気がする屋 day.6|連載小説
ああ、なんで美味しいんだろう。
ノブコは思わずほう、と溜息をはいた。
今日は、仕事終わりにタイ料理屋に来ていた。
なお、1人で、である。
ノブコは自分から誰かをご飯に誘えない。
親しい友人にすらそうで、だから、同僚なんてもってのほか。
1人で食べるのが好きだから、というよりも、誰も誘うことが出来ないから1人で食べているのだった。
それでも、ノブコはとっても幸せだった。
周りはカップルや仕事終わりの会社員グループで溢れ、1人きりのノブコは時折チラリと訝しげな視線を感じるものの、それを加味しても、「ああ、来て良かった」
と思える美味しさだ。
ノブコはタイ料理が大好きなのだ。
一体いつから好きなのだろう。
定かではないが、好きな理由には、薬草っぽさが大きくある気もする。
ノブコは幼い頃から、薬草が好きで(その特別感や怪しい感じ、ゲームに出てきそうな感じなど)、両親にハーブ園に連れていってもらったり、図鑑を眺めたり、少ないお小遣いで買って育てたりなどしていた。
最近は、植物育てなくなっちゃったなぁ。
昔夢中になったはずの何かが、失われるのは寂しさだけでなく、虚しさまでもある。
本当に好きだったのか、夢中だったのか。過去の自分すら虚構にみえる。
何か育ててみようかな。
でも、それも違う気がする。
過去の自分を取り戻したくて、何かに夢中になりたいだけで、本当に植物を育てたい訳ではない気がする。
きっと、買って育てても、ただ置いてあるだけになるに違いない。
そんな未来しか見えないのに、ノブコはずるずると諦めることもできずに、でもトムヤムクンを口に含んでは笑みをこぼすのだった。
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