メタバースという言葉をちゃんと理解して使うために

メタバースという言葉、流行っていますね。
そしてみなさん混乱してますよね。
メタバースという言葉がここまで混乱している理由は、違う意味に対して、同じ「メタバース」という言葉が使われたことに起因しています。

言葉の意味というのはどの文脈で使われたかが大切です。
「筆箱」という言葉は筆を入れる箱ですが、もちろん現代において本当に筆を入れている人は少数でしょう。
布で作られたペンを入れる物を筆箱と呼んでも正しいのは、私達がその意味を文脈上了承し、共有しているからです。
ですから、必ずしも原典の意味に沿う必要はなく、共有さえできれば良いという自由があります。

しかし、同じ文脈内で違う意味を混同したり、闇雲に定義を拡張することは混乱を引き起こします。

メタバースを話題に挙げるときに、多くの人が無意識に(もしかしたら意図的に)意味の混同や無限の拡張を使ってしまっています。
この記事では、メタバースという言葉にどのような種類の意味があるのか?どう分類したら定義ができ、会話が成り立つかについて書いていきます。

スノウ・クラッシュのメタバース

スノウ・クラッシュはメタバースの原典ですが、しかし上記の筆箱の例のとおり、会話上無視しても良い存在です。
小説の中のシステムなので、実現が不可能な点もありますし、ある程度のデストピアが実現しなければ同じシステムは産まれてこないでしょう。

しかし、どこかのWebニュースが、スノウ・クラッシュを読んでいないメタバース専門家は偽物である、などと書いたせいで、日本ではもう絶版となったこの本が上巻だけで一時的に49,999円という値をつけたりもしています。
メタバース専門家認定書、5万円也・・・。

この小説から無理やり定義を引っ張り出すなら、メタバースとは社会に広がった仮想空間のことです。
しかし、そもそも、小説の話を現実と混ぜずに、小説は小説として楽しむのが礼儀ですし、あるいは言葉が産まれた歴史の知識として、有名人がここから着想を得たのかと思いを馳せるのに使うべきでしょう。

フォートナイトのメタバース

先に結論を書いておくと、フォートナイト開発Epic Games社のティム・スウィーニーが提唱するメタバースと、旧FacebookであるMeta社のマーク・ザッカーバーグの提唱するメタバースにはかなりの違いがあり、この2つの違いが今のメタバース意味混乱の要因となっています。

フォートナイトはTPSゲームで、サンドボックス要素を含んだバトルロワイヤルゲームです。
ある程度オンラインゲームを遊んだことのある人は理解できる話だと思いますが、長く入り浸っているユーザーは、ときにそのゲームを休止し、ロビーを友だちとのコミュニケーションルームとして利用することがあります。
フォートナイトはこの方向の受け皿をシステム的に用意し、ユーザー同士で島を作ったり、パーティーゲームをしたり、ライブができるようにしたりという機能を近年強化し、これをメタバース化戦略と呼んでいます。

つまり、ゲームのソーシャル化戦略をメタバースと呼んでいるわけです。

ザッカーバーグのメタバース

Meta社のメタバースはこれとは違います。
ザッカーバーグは明確に、身体性のある臨場感こそがメタバースであり、メガネやヘッドマントディスプレイを装着して楽しむもので、モニターで見るものとは違うと明言しています。(2Dで見る手段も別に用意されるようですが)

フォートナイトのVR化は色々と噂されているものの、まだその方針は打ち出されてはいません。
サードパーソン(カメラがキャラクターより上にある)のため、システム上HMDに対応するのは非常に難しくなりますし、そもそもフォートナイトの考えるソーシャル化としてはVRに注力する必要性は薄いでしょう。
実現したとしても、しばらくは、あくまで味の違う遊び方のオプションの1つと考えるべきです。

フォートナイトが友だちと遊ぶソーシャルプラットフォームを目指しているのに対し、Meta社は現実の生活を延長するオープン化した規格である旨の発表もしていて、これも大きな違いです。
(あの旧Facebook社が本当に囲い込みをやめてオープン化するのかどうかは甚だ疑問という意見もありますけどね!)
つまり、意味レイヤーからしての違いがあるわけです。
インターネットに例えるならフォートナイト側はブラウザの新しいサービス機能の提案、Meta社側は新規ネットワークプロトコルの提案、くらいの違いがあります。
もちろん、どちらが上か下かという話ではなく。

2種類のメタバースを混ぜた記事を書いてはいけない

どちらにせよ大切なのは、この2社はどちらもスノウ・クラッシュのメタバースを引用しつつも、その定義は大きく違い、同音異義語であると考えるべきということです。

フォートナイトのほうがメタバースという単語を打ち出すのが早かった一方で、メタバースという単語がいま一世を風靡しているのはザッカーバーグの発表に起因しています。
そしてMeta社のメタバースはすぐに体験するのは難しいのに対し、フォートナイトは無料ですぐ確認できます。

ですから、
「最近Meta社が発表したメタバースが話題ですね。しかしメタバースとは何なのでしょうか?調べてみたところメタバースの例はフォートナイトです。いかがでしたか。」
なんて書く事情はわかりますが、文章内で意味が入れ違っているのでまったく正確ではなく、混乱を引き起こすものです。
やめましょう。

どうぶつの森のメタバース?

さて問題のこれです。
これは意味が無限に拡張された結果のメタバースです。
海外の記事が最初に書いたのが原因と記憶していますが、日本に広まったのはNFTの教科書という書籍のせいのようです。
(僕は確認するために買いましたが、「暗号通貨を使えばプラットフォームをまたいで所有でき、それは既存技術では不可能」などの間違った情報を含む本なので注意してください。)

「和服のデザイン」の話をしているときに、
「日本の工場で作られた服はある意味すべて和服ですよね?」
と言い出す人が居ると、話になりません。文字通り、会話になりません。
和服という単語を出すときに、いちいち「江戸時代まで親しまれてきた日本の伝統的衣装という意味の和服」とか長ったらしいことを言わなければいけないのでしょうか・・・?
「江戸時代の日本でもスーツを着てた人も居ると思うんですけど?」
あなたもう会話に参加しないでいただけますか。

どうぶつの森は、「ある意味メタバース」なのかもしれませんが、「ある意味」というのは、つまり、通常の意味では「違う」ということです。
どうぶつの森開発側がメタバースと名乗ったことも無いですし、スノウ・クラッシュのメタバースとも、Meta社のメタバースとも大きく違います。
しいて言えばフォートナイトのメタバースの方向性には少し近いかもしれないですが・・・それでも、どうぶつの森まで含んでしまったら、MMOの枠ですらなく、すべてのオンライン要素のあるゲームはメタバースということになります。
その場合は「オンラインゲーム」という便利な言葉があるので、どうぞそちらを使ってください。
地形づくりができるから?それはサンドボックスゲームという名前があります。街や生活をシミュレーションできる?ならそれはミニスケープや箱庭系と言います。

そもそも最新作のあつまれどうぶつの森の時点で、常時ネットワーク越しに他人と遊ぶようにも、フレンド以外と会えるようにも設計されていません。
ごくまれにメタバース的な使い方(結婚式を挙げるとか)をする人も居るとしても、メタバースではありません。
「Twitterを政治目的で使う人が居る、つまりTwitterは政治ツールだ」
「いや宗教目的で使う人が居るぞ、Twitterは宗教ツールだ」
などという不毛な定義と同じです。

結論として、どうぶつの森を引き合いに出している記事や書籍はまったく参考になりません。
同じ理由でMinecraftもメタバースではありません。
このあたりの人は、メタバース=サンドボックスゲームだと勘違いしている可能性があります。
極端な例では、3DCGなら全部メタバース、になっているニュースもありますね。

バズワードのメタバース

どうぶつの森で意味を拡張された結果、広報に悩む様々なサービスは「だったら私達もメタバースを名乗れるのでは?」と考え始めました。
「我こそがメタバースである!」と名乗ったもの勝ち地獄の到来です。

メタバース関連のプレスを出すと株価が上がり、広報効果が発生し、場合によっては助成金が狙えるという状況から、無理やりメタバースに関連付けた発表が出始めました。
投資家は自分が持っている株の種類がメタバース関連であると言えば得になるので、幅広い「メタバース関連株一覧」が出回ります。

こうしていかに自分たちがメタバースに関係あるかを語るので、意味がさらに拡張されました。

NFTにおいてこの傾向が激しく、そして問題になる点です。

NFTのメタバース

少なくともザッカーバーグのプレゼンで、NFTは決済方法として対応するとわずかに言及されただけ、かつ、その後公開されたMeta社公式のメタバースでのビジネスチャンスを理解するための3つのポイントにおいても一切言及がありません。
フォートナイトにおいても、NFT対応は明確に否定されています。

そもそもNFTの技術をちゃんと理解していれば、それがべつに仮想空間を構成する機能ではないことがわかるはずです。
NFTが何かということについてはこちらに記事を書いているのでどうぞ御覧ください。

それぞれが、スノウ・クラッシュから要素を拾ってきてメタバースを名乗るのは、タイミング的にかなり我田引水とはいえ、原則的には構わないという意見も確かです。
しかし、文章の最初でザッカーバーグのメタバースについて言及しておきつつ、文章の後半でxR要素の無いNFTゲームのメタバースに話が飛べば、詐欺的文章です。
フォートナイトの話を挙げておきつつ、後半のサービス説明ではチャット機能やソーシャル要素のないゲームを紹介するのも同じく詐欺です。
そんな記事が大量に検索に引っかかっているのが現状です。

この名乗ったもの勝ち地獄の最たるものが、暗号通貨会社のみで構成された、かの悪名名高い日本メタバース協会です。

メタバースを支えるブロックチェーンやNFT(Non Fungible Token)の技術を理解している人が少ない

一般社団法人日本メタバース協会

この文章はあっという間に批判にさらされましたが、メタバース=NFTだと言う人はまだまだ大量に居ます。
Wikipediaのメタバースの項目にも、NFTが必須要素だと書かれたり無関係と書かれたりと混乱が起きています。
言葉の意味をまぜこぜにして、自分の利益のためだけに検索や定義を汚染していくのは本当にやめてほしいことです。

結論

  • メタバースという言葉がわかりにくい原因は2種類、多いときは4、5種類程度の意味が混ざって使われてしまっているからである。

  • 「今話題の」などとザッカーバーグのメタバースなどについて念頭に置く誘導をしつつ、別のメタバースについて書くのは恣意のある詐欺的文章である。

  • まぜるな。

タオルくんでした

おまけ

僕の意見と正確には一致しないんですが、こういう仕分け図もありました
今回言及していない言葉も含まれているので参考にどうぞ