昼下がりのお客さま

遅めの昼食をつくろうと、洗って伏せておいたフライパンに手をかけた時、台所の窓にへばりついている細い緑色の物体が目に映った。どうみても、外ではなく家の中にいる。

バッタだ。

「あかんやろ。勘弁して」

思わず声がでた。
我が家は、小さな家庭菜園があるせいか、蜘蛛やカマキリやカエルがやってきては、家主に無断で家の中を闊歩していることが多い。見つけるたびに、丁寧に退去願うのだが、こちらの目に触れないように住み着くこともあって、ふと見上げると部屋の隅に蜘蛛の巣がなんてこともよくある話。

カマキリくらいの大きさになると、さすがに目に留まるし捕まえやすいけれど、以前トイレの真ん中で干からびたカエル(たぶんアマガエル)が突如現れた時は、一体今までどこに潜んでいたんだ。絶命場所はどこだ。犯人は。教えてコナン君。と言いたかった。

さて、本日のお客様は、バッタだ。

2センチくらいの細身の体系からして、まだ子どものバッタだと思う。今朝収穫した夏野菜についていたのだろう。異世界に連れてこられてさぞかし心細かっただろうな、今助けてあげるからねと、バッタが快適に移動できそうな紙をさがすけれど見つからず、適当な紙が見当たらなかったので、仕方なく今朝支払った村の協議費の領収書を、バッタの足元に差し込んだ。

ぴょーん。

しまった。バッタが、跳ねることを忘れていた。今朝、ナスを暴食するテントウムシダマシを駆除するときの感覚で、ぽろっと落ちてくるものと思っていた。

そう、バッタは跳ねる。

あわてて、そのあたりを捜索。そう遠くまではいっていないはずと凝視していると、いた! フライパンの縁に悠々と立っていらっしゃる。

船の船首に立っているみたいで、ちょっと、かっこいい。

そのまま、フライパンをもって移動しようとフライパンをあげたとたん、

ぴょーん。

学べよと、自分につっこみを入れたくなる。

さて、バッタというとハチミツの瓶にしっかりとへばりついている。ここで瓶を動かせばまた、ぴょーん、だ。慎重に慎重にと、ゆっくり瓶を持ち上げる。ん? ちょっとまてよ。なんだか様子が違う。瓶を持ち上げても、動く様子がない。まさか、ハチミツに足をとられて動けないのか。

チャーンス!

急いで瓶を持って掃き出し窓に移動し、手でやさしく払ってみるけれど、ハチミツの瓶からなかなか離れないバッタ。少々手荒に、ブンブンとではたき落とすと地面へ落下。ようやく退去となった。

この炎天下、畑に緑の木陰はあるけれど、家の中の方が涼しかったのかもしれない、ちょっとかわいそうだったかな。けれど、私に生きる世界があるように、虫には虫の生きる世界がある。頑張れバッタ!

昼下りの小さな来訪者を言葉にしたくなって、久しぶりにnoteを書いてみました。



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