ワールドエンドヒーローズ、始めから終わりに向かっていた最高の作品へ寄せて




いつの間に私はnoteを登録していたのだろう。Twitterと連動したらログインできて『登録から4周年です!』って通知が出た。そんなに経つの?

noteは記事を読むばかりで書く事は一切してなかったけど、今回どうしても、どうしても筆を取りたくて初めてnoteを書いる。普段は二次創作で文字書きをしているから、なんかこう、noteっぽい文は苦手ですし、リンクもロクに貼れない拙さですが、それでも書かせてください。

先日、大好きなソシャゲがサービス終了を発表した。大好きというか、尊敬の念を抱いてるほどのゲームだった。

https://twitter.com/worldendheroes/status/1265927513579991041?s=21

「ワールドエンドヒーローズ」、通称ワヒロ。スクエアが2018年11月13日にローンチした育成型RPGだ。

とりあえず、私とワヒロの思い出から、どこがいいのかを、つらつらと書かせてもらう。

私がこのゲームを知ったのはリリース直前だったと思う。大好きなイラストレーターのAKIRA氏がキャラデザのゲームが始まる。AKIRA氏自身がリツイートされたのを拝見した気がする。そしてキャラクターを検索してびっくりした。AKIRA氏がデザインされた他ゲームのキャラクターにそっくりなキャラが居たからだ。うわっこの子、あの子じゃん!!他の子もほんのり別のあんなキャラこんなキャラに見える!

そんな不純な同期でインストールした。

サービス開始日は全然ダウンロードできず、4日後にやっとインストールしていた。スクショが残っている。今見返したら、やけに多くて驚いた。気になっているキャラがすぐガチャで出たからだろうか。いや多分、その時既にハマっていたのかもしれない。だって、しょっぱなのストーリーが、ものすごく面白かったからだ。

私はそれまで、ソシャゲの経験がほとんどない人だった。ソシャゲどころか、ゲームもほとんどやらない人生を送ってきた。おばちゃんと呼ばれる歳に入ってるせいか、続けてるのは刀剣乱舞とすみっコぐらしのパズルゲームぐらい。刀剣乱舞でいい歳ながら二次創作を始め、若い子と交流するようになって話題のソシャゲも初めてみましたが、全然続けられなかった、そんなヲタ歴も少ないババアがですね。

ワヒロはハマってしまったのだ。そりゃもう、ずぶずぶと。

ワヒロをされてる方が口を揃えて言うのが「ストーリーがいい」事なのだが、何がどういいかというと、とにかく「フィクションの中に見え隠れする現実感」が凄まじいのだ。

ワヒロのメインキャラクターは15人。そのキャラクター像は、ざっとプロフィールを読んだだけではよくある『ご都合主義』的なキャラに見える。

名家のおぼっちゃんキャラ、高校生ながら副社長業をこなすキャラ、高校生なのに博士号持ち、子どもっぽいキャラ、ヤンキーキャラ……。知識の少ない自分でも、はいはいよくあるキャラ付けね、ってレベルの「あるある」だと思ったのだ。それも高校生がヒーローとして戦う!はいはいジャ○プやガン○ンの王道パターンですねと軽く思ってたんですよ、最初はね。

多分どのソシャゲもそうだろうけど、ワヒロもガチャでキャラのカードを引く。そのカードの信頼度を上げれば、カードごとにストーリーが解放されていくのだが、それを数人分読んで、引き込まれて、わくわくし、そして、怖くなったのだ。

たしかに、ワヒロは王道かつあるあるの世界観だ。けれど、ただの「王道」「あるある」を土壌として、その上にものすごい肉付けをしていたのだ。

例えば、北村倫理というキャラがいる。愛教学園という宗教学園に通う信仰宗教信者2世だ。……と聞いて、はいはいよくあるパターンね、とラノベ的なキャラを思い浮かべた。○○様を崇めよ〜この壺を買って〜的なアレ。どうせソシャゲで描ける『宗教』はその程度でしょ?と思っていた。

違った。詳しくはゲームのシナリオを読んでもらいたいのだが、彼のキャラクターに与えられた宗教観は、ちゃんと信仰宗教を調べた人の書く宗教観だった。

私の世代はオウム事件の記憶が残っている。1995年に起こった地下鉄サリン事件と、それをきっかけに暴かれる信者達の暴走や教義の内容。その当時、テレビは毎日オウムの、そして信仰宗教の話をしていた。教祖と信者、そして信者二世としての子どもたちの姿も、たくさん放送されていた。自分と同年代の子達が、自分がこれまで学んで来たのとは全く違う常識で生きている。そんな事実を目の当たりにした、ゾッとする瞬間。背中に冷や汗が落ちるようなそんな冷たさが、北村倫理のキャラクターには仕込まれていたのだ。一般常識とは違う宗教の常識に生き、それを『底辺』と自嘲する。時には教義を利用し、時には教団が使っているだろうマインドコントロールで他人を操る。教祖を崇める振りして利用し、自分の欲望を達成しようとしていた人達。そんなキャラ付けまでされているのだ。

怖っ、と思いましたよ。本気だ、このゲームは、本気だと。

他にも、読んでいくと端々に「このシナリオライターさんはすごい……」と久々感じさせられ、もう私は、すっかりワヒロの世界に屈服してしまったのだ。

バカなキャラがいれば、そのキャラがバカさ故に誰かの足を引っ張るのではなく「計算ができない」「慣用句やことわざを知らない」「集中が続かない」「宗教校だから勉強はどうでもいい」などの描写を入れて、そのキャラがどう『バカ』なのか丁寧に描いた上で、よい点もちゃんとシナリオに盛り込む。

逆に、頭がいいキャラも、工業系なのか化学系なのかでセリフに盛り込む要素を変えてくる。トリックスター的な浅桐真大のセリフなんか、読んでいて一字一句に痺れが走るほどだ。

二次創作していると、どうしても好きなキャラを好きなように動かしたくなる時がある。自分の考えた『さいきょうのはなし』に合うように、元々のキャラクターを自分の都合よく動かしてしまう。キャラ崩壊、と呼ばれる現象はおそらくこうして起こる。

でも、ワヒロはそこを妥協しない。ものすごく丁寧に、キャラクターを描く。そのキャラに『婚外子』の設定を付けたなら、彼がその立場でどうだったかをしっかり描く。そのキャラが『名家の三男』だったなら、家でどんな扱いをされるかを丁寧に書き上げる。でも、それがドロドロした闇設定とかでもない。これ、当たり前のようで、ものすごくめんどくさい作業だ。擬人化でも過去の有名人モチーフでもないから、キャラは一から作らないといけない。15人一人ひとりの設定を丹念に練り込み、性格を肉付けし、人格を与えていかないと完成しないキャラクター達だ。

そしてワヒロはソシャゲだから、月に2回はイベントが開催され、それにそったストーリーも追加される。それらのイベントストーリーも、全く気を抜いてないのだ。

2020年の初めにあったお正月イベントは「新年会!初笑わぬ訓練」というタイトルだ。そのタイトルと少し内容を読めば、これは『笑ってはいけない』と『芸能人格付けチェック』のパロディか〜と思うところだ。ツイッターの様々な作品のファンアートでも「ででーん、○○アウト!」とか「AかBの部屋で待つ」とかのネタはもう山のように見る。しかし、このイベントは全くそれらとは違う、新たな笑いを生み出していた。パロディでなく、内輪受けでもない笑いは書くのがすごく難しい。それをやってのけた、このイベントを見た時にワヒロの底知れなさを思い知ったのだった。

そして、たぶんユーザーの皆様が一押しするメインストーリー。二章後半から毎月4話ずつ更新されるようになり『月刊ワヒロ』と呼ばれるようになったメインストは、本当に連載を読むようだった。

ソシャゲ慣れしてない自分が驚いたのは、この定期的な更新による臨場感だ。デイリーミッションやイベントで、プレイヤーはほぼ毎日ゲームでキャラクターに会う。自然と愛着も湧くし推しもできる。そのキャラが、毎月の連載で大活躍し、運命に翻弄されていく。それは、受け入れがたい運命の時もある。『公開されているストーリーはここまでです』、そのダイアログを消すOKボタンに「全然OKじゃない!」と言いたくなるストーリーだってあった。けれど、それは全くご都合主義ではなく、むしろ初めから全て決まっているような美しさが垣間見えるストーリーなのだ。ブラームスは交響曲4番を完成させるのに20年を掛け、その音符や休符全てに意味がある。そんな事を想起させるストーリーだったのだ。最近のソシャゲはすごいなぁと驚いていたが、様々なソシャゲを経験しておられれる方もシナリオに驚いてらっしゃるので、きっと、本当に、すごいのだ。特に5月に更新された4章ラスト……その設定自体がブラフだったのか……とここまで一年半付き合っていたあるキャラクターの真実を聞かされて震えるしかなかったですからね。これは、覚悟がないと書けない。


だけど、このゲームはサービス終了が決まった。2020年8月20日で、もうこのワヒロの世界は、止まってしまうのだ。

ソシャゲがそのサービスを終了させる事は、もはや日常の事だ。

【重要なお知らせ】、そんな始まりのツイートを、これまでどれだけ見てきただろう。ソシャゲを全くやった事ない自分にとってソシャゲとは、『終わる物』であった。「誠に勝手ながら〜」「これまで応援頂きましたが〜」「諸般の都合により〜」……。そのお知らせは、誰から共なくリツイートされてくる。あるいは、ツイートトレンドに入ってる知らないカタカナをクリックすると、大体その『サービス終了のお知らせ』だ。

そして大体、追悼に似たツイートが添えられている。「結構好きだったのに」「初めてやってたなあ」など、流行りジャンルのアイコンが寂しげに呟いている。

死ぬ事で認知されるなんて、ソシャゲは江戸時代の人みたいだと思ってた。死亡届を寺に出して、それでやっとその人が生きていた証になる。卒業厨って言葉があるくらいだから、別にソシャゲに限った話じゃないんだろうけど。

正直、ワヒロは大好きだった。でも、薄々「ギリギリだな」といつも思っていた。

イベントのランキング形式だから、アクティブが大体判る。いや、ランキングを見なくたって、ゆるゆるプレイの自分が時々プレイするだけで上位に入れる時点で、アクティブの少なさはわかっていた。売り上げサイトも見た。どんぶり勘定っても少なすぎだろ、とゾッとした。課金が全てのソシャゲの、一番期待値が高いでろう初月の売り上げが、これは無理だろと思う額だったのを今でも覚えている。

性格が作り込まれたキャラクターだって、他のスマホゲームとは一線を画していた。いい意味であっさり、悪く言えば地味。キラキラもピカピカもしてない男子ばかりだから、キャラクター目当てでプレイ始めたのは、私と同じAKIRA先生のファンだからって人ぐらいだ。一般的なソシャゲを楽しみたい人は、どうせお金入れてガチャをするなら、派手な髪色でちょっとエッチな服を着た子がいいんだろう。これは完全な偏見ですけど。お金は大事だ、欲望に素直に使ったほうがいい。

それからゲーム性も、私ができるぐらいだから相当ヌるいのだと思う。ぽちぽちしてれば即デイリーミッションは終わるし、最初はあの悪名高い虚無マラソンがあった。対応機種も少なかったし、対応してても謎のデータダウンロードが多かった。それでやめてしまった人も、何人も見た。

そんなだから、ワヒロは早々に終わるだろうと、私は薄々思っていた。損切りに定評のあるスクエニだ、持って半年かな、と。

だけど、それは嫌だと思った。課金したのが惜しいとかじゃない。このすごいストーリーの続きを読みたい、このキャラクター達に与えられた属性を全部見てみたい、そうも感じたのだ。

ある意味シナリオライター様のプロの仕事を拝見して、それを学びたい、そこから多くを盗みたいとまで思うほどであった。ここまでくると、もう執念と言ってもいい。半年、一周年とつづいて、ものすごく嬉しかった。けして売り上げが爆増した訳じゃないのに、細く長く続けようと努力してくれていたのが、嬉しかった。

2020年5月28日にサービス終了が知らされて、呆然とすると共に、正直「やっぱりな」と、不思議と頭は冷静だった。

その前の週にビッグタイトルのソシャゲがいくつも終わりを告げていたし、それでなくても疫病下だ。予告にあった4章は終わらせて、ゲームも畳む。コミカライズが予定されてたから、内容変更して完結編はそこで……というか「俺たちのALIVEはここからだ!」的にさらっと終わっても仕方ない、そんな状況下だったから。

サービスは終わる。だけど、運営はこの物語を終わらせると宣言してくれた。それはとても、とても嬉しい事だった。

そもそも、このゲームに対して、運営はずっと前向きに考えてくれていた。虚無マラソンは早々に改善されたし、イベントもプチイベントも沢山やってくれた。イベントを走り終わるとかえってダイヤが増えてるほど、報酬は緩かった。ガチャでドブって悔しい思いもしたけど、何万も課金しなくても少し回せば大体出せた(個人の感想です)。そもそもガチャもイベントも、ちゃんと15人のローテを綺麗に回してくれた。「売り上げやばいんだから、人気キャラをSSRにしてくれ!」とこっちが心配するほど、ちゃんと15人全員にスポットを当ててくれた。テコ入れでキラキラ系新ヒーローが増えたり、ムチムチ衣装のお色気女キャラが増えたりしたらどうしようとハラハラしてたけど、そんなことなかった。シナリオが迎合する事もなく、テンプレ展開、例えばなろう的なご都合主義にも、性的な方面にも向かわず、pixivでいう「一番数字の稼げない小説」的なパターンを保ったまま、突き進んでくれた。札束で殴れるような要素も、ほとんど入れて来なかった。

そんなの、終わるに決まってる。終わるとわかってて、それができる運営が、どれだけいるだろう。誠実で丁寧な、プロの仕事だ。

ワヒロの運営スタンスとはそういうものだったのだろう。きっと上の方からは「売り上げ○億のゲームみたいなストーリーにしろ」「人気キャラの○○みたいなキャラを出せ」という圧力がかかっていたに違いない。端々でそんな雰囲気を感じる事があった。でも、それを上回る努力を塗り固めて、ソシャゲの良さとコンシューマゲームの良さを融合した物を作ろう、そうした手応えは、確かに私という1ユーザーには伝わってきた。

こうしてサービス終了が決まっても、ちゃんとストーリーは完結させてくれるというのも、プロ意識がないとできない事だ。終わりが決まってるのに、その終わりに向かって進む事は、ものすごく辛く、想像以上に報われないことだから。

思えば、ワヒロは初めから、終わりに向かって進んでいたんだろう。タイトルに『エンド』って付いてるし、声優さん達の収録もリリース前に全て終わっていると聞いた。そもそもメインストーリーが終わらなければ、イベントストーリーの時系列には繋がっていかない、そんな世界だろうから、初めからそんなのわかってたんだろう。余談だが、私の好きなアーティスト、ミッシェルガンエレファントはデビュー曲の名前が『世界の終わり』で、世界が終わった後の事をよく歌っていた。カサカサの乾いた世界、一見普通のソシャゲに見えるワヒロも、一皮剥けばそんな世界観に満ち溢れていた。

いい歳して、何書いてんだろうと自分でも頭を殴りたくなる。所詮生き馬の目を抜くソシャゲの世界で一つのゲームが終わりを迎える、それだけなのだ。もっと言えば、原因は自分が札束で殴れなかったという不甲斐なさなのも明白だ。

だけど、いい歳してる者だから、この『終わりに向かうゲーム』を作り上げてくれた運営の仕事を、尊敬したいと思うのだ。そして、心から感謝を伝えながら、『終わり』の日を迎えたい。『終わり』にならないと『始まり』は再び迎えられないだろうから、ね。ハッピーエンドを見届けよう、そう信じて8月20日を迎えようと思う。






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