パニック
職場を出て地下鉄に乗る同僚と別れてバス乗り場へ向かう。
ここでやっと携帯を取り出し、着信があることに気付く。
2件。母からメッセージが入っている。
「もしもし~…。もしもし。…もしもし。もしもしー」
延々もしもし。留守電と気付いてないようだ。
何事かあったのか?早速折り返す。
「なんだったんだろう。忘れちゃった。
でも電話はしてるんだよね。まあいいわ。忘れちゃったから」
帰る道すがら寄ろうか?と言ってみたが、これから夕食なのでいいわと言う。
帰宅後に家の電話を見ると、こちらにも留守電が入っていた。
10件。
…ガッツあるなぁ。
こちらは「もしもし」だけではなく、用件が入っていた。
「もしもし、おかあさんですけど、ちょっと見てほしいんだけど。
電話の扱いがよくわからなくなったので、教えてください。…この電話を聞いたら返事ください」
「もしもし。〇子です。電話の扱いがわからないので、ちょっと来てくれる?」
「電話がおかしいの。通じないみたい。…聞こえたら返事をください」
「あのぅ…、わたしですけど、電話の、やり方がよくわからないから見てください。これを聞いたらお返事くださいね。待ってまーす」
というような内容のメッセージが、14:12に始まり15:31までに10件(ちなみに携帯への電話2件もその間にかけていたらしい)。
14:12から14:42までの間に9件(携帯へのものも含めると11件)、30分間、ほぼ3分に1回のペースで電話をかけ、メッセージを残している。
小半時、母はどんなに心細かっただろう。誰も答えない部屋の中で、まるで取り残されたように感じたのではないか。
思いつめるとあっという間に行動してしまうのも、母のような症状の人の特徴らしい。
過去にも、どういう理由かわからないけれどクレジットカードを解約してしまったり、突然思いついてあとから何故そうしたのか本人がわからない行動に出てしまう。徘徊する人がどこか遠い地方で見つかることなどはそういうことらしい。
…鬼電くらい可愛いものだと思おう。
9回目が14:42で最後の15:31までの間に49分間あいてる。
別の事に気を取られるかして、徐々に焦りはおさまってきたのだろう。
夕方にかけた電話では、暢気な調子で「これからごはん」と言っていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?