マガジンのカバー画像

ジョグジャカルタ思い出し日記|西田有里

13
インドネシアの民族音楽ガムランの奏者であり伝統芸能ワヤンの活動を行う西田有里が2000年代終わりに過ごしたジョグジャカルタでの日常を綴る。路地裏にあった家とそこに住む人々との可笑…
運営しているクリエイター

#ワヤン

ジョグジャカルタ思い出し日⑫|西田有

老婆たち  いつものようにマタラム通りの家に遊びに来たら、知らない老婆が洗濯物の山の中にちょこんと座っていた。ぎこちない手つきでものすごくゆっくり洗濯物にアイロンをかけている。  ラストゥリさんに聞いてみると、お手伝いさんに来てもらうことにした、とのことだった。ラストゥリさん家は育ち盛りのやんちゃな息子が二人いる上に、ルジャールじいさん夫妻とナナンの分の洗濯もあって洗濯物の量が多いから家事を一手に引き受けているラストゥリさんは想像以上に大変だったのかもしれない。私もこのとこ

ジョグジャカルタ思い出し日記⑩|西田有里

なんでも屋さん   ジョグジャカルタではどの町内にもちょっとした家屋の修繕やリフォームなど何でも器用にやってくれる人が一人はいるんじゃないかと思う。私がジョグジャで最初に下宿した家でも、雨漏りした時や屋根にネズミが挟まって死んでしまった時など、大家さんに助けを求めに行ったら、すぐに近所の手先の器用なお兄さんが呼ばれて、あっという間に屋根に上って直してくれた。もちろんそのお兄さんに修理にかかった費用や日当はお支払いするけど、彼は工務店や内装業の会社を営んでいるというわけではな

ジョグジャカルタ思い出し日記⑨|西田有里

仕立て屋さん  ジョグジャには仕立て屋さんがたくさんいる。布地を売る店もたくさんあって、ちょっと余所行きの服を仕立てたり、何かの行事があるときに参加者全員でお揃いの服を仕立てたり、ということが日常的に行われている。立派な店舗を構えているお店もあれば、近所の知り合いの奥さんが自宅で他の仕事の合間にやっているような仕立て屋さんもあり、金額もクオリティーも様々とはいえ、よほど特殊なオーダーでない限り既製品の服を買うのと大差ない値段で気軽に自分の体形や好みにあった服をオーダーメイド

ジョグジャカルタ思い出し日記⑧|西田有里

屋台のインスタントラーメンと家の冷蔵庫  ジョグジャカルタの街中には軽食や飲み物を出してくれるアンクリンガンと呼ばれる屋台がたくさんあることは以前にも触れたけど、マタラム通りの道端にはアンクリンガンがいくつも営業していた。だいたいどこも似たようなサービスのお店ではあるけれど、営業時間が違ったりメニューが違ったりとそれぞれにちょっとした特徴があって、似たような店が目と鼻の先にいくつもあるにも関わらず競争が激化することもなく、それぞれにうまく棲み分けられているようだった。 ルジ

ジョグジャカルタ思い出し日記⑥|西田有里

来客 ルジャールじいさんの家は毎日とにかく来客がとても多かった。観光地としても有名なマリオボロ通りから歩いてすぐという便利な立地のせいもあるだろうし、ルジャールじいさんがワヤン人形作家としての仕事が絶好調な時期だったということもあるだろうが、何より誰に対しても気さくなルジャールじいさんの人柄もあるのだろう。  仕事関係でやってくる人は、ワヤンを注文するお客さん、ワヤンの材料を持ってきてくれる業者の人や作業を手伝ってくれている職人さん、メディアの取材の人、イベントの打ち合わせ

ジョグジャカルタ思い出し日記②|西田有里

お茶  ナナンのおじいさんであるルジャールじいさんは、影絵芝居ワヤンの人形を作る作家だ。影絵芝居ワヤンの人形は、水牛の皮でできていて、一つの人形が出来上がるまでには材料の皮の加工・透かし彫り・彩色など様々な工程があるが、ルジャールじいさんは影絵人形のデザイン画作成と、出来上がった人形への彩色の工程を家で行っている。地元ではなかなかの有名人で、外国からの注文も多く、オランダの歴史上の人物とか、オバマ大統領とか、動物とか部屋にはいろいろな作りかけの影絵人形がぶら下がっている。2