メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第165号 腎虚薬処方「三味安腎丸」他─「虚労」章の通し読み ─

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  第165号

    ○ 腎虚薬処方「三味安腎丸」他
      ─「虚労」章の通し読み ─

           ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。さらに腎虚薬処方解説の続きです。処方二つと、二つ目は参照先の項目も読んでしまいます。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)


 (「三味安腎丸」他 p450 下段・雜病篇 虚勞)


 三味安腎丸

      治下虚腎氣不得歸元變見諸證用此
      補腎令其納氣破故紙茴香並炒乳香
  各等分右爲末蜜丸梧子
  大塩湯下三五十丸入門


九味安腎丸

      治腎虚腰痛目眩耳
      聾面黒羸痩方見腰部


 (「九味安腎丸」 p279 上段・外形篇 腰)


九味安腎丸  

      治腎虚腰痛目眩耳聾面黒羸痩胡蘆
      巴破故紙炒川練肉茴香續断各一兩
  半桃仁杏仁山藥白茯苓各一兩右爲末
  蜜丸梧子大空心塩湯下五七十丸三因
      

 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 三味安腎丸

  治下虚、腎氣不得歸元、變見諸證、用此補腎、令其納氣。

  破故紙、茴香並炒、乳香各等分。右爲末、蜜丸梧子大、

  塩湯下三五十丸。『入門』


九味安腎丸

  治腎虚腰痛、目眩耳聾、面黒羸痩。方見腰部。


九味安腎丸  

  治腎虚腰痛、目眩耳聾、面黒羸痩。

  胡蘆巴、破故紙炒、川練肉、茴香、續断各一兩半。

  桃仁、杏仁、山藥、白茯苓各一兩。右爲末、

  蜜丸梧子大、空心、塩湯下五七十丸。『三因』
 


 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


 語法

   用 (もっ)て

令 使役の用法 ・・・ヲシテ~~~ヲ。。。セシム

           ・・・に~~~を。。。させる


 ▲訓読▲(読み下し)


 三味安腎丸(さんみあんじんがん)

  治下虚(げきょ)、腎氣(じんき)元(げん)に

  歸(き)することを得(え)ず、

  變(へん)じて諸證(しょしょう)見(あら)はるを治(ち)す。

  此(これ)を用(もっ)て腎(じん)を補(おぎな)ひ、

  其(そ)れをして氣(き)を納(おさ)めしむ。

  破故紙(ほごし)、茴香(ういきょう)並(ならび)に炒(い)り、

  乳香(にゅうこう)各等分(かくとうぶん)。

  右(みぎ)末(まつ)と爲(な)し、

  蜜(みつ)にて梧子(ごし)の大(だい)に丸(まる)め、

  塩湯(しおゆ)にて下(くだ)すこと三五十丸(さんごじゅうがん)。

  『入門(にゅうもん)』


九味安腎丸(くみあんじんがん)

  腎虚腰痛(じんきょようつう)、目(め)眩(くら)み

  耳(みみ)聾(し)ひ、面(めん)黒(くろ)く

  羸痩(るいそう)するを治す。方(ほう)は腰部(ようぶ)に見(み)ゆ。


九味安腎丸(くみあんじんがん)  

  腎虚腰痛(じんきょようつう)、目(め)眩(くら)み

  耳(みみ)聾(し)ひ、面(めん)黒(くろ)く

  羸痩(るいそう)するを治す。

  胡蘆巴(ころは)、破故紙炒(ほごししゃ)、川練肉(せんれんにく)、

  茴香(ういきょう)、續断(ぞくだん)各一兩半(かくいちりょうはん)。

  桃仁(とうにん)、杏仁(きょうにん)、山藥(さんやく)、

  白茯苓(びゃくぶくりょう)各一兩(かくいちりょう)。

  右(みぎ)末(まつ)と爲(な)し、

  蜜(みつ)にて梧子(ごし)の大(だい)に丸(まる)め、

  空心(くうしん)、塩湯(しおゆ)にて下(くだ)すこと

  五七十丸(ごしちじゅうがん)。『三因(さんいん)』


 ■現代語訳■


 三味安腎丸(さんみあんじんがん)

  下焦が虚し、腎気が元の座に帰ることができず、

  変じて様々な証が生じる者を治する。

  この処方は腎を補うことで気を納めさせる。

  破故紙、茴香とを炒り、乳香、以上を等分。

  以上を粉末にし、蜜で梧桐の種の大きさに丸め、

  塩湯にて三十から五十丸を服用する。『入門』


九味安腎丸(くみあんじんがん)

  腎虚により腰痛、目が眩み耳は聾い、顔面は黒く、

  身体が羸痩する者を治する。処方は腰部参照。


九味安腎丸(くみあんじんがん)  

  腎虚により腰痛、目が眩み耳は聾い、顔面は黒く、

  身体が羸痩する者を治する。

  胡蘆巴、炒った破故紙、川練肉、茴香、続断各一両半。

  桃仁、杏仁、山薬、白茯苓各一両

  蜜で梧桐の種の大きさに丸め、

  空腹時に塩湯にて五十から七十丸を服用する。

  『三因(さんいん)』

 
 ★解説★
 
 腎虚薬の具体的な処方解説の続きです。二つ目の九味安腎丸は本文が示すように別項参照になっていて、「腰」の章のうち「腎虚腰痛」の項目に記載があります。本文が短いですのでついでに参照先も読むことにしました。
 導入部分は同じで、生薬と製法とが追記されている、こちら視点ではそれが抜かれていることがわかります。

 東医宝鑑は全体でひとつの宇宙として編纂されていて常に相互参照すべきことは何度も書きましたが、このように本文がそれを示してくれているわけです。

 この場合は単にスペースの節約というだけでなく、腰の章を参照し、そちらの周辺も読むことでより相互理解が進むであろうことも期しての構成ではと考えます。

 
 先行訳について、ここでもいくつかの問題点がありますが、まず一つ目の三味安腎丸では、「下虚」を「下が虚し」としています。下は下に違いないのですが、単に「下が虚し」では「下ってどこ?」という感じになってしまいますね。やはりここは「下焦」と明記した方がよいのではと思います。ただこの「下」が何かの検討からが、本格的な読みには必要となってきますね。

 そしてより大きな問題点として「諸證」を「何かの病」と訳している点です。「何かの病」では何の病かわからず、処方を用いる指標になり得ませんよね。こんなひどい訳もあるのですね。

前号の「補腎養脾丸」では先行訳が「治虚勞諸證」を「虚労のあらゆる症を治す。」と訳していることの問題を見ました。

 それがさらに、


  補腎養脾丸では、「諸證 = あらゆる症」

  三味安腎丸では、「諸證 = 何かの病」


 と、一つの処方を挟んですぐ間近の文章での同じ語が、このような全くの不統一の訳になっているわけです。

 訳を見ただけでは両者が同じ「諸證」であることを類推することはまず不可能ですね。そしてこの訳は両方とも問題があります。幾重にも吟味不足の訳ということが言えそうです。

 二つ目の九味安腎丸では


  腎虚腰痛、目が眩み耳は聾い、顔面は黒く、

  身体が羸痩する者を治する。


 とある文章を「腎虚を治す。」とだけ記して他は省略しています。やはりここは省略してはいけない部分でしょう。ただ参照先の腰の項目には


  腎虚腰痛で目がくらみ、耳聾・面黒などのときに使う。

 
 としてありますので、そちらを見ればわかるという趣旨なのでしょうか。
 ただ両者が同じ文であることが編者さんの意図と思い、省略はすべきではないと思います。

 また項目のうち「羸痩」を「など」で片づけてしまっているのも不思議です。

 さらに、原文では「方見腰部」と親切に参照先を詳しくしていしてあるにも関わらず、先行訳はこれを「治方は前述」としてしまっています。これではよっぽどの記憶力のある方でない限り、「前述」部分を探すのが大変ですよね。これも原文の趣旨を変えているのみならず、上にも書いたように相互参照によって読み深めるべきを期したであろう編者さんの意図も消してしまっているわけで、ここも原文の趣旨を正確に反映させるべきでしょう。


 ◆ 編集後記

 虚勞の項目の続きと、参照先も一緒に訳しました。原文をお持ちの方は、参照先の前後もお読みいただくと虚勞の項目を線上に読むのとは違った発見があるかもしれません。                      

             (2016.04.23.2021.10.23.改訂 第166号)
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