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音が消える日

細雪(ささめゆき)の降る日
音が消える日
風が粉雪を巻き上げ、世界は真っ白に塗り替えられる
牡丹雪(ぼたんゆき)だったそれは、
しんしんと降り続け

やがて底冷えする寒さと共に細かくなっていく
さらさらとふる乾雪(かんせつ)が
あたり一面を あっという間に銀世界へ変えてしまった
キシキシと足下の雪が金属音を奏でる
足を動かす度につま先で新雪(しんせつ)が
軽やかに舞う
ふわりふわりと笑いながら

振り返ると、歩いてきたはずの足跡が消えていた
風花(かざばな)が雪紋(せつもん)を描いて
足跡を消してしまったのだ
吐く息も真っ白に凍らせて北風が流れていく
眉についた小さなつららを指で払い
風に踊る雪が首筋を撫でぬよう、
首をすくめてマフラーの中に顔を埋(うず)める

こんな凍(こご)える日は、
良くない事を思い出してしまう
チリチリと寒さで痛む頬と、
かじかんだ指先のにぶい痛み

嗚呼、薪ストーブの中で舞う火の粉が懐かしい
うちへ帰ろう
熱い珈琲を淹れよう
音が消えるこんな日は
薪ストーブの前に陣取って、熱い珈琲を飲みながら
読みかけの小説でも読もう
薪のはぜる音と風の音を聞きながら…


(おわり)

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