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公募の応募作品

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公募に応募して落選したものを供養しています。
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#自作小説

第10回W選考委員版「小説でもどうぞ」応募作品:友だちと幼なじみ

第10回W選考委員版「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「さだめ」です。 どうにもイメージをつかみづらいお題でしたが、なんとかがんばりました。 供養しますので楽しんでいただければさいわい。 うたうたい  コンサートホールの舞台に立つ。目の前にはたくさんの観客がいる。  あの人達はみんな、僕の歌を聞きに来たんだ。  ちいさな頃から音楽教室に通っていた。通うと自分で言い出したのか、通うようにと親が言い出したのか、今となってはどっちかわからない。  けれども、音楽教室

第36回「小説でもどうぞ」応募作品:芸術の徒

第36回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「アート」です。 このテーマは個人的にいろいろと思うところがあり、思うところを詰め込んだものになりました。 楽しんでいただければと思います。 芸術の徒  いつものギャラリーから段ボールで梱包した絵を搬出する。今回も私の絵は一枚も売れなかった。  煙草のにおいが充満する小さなカフェの壁面を使ったちいさなギャラリー。そこでは毎月企画展が開催されていて、私はそれらに何度も参加している。  このギャラリーで開催される企画展に参加

第35回「小説でもどうぞ」応募作品:しあわせの名人

第35回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「名人」です。 これも難しいテーマでした。なかなか名人というものがイメージできなかったんですよね。 とはいえ、ほっこりしたお話になりましたので、ぜひお楽しみください。 しあわせの名人  お母さんが消しゴムをカッターで彫っている。消しゴムはんこを作るのが趣味なのだ。  お母さんはとにかく手作りのものが好きなようで、自分で本を作っては、その表紙に手作りのはんこを押したりもしている。  毎月僕のためだけに本を作ってくれて、そん

第34回「小説でもどうぞ」応募作品:ひとかけらのクッキー

第34回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「最後」です。 すぐに思いつきそうなテーマなのに全然思い浮かばず、なかなかに苦労しました。 とはいえ、ほっこりしたお話ですのでぜひお楽しみください。 ひとかけらのクッキー  大皿の上に、クッキーの最後のひとかけらがある。  どうしよう。そう思いながら私は、ちらりとお父さんとお母さんを見た。  テストなどなにかやり遂げたときやお祝いの時、お父さんはいつも大きなクッキーを焼いてくれる。どれくらい大きいかというと、オーブンの

第9回W選考委員版「小説でもどうぞ」応募作品:友だちと幼なじみ

第9回W選考委員版「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「友だち」です。 なんだか難しいテーマでしたががんばりました。 ちょっと消化不良感はありますが…… 友だちと幼なじみ  ちいさな頃から一緒に育った友達がいる。僕が生まれた日に、お父さんがうちに連れてきた柴犬で、当時この子もまだ赤ちゃんだったと聞いている。  僕も友だちも、赤ん坊の頃から一緒に過ごしてきた。小学校に入ってから、友だちと一緒に毎日散歩もした。  友だちはとても元気で優しくて。だから僕は、学校でどんな

第32回「小説でもどうぞ」応募作品:nullの臓器

第32回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「選択」です。 個人的にはお気に入りの出来なのですが、安定の落選です。 なかなか難しいですね。 nullの臓器  ドナーカードの項目すべてにチェックを入れる。死んだあと、僕にとっては自分の内蔵など無用のものだからだ。 「ずいぶんとためらいがないんだね」  僕の話を聞いて、妻が少しだけ悲しそうな顔をする。その妻に、僕は当然のように微笑んで返す。 「当然だよ。死んだら無用のものっていうのもあるし、僕は仮にも医者だ。僕の臓器で

第31回「小説でもどうぞ」応募作品:放課後の化学実験

第31回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「ありがとう」です。 だいぶ個人的な恨みの詰まった作品にはなりましたが、書いてだいぶすっきりしました。 よかったらお楽しみください。 放課後の化学実験  僕と仲のいい生徒がいじめられている。  この子の担任に話しても、気のせいだといって取り合ってもらえないらしく、話せる相手が僕だけらしい。だから、僕はこの子の相談に乗っている。  クラス中から無視されたり、嫌がらせをされたり、悪口を言われたり。中学生くらいだとよくあること

第8回W選考委員版「小説でもどうぞ」応募作品:月のウサギに会いに行こう

第8回W選考委員版「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「悩み」です。 テーマ通り非常に悩んで仕上げた作品です。 いつもとちょっとテイストが違う感じに仕上がったかな~?と思っています。 お楽しみください。 月のウサギに会いに行こう  いつも悩んでいることがある。なにかというと、悩みごとが無いのが私の悩みだ。  なんだかパラドックスめいている。悩みがないのが悩みだなんて。悩みがないならそれに越したことはないのだし、ほんとうなら気に病む必要もないのだろう。  けれども、

第30回「小説でもどうぞ」応募作品:誘導尋問フォーチュン

第30回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「トリック」です。 トリックと言われるとどうしてもミステリーとかを連想してしまうのですが、ミステリーを書くのは無理すぎるのでこのように落ち着きました。 ぜひお楽しみください。 誘導尋問フォーチュン 「すごい、当たってる! そうなんですよ、昔こんなことがあって……」  目の前の客が、占いが当たっているとおどろきながらよろこんでいる。どうやら、私が訊ねた過去の出来事に心当たりがあるようだった。  そしてそのまま現在のことも訊

第29回「小説でもどうぞ」応募作品:役所の書類が倒せない

第29回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「癖」です。 癖と言われてもどう解釈するかなかなか難しいところでした。 とりあえずこんな風に解釈しましたよ。 役所の書類が倒せない  悪癖がなおらない。  私はとにかく書類の類いに手を着けるのが苦手で、どうしても溜め込んでしまう。  仕事の書類は同僚や上司がケツを叩いてくれるからなんとかやれるけれども、役所の書類はほんとうにダメだ。  年度末、確定申告の締め切りが近づいているのに全く手を着けていなくて非常にまずい。これは

第28回「小説でもどうぞ」応募作品:完璧じゃない幸福

第28回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「誓い」です。 誓いと言われても、普段なにか誓うようなことはないからなぁ……と、なんとかひねり出した感じです。 がんばった成果を見ていただけたらうれしいです。 完璧じゃない幸福  右目を失明した。  ある夏の暑い日、人混みを歩いていたら目の前にあった日傘にやられたのだ。  私の右目を日傘で刺したやつは、立ち止まった私に目もくれずそのまま逃げ去っていった。  今思うと卑怯なやつだけれども、その時は痛みと欠けた視界に混乱して

第7回W選考委員版「小説でもどうぞ」応募作品:不完全性定理の神さま

第7回W選考委員版「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「神さま」です。 わりとすんなり産めたのですが、残念な結果でした。 個人的には書きたいことを書けた感じです。 不完全性定理の神さま  週明けの月曜日、昨日行った教会で聞いた話を思い出す。かつて、神さまが存在する確率を計算した人がいるのだそうだ。  でも、どのように計算したのだろう。私は数学どころか数字に弱いので、そのあたり全く想像ができない。なので、数学に詳しい友人に訊いてみることにした。 「すいません、神さま

第27回「小説でもどうぞ」応募作品:自殺の理由

第27回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「病」です。 病というか、病気があまりにも身近なもの過ぎて、逆になにをどう書くか悩みましたね。 悩みましたが、書きはじめるとすんなりいきました。やったぜ。 自殺の理由  俺の兄貴は心の病で病院に通っている。なんでも、勤めていた会社でひどいいじめに遭って辞めたのが原因とのことだった。  兄貴をいじめたやつのことは許せないけれど、それはそれとして、病院通いをはじめてから、兄貴は昔のように元気に過ごしている。  だから、もうい

第26回「小説でもどうぞ」応募作品:アポロn号

第26回「小説でもどうぞ」の応募作品です。 テーマは「冗談」です。 冗談、私自身冗談というものが得意ではないので悩んだのですが、個人的には妥当な着地点にできたかなと思っています。 なお、実際のアポロ計画は20号で打ち切られているそうです。 アポロn号 「月に行ったアポロ11号の乗組員は、そこで真っ白なウサギを見つけたんだよ」  兄さんのその話に僕がおどろくと、兄さんは冗談だよと言ってくすくすと笑った。  兄さんは、宇宙のことを空想して、些細な冗談を言うのが好きだ。  火星