昇していくはずです。
 不動産市場は、マイホーム系も投資物件系も昨今は圧倒的に在庫が少なく、多少株価が上下動したところで極端な影響はないでしょう。在庫がものすごい勢いで消失し、ある意味ものすごい売り手市場と言えます。私はこの業界に30年近くいますが、ここまで売れ行きが良い市場は初めてです。もちろん、このような事象は都心部・都市部といった限定的な話であり、全国一律に起きているわけではないことにご留意ください。

「ホテル需要減で不動産バブル崩壊」の大ウソ

そんな中、ホテルの不調が目立ちます。コロナ禍でインバウンド需要がほぼ消滅し、また感染再拡大でGO TOトラベルも見直しを迫られるなど国内需要も低迷といった状況が続きました。こうした状況ではホテルの新規用地取得や建設と言った話はぱったり止まっています。
 これをネタにしてまた一部のメディアやいい加減な専門家が「ホテル需要激減で不動産バブル崩壊!」と騒ぎ立てましたが、このことで不動産市場が大きく崩れることはないのです。というのも、ここ数年インバウンド需要を見込んで進行したホテル建設の過程で、その用地取得行動は結果として新築マンションの用地取得を阻んできました。
 大都市におけるホテル用地は、ある程度まとまった大きさのある土地で、駅前や駅近など利便性の高いところが求められます。これは用地取得競争において新築マンションのそれと見事にバッティングします。
 この場合、新築マンション用地としての用地取得価格より、ホテル用地としての価格のほうがはるかに高額での価格提示が可能なため、新築マンションデベロッパーは多くのケースで、指をくわえて用地取得を見送るしかなかったのです。

地方やベッドタウンで空き家がどんどん増える

こんな状況ですから、ホテル開発がなくなれば、やや価格を下げた形にはなるものの新築マンション用地に生まれ変わるだけ。もとに戻るだけです。そもそも首都圏の新築マンション発売戸数は2000年代前半に8万戸台だったところ、2020年は2.7万戸にまで減少してきましたが、ホテル用地取得と競合し、負けてきた影響も大きいのです。
 全国一律で不動産市場が好調かというとそんなことはまったくありません。国土交通省が発表した2020年の新設住宅着工戸数は、持家、貸家及び分譲住宅のすべての分野で減少し、前年比9.9%減少となっています。アパートなど貸家に対する金融機関の融資姿勢が厳格化していたところに新型コロナの流行が一層の下押しとなった格好と言えますが、好調なのは概ね大都市に限られているわけです。
 1990年のバブルピーク時に167万戸だった全国の新設住宅着工も、今となっては80万戸台前半と半分以下。さらに野村総合研究所の試算によると2040年には46万戸と、40%以上減少することが予想されています。
 また全国の空き家は2038年に2000万戸を遥かに上回る可能性があるとのシンクタンクの試算もあるように、今後、地方やかつてベッドタウンと呼ばれた都市郊外において、築年数が古く、駅から遠く、ニーズのない空き家の大幅増加が見込まれています。周囲に空き家が増加すれば景観を阻害し犯罪の温床になりかねないなど、ますます人を寄せ付けない悪循環となります。

オフィス需要は見通ししづらい

オフィス需要がどうなるかは実はまだよくわかりません。IT系など完全リモートワークがしやすい業種はいち早くオフィスを大幅縮小する、中には完全になくすといった動きも見られました。こうした動きは派手に報道されるため目立ちましたが、全体としては限定的でした。
 一方でリモートワーク(在宅勤務)が進展するにつれ、出社人数が例えば従前の半分~7割程度でよいと気がついた企業は多いでしょう。しかし、たとえ出社人数がかつての半分であったとしても、いわゆる「密」を避けるため、2メートル以上離れて着席するといった対策を講じている企業も多く、そうなると意外とオフィスの必要床面積は減らない可能性もあります。
 いずれにしても、即座に移転などの行動に出ている企業は限定的で、コロナを受けた新しい運用を模索しながら様子見をしていたのが、そろそろ業務の効率・生産性などを勘案しながら、自分たちのスタイルを決定していくものと思われます。2022年から一定の動きがあるかも知れません。

弱いエリアがとことん弱くなるだけ

しかしもしそうなった場合でも「大手町・丸の内から企業が逃げ出す!」みたいな極端な話にはならないのです。仮に、オフィスの床面積が全体として減少に向かう場合は「駅から遠い」「設備が古い」といった、弱いところから空室率が増加、賃料が低下していく流れとなるはずです。
 例えば大手町や丸の内、新宿の高層ビル群といったグレードの高いオフィスビルが、企業のオフィス床減少の動きによって空室になるとします。するとより駅から遠いとか、都心から遠い、設備グレードが劣るオフィスから、新規入居者がやってくるわけです。もちろん賃料の交渉は入るでしょう。つまり、空室が増えるといったフェーズの中では、色んな意味で弱いところがとことん弱くなるといった現象が起きるわけです。
 2021年4~5月の緊急事態宣言以降、東京・渋谷区のオフィス空室率が如実に上昇したことが話題を集め、これをもってやはり不動産市場暴落かといった論調が見られましたが、これも大げさな話。そもそも渋谷区のオフィス空室率は1%程度でほとんど空きがなく、入りたくても入れないといった状況がずっと続いていました。それで仕方なく、おとなりの恵比寿や目黒・五反田といった方面へ触手を伸ばし、入居していたのです。

コロナ禍が市場を冷やすには程遠い

渋谷はかつて「ビットバレー」と呼ばれIT系のベンチャー企業が多く、業態柄リモートワークを実施しやすいこともあって、一時的に空室率が6%程度になりましたが、一般的に空室率は5%前後が適正とされています。ほどほどに空きがないと移動できないためです。一時は上昇を続けた渋谷区のオフィス空室率も、現在では落ち着いています。ここでも、強いところはとことん強く、弱いところがとことん弱くなる、といった法則が働いているのです。
 パーソル総合研究所が2021年7~8月、全国の2万人を対象に行った調査では、全国の正社員のテレワーク実施率は27.5%と頭打ち。日本生産性本部が2021年7月に実施した調査でのリモートワークの実施状況は20.4%。これは2020年5月の32%から大幅に減少しています。いずれにしても、コロナ禍が不動産市場全般に冷水を浴びせる状況には程遠いようです。

出典:「今後もマンション価格は絶対に下がらない」業界歴30年のプロがそう断言する理由 プレジデントオンライン

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写真:コンクリートの建物

どんなに不況になっても住むところは必要です。新しくマンションを作るコストが高くなれば中古マンションの需要は増えます。需給関係でマンションの価格は下がらないとなれば購入する人は必ずいると思います。結局、マンション需要は減らないようです。


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