見出し画像

憂国考察記事#7-9 A Study in "S"

【関連作品】

「シャーロック・ホームズシリーズ」:『緋色の研究』(A Study in Scarlet)

「憂国のモリアーティ」2ー3巻:#7-9 A Study in "S"


「憂国のモリアーティ」の第7話のタイトルを見たときに、ここで『緋色の研究』のタイトルをもじるのかと感嘆した覚えがある。“S”は原作ではScarletだが、本作品ではSherlock HolmesのSだろうことは明白だ。『緋色の研究』の物語を下地にしながらも、ウィリアムらモリアーティ一味がシャーロックがヒーローに足る人物かを研究オーディションしているという趣向が素晴らしい。

この第7話では、シャーロック・ホームズの相棒ジョン・H・ワトソンがついに登場する。シャーロックにジョンを紹介するスタンフォードは、原作でもワトソンにホームズを紹介している。

“スタンフォードはワイングラス越しにちょっと奇妙な視線を投げかけた。「君はシャーロック・ホームズを知らないからな」”

シャーロックが初対面でジョンの職業を言い当てたのは、原作と同じ。この点は#5-6で触れているので割愛する。シャーロックが血液反応を調べる実験をしていたのも原作と同じだ。場所が原作では病院の化学実験室だったのが、漫画では2人が同居するベーカー街221Bだったという点では異なるものの、出会いを描いた場面はほぼ原作を踏襲している。

221Bの女主人、ハドソンさんにも触れたい。原作では明確に「ハドソン夫人」だったが、「憂国のモリアーティ」では「夫人」とはされず、あくまで「さん」付け。本作では数少ないヒロインという位置づけにするために、人妻であることは避けたかったのかもしれない。とはいえ、原作でも一度も夫は登場していないため、そこまで不自然な改変ではないと思われる。

さて、「憂国のモリアーティ」ではドレッバー伯爵が殺されていた現場に「Sherlock」と書かれていたため、シャーロックが逮捕されてしまう。原作では「Rache」と書かれていた。Rachelという女性名の書きかけであると推測するレストレードに対し、ホームズはドイツ語で「復讐」を意味していると説明する。

シャーロックは犯行現場に残されていた指輪で犯人をおびき寄せようとするが、これも原作と同じだ。原作ではジェファーソン・ホープが変装の得意な友人を頼るが、漫画ではフレッドが老婆に変装してその役を担っている。どちらの作品でも、シャーロック・ホームズは出し抜かれてしまっている。

原作と事件の大筋は同じだが、ほかにも微妙な差異があるので、表にまとめてみた。

緋色の研究との比較

このような微妙な差異を間違い探しのように見つけ出すのも、本作品の楽しみ方の一つかもしれない。

原作では、ジェファーソン・ホープがドレッバーとスタンガスンの2人を殺害するに至った動機がよく分かる物語も描かれている。モルモン教徒やアメリカへの偏見に満ちている部分も否定できないが、物語としては非常に面白いので、原作未読の方には併せておすすめしたい。

※Christian_BirkholzによるPixabayからの画像

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?