一番の幸せ

僕と千佳ちゃんは2人暮らし、所謂同棲というものをしている。僕は千佳ちゃんのことが大好きだし、千佳ちゃんも僕のことが大好きだ。毎日美味しいご飯を作ってくれて、一緒に散歩に行ってくれて、同じ布団で一緒に寝てくれる。ころころと変わる千佳ちゃんの表情を見るのが僕の日課だった。



「ねぇ、今日は海に行ってみる?」

千佳ちゃんがきらきらした目で僕を見つめてくる。疑問形にしているが、もう千佳ちゃんの頭の中には"行く"以外の選択肢はないんだろう。そういうところもかわいいな、と思う。もちろんだよ、と返事をすると、千佳ちゃんは嬉しそうに笑った。



千佳ちゃんが運転席で、僕が助手席。僕は運転ができないから、遠くに行く時はいつも千佳ちゃんが運転してくれる。運転している時の真剣な表情もかわいいので好きだ。お洒落なカフェやかわいい雑貨屋さんの前を通った時に一瞬目が釘付けになって、すぐ我に返って運転に集中するところも、好きなアーティストの音楽を流しながら鼻歌を歌うところも、全部。千佳ちゃんが嬉しそうな顔をしていたら僕まで嬉しくなるんだ。まあ、言わないけど。というか、言えないけど。



「わぁーっ!ほらこっち、綺麗!」

夕日が沈みかけている水平線、オレンジの光が反射してきらきら細かく煌めく海面が眩しい。そんなのお構いなしに駆けていく千佳ちゃんは今日も元気だ。普通は僕の方が元気なもんなんじゃないのか、と思ったが、僕は生憎そういう性格ではない。

そんなに走ったら危ないよ、とワンピースの裾をくい、と引っ張ると、

「心配してくれてるの?優しいねえ」

と千佳ちゃんが頬を撫でてくれた。それが気持ちよくてすり、と擦り寄ると、千佳ちゃんは僕を抱きしめた。

「最近仕事で嫌なことが続いててしんどかったんだけどね、君がいてくれるから頑張れるんだよ。大袈裟じゃなくてほんとにね」

千佳ちゃんの帰りが最近遅いことも、あまりお話せずに倒れるように寝てしまうのも、全部"仕事"とやらのせいだったのか。"仕事"が何なのかよく分からないが、千佳ちゃんを苦しめているということはきっと悪いやつなんだろう。そんなやつ僕がやっつけてあげるよ、と言う。

「ふふ、慰めてくれてるの?ありがとうコロ」

僕は大好きな千佳ちゃんに、元気よく返事をした。

「ワン!」

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