僕とルーツ
東急大井町線の電車に久しぶりに揺られる。
動悸が止まらなかった。
自由が丘で乗り込んできた小学生らしき少年が僕の隣に座った。耳にはワイヤレスのイヤホン。YouTubeを見ていた。流行りを作る世代が何を観ているのか盗み見た。僕が作ったVTRだった。
これで本当にいいのか。と自問自答したVTR。
彼は笑っていた。
僕も耳にイヤホンをしていた。
気が付けばいつも毎度迷子
Error Error Error Error Error
火を灯す暗がりに 毎夜毎夜
イマ イマ イマ イマ
WANIMAのララバイ。
大好きな歌詞が胸に大きな穴を作る。
その穴から彼の空間がもたれ掛かるように染み込んできた。怖かった。
皆、子守唄があるのだろうか。
母には申し訳ないが、僕は無音が今も好きだ。
深い深い水槽に沈んでいくように眠るのが好きだ。
他人のルーツが好きだ。
学歴や関わり合った人物を知るのが好きだ。
大好きな芥川は子供の頃から短編小説が好きだったようだ。WANIMAのKENTAさんはHi-STANDARDをきっかけにMONGOL800、GOINGSTEADY、ロードオブメジャーなどを好んでいたようだ。野田洋次郎さんはBUMP OF CHICKENの大ファンと公言している。KINGGnuはサラブレッド集団。織田信長は幼少期から非常に洒落ていたらしい。井上雄彦さんはシティーハンターでお馴染みの北条司のアシスタントをしていたという。
これら全てが同様に僕を形成している。
そして、隣の名も知らぬ彼を僕が少しだけ形成していた。
歳を重ねるのが、大人になるのが怖いと感じた。
知らぬ間に誰かの人生に触れた手が血で染まっているように感じた。動悸が止まらなかった。
彼はいつの間にか眠っていた。
僕はWANIMAのララバイを繰り返していた。
その顔を見てようやく笑えた。
子守唄を作ったつもりはなかったのに。と。
が、彼のルーツは作っているのかもしれない。
僕は彼よりも先に電車を降りた。
眠る彼の車両が見えなくなるまで見送った。
時代を追い抜かれる肌寒さを感じた。
今を生きている。これだけは間違いなかった。
毎度迷子になるけれど、彼は笑っていた。
それも間違いなかった。
今日はすごく寒い1日でした。
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