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だから君は人間になったのだ

彼女が来なくなってから
もう一年が経つのかと思うと

短かったような気もするし、
ものすごく長い年月が
経ってしまった様な気もする。


そして、思う。

俺は本当に彼女をこれっぽっちも


愛せていなかった、と。


「橋本さん、今まで本当に
ありがとうございました。」


彼女は最後、電話越しに丁寧に言ってきた。

なぜ、ありがとうなのかは分からなかった。


「ともちゃんらしくないなぁ。

そこは冷たく、突然連絡途絶えるでも
俺は全然構わなかったのに。」


カラダだけの関係。

そこにココロはなかった。


それを申し訳ないだなんて
それまで一度も思わなかった。


ともちゃんだって同じだと

そう、思っていた。


しかし、彼女は相変わらず
限りなく無に近い声色で
俺の鼓膜を暗く振動させる。


「…橋本さん。」

「なにー??」


「私、橋本さんに、
恋をすることは出来なかったし、

共感できる部分も
あまりなかったですけど、


橋本さんに抱かれてる時は
違う自分でいられるみたいで

結構、楽しかったです。」


そう言われた時に俺は

彼女が求めていたものが

カラダや家じゃなかったことを
はっきり言われた気がした。


「こんなガキ、
相手にしてくれて本当に、

ありがとうございました。」


彼女はいつだって

愛に飢えていたのだ。


それが例え本物でなくても
懲りずに何度も何度も
手当たり次第、手を差し延べては
払われることに慣れてしまっても、

それでも彼女はとにかく


愛に飢えていたのだ。


「…いや、ありがとうは
コッチの、台詞だよ。」


何を言うべきか分からなくなった。

途端に彼女に対する罪悪感が溢れてきた。


彼女に俺は一体、

何を与えたのだろう。


彼女から与えられる快楽に
俺は彼女に『寝床』という
物理的なモノを与えているつもりだった。


でも、違った。

彼女が求めていたのは


愛だったのだ。


「…ともちゃん、」

「はい」


「俺には勿体ないほどの
愛玩だったと思うよ。」


今さら、気付いたフリをするのは
なんだかあまりに滑稽な気がして。

あまりに、ともちゃんに
失礼な気がして。


だから、最後もいつも通り
何も分かってない大人になって
そう、笑って言った時に

彼女は聞いたことないような
哀れんだ様な声を俺に向けた。

「良かったです」

それだけ言って電話を切った。


彼女はもう、俺には
手を差し延べなかった。


俺のお人形遊びみたいな狂った性癖は

相手を変えて相変わらず
修正されることはないけれど。


でも、思うんだ。

彼女ほど


人形に近い女はいなかった。



だから君は
人間になったのだ






**


心を持った人形はいらない。

一緒にいて、辛いから。

だから君といると楽だった。


だけど本当は

君に心がなければ良いのにと


ただ望んでいるだけだった。






2011.10.30
hakuseiサマ引用
おにんぎょうあそび 

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