松野さんと河合さん7
「河合さんが残業なんて珍しいですね」
一緒にお店を出た、塚本さんが言う。
「そうですね。私も久しぶりに残業しているの見ました」
「明日、河合さんお休みでよかったですね」
「確かに。明日も仕事だと思うと私は残業したくなくなります」
「私もです」
そんな話をして、私と塚本さんは車に乗り込んだ。
キーボードを打つ音だけが響いている。
存在感を出来るだけ消して、私は河合さんの視界に入ってるはずの場所に座っている。
いつもの河合さんならとっくに気付いてくれていると思う。
これ、早く渡さなきゃ冷えちゃうんだけどなぁ。
うーん、声をかけるタイミングを見失った。
ぐぅ~~~っっっ…
「……腹減ったぁ……」
「ふふっ…」
「誰っ!?」
ざっ!という効果音がついてそうな勢いで河合さんがこちらを見た。
「私です。笑ってごめんなさい」
言いつつまだ笑っているけども。
「松野さんか、ならいいや」
「ありがとうございます。これ、どうぞ」
ずっと持っていた紙袋を差し出す。
「この間行ったお店、覚えててくれたんですか?」
「はい。ほうじ茶ラテとっても美味しかったので」
河合さんにはカフェラテと、近所のお弁当屋さんのチーズハンバーグ。
「松野さんのほうじ茶ラテとお弁当は?」
「ないですよ?もう帰りますし、家で食べます」
本当は自分の分も買って車に置いてきた。
「一緒に食べたかったです」
「子どもか」
「ご飯は誰かと食べた方が美味しいですもん」
「それは分かりますけど、あんまり長く居られないですし」
誰に見られるか分からないしね。
「じゃあ帰ります。あんまり無理しないで下さいね」
「ありがとうございます。なるべく早く帰ります」
お互いちゃんと目を見て、うんうんと頷く。
それから私はお店を出て、車に乗り込んだ。
さぁ、早く帰ろう。
((一緒にご飯食べたかったなぁ…))
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