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『八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。』読書感想

はじめに

 今回は天沢夏月先生の作品『八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。』を読んだ感想を書きたいと思います。よろしくお願いします。いきなりですが、注意を記させて頂きます。今回の記事にはネタバレが含まれていますので、お読みの際には注意してください(未読の方は特に)。

作品の冒頭について

 今作品は、ポエム(ポエムで合ってますか?)から始まります。

八月末の空。
終末を彷彿とさせる空。
もし世界が、
こんなふうに穏やかに終わるのなら、
それもいいと思った。

八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。

 プロローグでポエムが綴られる作品は良いものです。エピローグでもこのポエムが書かれているのですが(少し文は違いますが)、最初に読んだ時と最後に読んだ時とでは、同じ文であっても感じ方が違うのです。読了後の感慨深さ……「この文章はこういう意味だったのか!」となる展開が非常に良かったです。
 読んでいる最中に「サマータイム・アイスバーグ」もポエムで始まったな~なんて思ったので、こういう始り方は定番なんだなと勉強させて頂きました。自分もいずれ、作品を象徴するような文章を冒頭に置くようなそんな書き方をしてみたいものです。

 今作品は、主人公である成吾が成人式を契機に生まれ故郷へと久々に帰省するというシーンから始まります。彼は高校時代に付き合っていた彼女・葵透子の死から逃げるように、大学へ通うという理由をつけて上京していました。その設定を最初に開示してくれるお陰で、とてもスムーズに主人公に感情移入することができました。

 成吾の親友である多仁が良いキャラで、暗い感情を引きずっている成吾の緩衝材といいますか……空気が重くなり過ぎないよう配慮をしてくれるキャラでした。傷心している成吾を気遣う多仁の台詞一つひとつがとても染みます。冒頭を読んだだけで「こいつはいい奴なんだな」と思わせてくれるのがいいですね。また、成吾が踏み出せない一歩を踏み出せるようにしてくれるので、物語を牽引する役目を担っているキャラなんだなとも感じました。

作品の見どころについて

 今作品のキーは交換ノートです。高校時代に成吾と透子がお互いの気持ちを書き記し合ったノートで、現在の成吾にとっては淡い恋の象徴となっています。ペースメーカーを埋めているため携帯を持つことができない透子にとっては、文字で言葉のやりとりをすることが新鮮に感じられるという流れが非常に良かったです。今の時代、ノートに思いの丈をぶつけるような男女なんてあまりいないでしょうから、展開に納得がいくような理由があって良かったなとも感じました。

 普段は無口であまり気持ちを表に出すことをしない成吾が、ノートの上では饒舌で純粋な気持ちが綴られているというのも良かったです。多仁を含む男子とつるんでいてもノリが良くない彼が、初めての恋に必死に向き合おうとしているので、とても可愛らしく感じました。等身大といいますか、良い意味で高校生らしさが出ていました。

 今作品の一番面白い要素といいますか、インパクトのある設定として「交換ノートを通じて成吾が四年前の透子とやりとりをすることができる」という不思議な要素があります。まだ生きていた頃の透子に死んでしまう未来を回避してもらおうと、未来から成吾が助言するという流れです。「過去を変えたら自分と透子が付き合っていたという事実さえなくなってしまうかもしれない」そんな可能性に怯えながらも、悲惨な運命を変えようと成吾が努力する流れが非常に面白かったです。

作品の構成について

 今作品は「現在→過去→現在→過去」といった形で交互に時間軸が入れ替わって物語が進行します。現在の失意の底にいる成吾と、透子とお付き合いをして浮かれている成吾の対比がとてもよく表されているな、と読んでいる最中は思っていたのですが、読了後にこの物語の進行方法の意味に気が付きました。

 現在と過去を交互に読者に見せることで、二人がノートを通じてやりとりをしている様をわかりやすく表現していたのだと。もっと言えば、振れ幅が大きい成吾の気持ちに読者が寄り添えるような形にしてくれていたのだと感じました。そして、海で亡くなってしまった透子の気持ちが、波に乗って成吾の元へやって来ては帰っていってしまう様も表しているのかもしれないな、とも思いました。

最後に

 切なさ全開の恋愛作品ですが、成吾が透子の死を受け止めて前を向けるようになるまでの流れがとても面白く、わかりやすく、心地よく表現されている作品でした。大切な人の死にどう向き合うべきなのか。それを教えてくれる作品だと思います。とても素晴らしい物語でした。

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