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「凱旋門挑戦後に馬が変わる」を検証

競馬予想家で著名なキムラヨウヘイ氏とX上でやり取りをする機会がありました。

きっかけは、以下のポストです。

これは対して、違和感を覚えた私は以下のポストをリプライしました。

キムラヨウヘイ氏は、ドウデュースの天皇賞秋の敗因を凱旋門賞に関連付けていらっしゃるようですが、ご存じのとおり、私は主に血統面で天皇賞秋では完全に消してました。そしてジャパンカップでは、距離延長で好走するかもしれないとして印を回しました。個人的な見解のとおりの結果でしたので、凱旋門賞云々は違うだろうと思った次第です。(本当に私の血統分析が正しくてドウデュースが凡走したのかは誰も証明できませんが、少なくとも凱旋門賞云々を持ち出さずとも凡走を予見できたことは事実です。)

そして


という返信を頂戴しましたので、自分自身で調べました。

まず、14年以降と言わず2000年以降で、日本馬で凱旋門賞に出走した馬を調べました。※12年アヴェンティーノを除きます。

<2002年~2013年>

<2014年~2022年>

<全体的な印象>
・凱旋門賞のタフさを意識したのが、ステイヤータイプ(3000m以上好走馬)が多い
 マンハッタンカフェ
 ヒルノダムール
 ゴールドシップ
 クリンチャー
 フィエールマン
 ディープボンド
 タイトルホルダー 等
・3歳で挑戦する場合はダービー馬が多い
 キズナ
 マカヒキ
 ドウデュース
・凱旋門賞後は数戦で引退する馬が多い
・凱旋門賞後は全体的に成績が下降する馬が多い

そして、凱旋門賞の前と後で「東京」と「中山」の成績を比較した結果ですが、個人的な印象は「さほど変わらない」です。
以下で凱旋門賞後も、東京と中山を走った馬に限ってみていきます。

■2004年 タップダンスシチー
 確かに凱旋門賞後は東京で好走してませんが、東京コースを走ったのは8歳7月以降で、それ以降はどのレースでも好走していません。帰国直後の有馬記念を好走してますが、これで東京が苦手になったとは言えないと思います。

■2006年 ディープインパクト
帰国後、どちらのコースでも好走しています。

■2008年 メイショウサムソン
帰国後、どちらのコースでも好走してません。

■2010年 ヴィクトワールピサ
帰国後中山コースで2勝してますが、そもそも皐月賞馬でダービーでは3着だった馬です。中山コース向きの馬だと考えられます。

■2012年 オルフェーヴル
帰国後、どちらのコースでも好走してます。

■2014年 ジャスタウェイ
帰国後むしろ東京で好走しています。

■2014年 ゴールドシップ
帰国後中山コースで3着が1回ありますが、元々東京コースは苦手な馬です。

■2016年 マカヒキ
帰国後、どちらの好走もありませんが、少ないとも東京では4着が2回あります。

■2017年 サトノダイヤモンド
帰国後、どちらも凡走しています。

■2019年 キセキ
帰国後、どちらも凡走しています。

■2019年 ブラストワンピース
帰国後、AJCCを勝っていますが、元々G1ではダービー5着、有馬記念1着の馬です。(目黒記念でも8着)
これで東京が苦手になったと言えるのでしょうか?

■2019年 フィエールマン
帰国後、どちらも好走しています。

■2021年 ディープボンド
帰国後、確かに中山コースで好走し、東京コースで凡走してます。
しかしながら行く前から東京コースで3着以内は0回です。
これで東京が苦手になったと判断するのは違和感しかないです。

■2022年 タイトルホルダー
帰国後、明らかに中山コースでの成績が良いですが、それは行く前からです。

以上が、帰国後も東京と中山コースを走った全頭の結果です。
これで「凱旋門賞後は馬が変わって東京コースが苦手になる」と結論付けるのは暴論ではないでしょうか。


では、何故キムラヨウヘイ氏のデータでは中山の方が好成績に見えたのかを説明していきます。
まず、氏のデータに合わせて14年以降に凱旋門賞後に東京コースを走った馬とその成績です。

(キムラヨウヘイ氏のデータと母数に違いますが、恐らく氏のデータで抜け落ちがあると思われます。)
ポイントはピンク色に塗ったマカヒキです。
東京コースを8回走って1回も3着以内がありません。これが大きく全体の成績を下げています。
マカヒキを抜いた成績が表の一番下にあります。


次に凱旋門賞後に中山コースを走った馬と結果の一覧です。

(こちらもキムラヨウヘイ氏のデータと母数に違いがありますが、恐らく氏のデータで抜け落ちがあるんか、凱旋門賞に2回出走した馬の取り扱いの違いと思われます。)

マカヒキを抜いたデータの比較です。

確かに中山コースの方が多少成績が良いですが、「馬が変わった」と言えるほどの差異は個人的に感じません。また、出走数が東京9回に対して、中山コースは20回です。これは調教師側が自分の馬は中山向きと判断した可能性が考えられます。この推測が成り立つならば、そもそも凱旋門賞に向かう馬は、調教師側が東京より中山向きと判断した馬が多いとも考えられます。
(帰国後の初戦をJCか有馬記念で有馬記念を選択する馬が多いという事も考えられます。)
それに、帰国後の中山コースの成績も、個別の馬を見ていけば特定の馬が集中的に好走歴を持っており、これをもって凱旋門賞帰りの馬が中山コースで好走が期待できると判断するのは危険だと思います。

以上の点から、私の判断は「凱旋門賞で馬が変わる」とは、言えないと結論付けます。

そもそも、凱旋門賞用の調教なるものがどんなものかはわかりませんが、凱旋門賞に出走する馬の調教は皆どこの調教師も同じような(馬質が変わる)調教を行うのでしょうか。そして、調教で変わったのなら、また調教で元に戻すことができないのは何故なんでしょうか。いろいろ疑問が多すぎます。国内でも様々なコースがあるのに、凱旋門賞だけ取り立てて「馬が変わる」という理屈も理解しにくいです。


それと以下の返信も頂戴したので、私なりの回答をさせていただきます。
まず、私のポスト

それに対するキムラヨウヘイ氏のリプライ


まず、大前提として「根幹距離(氏はコースという捉え方をされていますが、私にはその定義の違いがわかりません)馬」「非根幹距離馬」という説が成り立つには、数多くの馬がその傾向を示していないと成立しえないと思います。
個人的には半数以上が望ましいですが、最低でも半数近くの馬が「根幹距離馬」「非根幹距離馬」の定義に合致している傾向を示している必要があると考えます。たまいる程度ではダメだと思います(個人的な基準なので人によって異なることもあると思いますが)。

但し、確かにたまに根幹距離が得意そうに見える馬がいるのも事実です。
それについて解説します。

まず、中央競馬の競馬の全10場で似たコース形態の競馬場があります。
例えば「函館」「福島」「小倉」です。小回りの直線の短いコースですね。
内回りを加えるならば(中山内回り等)もっと増えます。これらは似た適性が問われると思います。
コース形状はレースラップに大きく影響を与え、適性に影響を与えます。
東京競馬場で速い上りが必要なのは、最後の直線が長いからです。
また、殆どの競馬場において例えば1800mや2000mのスタート地点は似た位置にあります。

以下は函館競馬場のコース図ですが、1800mはスタンド側の中間付近、2000mは更に200m下がった位置。

東京や新潟外回り、阪神外回り等の一部を除き、だいたい似ています。

一般的にレースラップは、「直線が長いほどラップは速く」なります。
例えば、福島1800mの3歳以上2勝C(良)の最初の3Fの平均タイムは36.30(10年以降16R)ですが、2000mの最初の3Fの平均タイムは36.18(10年以降8R)です。つまり全体距離の長い2000mの方が平均前3Fタイムは速くなります。これはスタート後の直線が長いためです。

なので、一般的に1周する1800mのコースのレースラップは
スタート後(遅い)>1角2角(遅い)>向こう正面(非常に速い)>3角4角(速い)※後3F平均35.71という流れになります。
いわゆるロングスパート戦になりやすいです。
(平均的にこうなるという話で当然レースごとにペースは異ります)

しかし2000mの場合は
スタート後(速い)>1角2角(遅い)>向こう正面(遅い)※スタートにスタミナを消費しているため>3角4角(速い)※後3F平均35.26
となります。スタート後の速いペースが影響して、その後のレースラップに影響を与えます。

これが、1800mで好走するけど、2000mでイマイチな馬がいる理由です。
(逆もしかり)、同じコースでも1800mが得意な馬と2000mが得意な馬がいるのは、求めらえる適性が異なるからです。
個人的には(大まかな分類で)平均ペースの場合
小回り芝1800m 前半ゆっくり目の後半ロングスパート戦が得意な馬向き
        (差し馬が脚を溜めにくいので先行馬有利傾向)
小回り芝2000m 中間が緩んで脚を溜められる差し馬向き
        
と捉えています。

ならば「根幹距離」「非根幹距離」は成立するんじゃないかと考える方もいると思いますが、それは違います。この理論は距離で一律にくくっています。ここがこの理論の最もおかしな点です。
適性に影響を与ええているのは、距離ではなくコース形状です。
全くコース形状が異なる東京1800mも阪神1800mも福島1800mも似た適性が求めらるという考え方は、暴論です。
東京1800mは2角のポケットスタートですぐコーナーになります。その後向こう正面の長い直線になります。阪神1800mは2角の引き込み奥からスタートし、スタート後から長い直線が続き3角まで600m以上あります。
当然ラレースラップも大きく異なり、小回りの1800mとは全く異なる適性が求めらます。

そもそもレースラップの分析を行っていれば、同じコースでもハイペースやスローペースで求められる適性が異なることがわかります。
それらを全て無視して「根幹距離得意馬」「非根幹距離得意馬」とカテゴライズするのは、あまり頭の良い考えかたでは無いと私自身は考えます。

以上を持ってキムラヨウヘイ氏への反証とさせていただきます。



最後にキムラヨウヘイ様への老婆心ながらの助言です。
競馬予想家としてかなり有名な方で注目も多いと思います。
その割に発言が迂闊(軽はずみ)すぎます。
誰かと議論をしている際に、確かめもせずに「思い込み」「印象」での発言は、相手が性格が悪ければ揚げ足を取られてぼこぼこにされると思います。
以下は最も揚げ足を取られやすいと思った3点です。
●「凱旋門挑戦後に馬が変わる」
 ⇒これだと全ての馬が変わるという意味になる
  せめて「凱旋門挑戦後に変わる馬もいる」という程度の表現にするべきかと思います。断定するには相応の根拠が必要です。

●「戦績比較については先ほどの返信の通りです(パット見で歴然
 ⇒これも確かめもせずに軽はずみな発言だと思います。
  争点のある議論の根拠で「ぱっと見」等とは使うのは非常に危険です。
  それに実際に調べると、上記に示したように歴然とはとても言えません。

●「凱旋門賞に挑戦するほどの馬ですからダービー馬2頭も含めて行く前は東京G1で活躍していた馬が多数」
 ⇒これも「活躍」の定義次第ですが、確かめもせずに迂闊な発言だと思います。
<東京芝G1で3着以内で凱旋門賞に出走した馬>
※凱旋門賞前
ハープスター
ジャスタウェイ
マカヒキ
サトノダイヤモンド
キセキ
クロノジェネシス
ドウデュース    計7頭/16頭

<菊花賞・阪神大賞典・天皇賞春3着以内で凱旋門賞に出走した馬>
※凱旋門賞前
ゴールドシップ
サトノダイヤモンド
サトノノブレス
クリンチャー
キセキ
フィエールマン
ディープボンド
タイトルホルダー   計8頭/16頭

16頭中7頭が多数かどうかは置いておいても、ステイヤータイプの方が多いじゃないかと突っ込まれる可能性があります。
ご注意ください。
有名で注目を集めることが多いだけに、(揚げ足を取られない様に)慎重な発言を心がけた方が良いと思います。
そしていろいろ申しげましたが、キムラヨウヘイ氏の今後のご活躍をお祈り申し上げます。


★もし今回提示したデータに間違いなどがありましたらご指摘ください。
お詫びして訂正させていただきます。





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