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サイバーシティ/第2話

サイバーシティは、思っていたよりもずっと平和な街だった。そして、彼女が知っている他の街と、さほど変わらないように思えた。

街にはビルが立ち並び、皆明るく楽しそうにしていた。
気になった事といえば、皆が腕時計をしていて、その腕時計に頻繁に話しかけたり触ったりしていることだった。

「あの、その腕時計はなんですか?」
思い切って近くを歩いていた女性に聞いてみる。
「サイバーウォッチよ。電話もできるしインターネットもSNSもできるし、話したことがそのまま入力されるからすごく便利なの。サイバーシティの市民は、市から1人一台貰えるのよ」
女性は丁寧に教えてくれた。
「わかった?」
彼女がうなづいてお礼を言うと、女性はにこやかに
「それよりも、その泥だらけの顔と服をなんとかした方がいいわ」
と言って去っていった。


なるほど、サイバーウォッチがこんなにも普及しているから街の中央にあんな巨大な電波塔があるのか。
彼女は昨日の夜に上から見下ろしたこの塔を、今度は昼間の太陽の光の中、見上げる。
摩天楼と呼んでもいいかもしれない。
それくらい、この塔は圧倒的な存在感があった。


往々にして、ものごとは期待した通りには進まない。
町中を歩き回っても、どんなに声をかけても、それ以上の情報は得られなかった。彼女を知る人も、C電子について知る人もいない。

この街にきてから4日が経とうとしている。
お金がないので食べ物は食べられない。
飲み水はなんとか公園の水道で確保できるがそれだけだ。寝る場所もない。
一度公園のベンチで寝ていたら危ない目にあったので、それからは、夜でもやっているお店を転々として過ごしていた。
眠るのは昼間になって、余計情報も得にくくなっていく。
体力も精神も、限界が近づいていた。


その日はひどい雨だった。
彼女はぼんやりと、アパートの軒先で雨宿りをしていた。
おんぼろのアパートは、どの部屋も電気は消えていた。もしかすると、もう誰も住んでいない廃アパートなのかもしれない。
最上階の3階まで外階段を登り、チャイムを押す。
ピンポーン、ピンポーン。
何分待っても人の気配は感じられなかった。
ほんの、出来心だった。
彼女はドアノブに手をかけ右にひねる。
ガチャリ、と鈍い音がしてドアは開いた。
疲れた身体に雨の音。
彼女は吸い寄せられるように中に入った。


「なにこれ…。」
部屋の中をみて、彼女は絶句した。

壁には一面、新聞の切り抜きが貼られていた。
ところどころに、マジックでマルやバツが付けられたり、走り書きがされている。
そしてそのうちの1つに彼女は目を奪われた。

『サイバー・C・プロジェクトいよいよ開始』

"C"だ。
彼女は壁に駆け寄り、全ての記事に目を走らせる。
よく見ると、全てがこのプロジェクトに関する記事のようだ。

『プロジェクトのテストケース失敗』
『C電子の拒否反応か』
『研究所の所長が退任』
そこには研究員と思われるメンバーの写真もあった。

「白髪男」
彼女は写真の1人を指差して呟く。
モノクロ写真で白髪こそ分からないが、間違いない。
この前見た時よりも、写真では少し若く、ずっとにこやかに笑っている。



その時。

「おい」と低い声が部屋に響いた。
しまった、と思った瞬間にはもう、肩を思い切り掴まれ床にそのまま叩きつけられていた。
「お前、何者だ。この部屋で何してる」
声の主は黒い髪をした体格の良い男だった。
馬乗りになって凄い力で彼女の腕を掴んでいる。
「いやだ、やめて!放して!」
力いっぱい抵抗しても、ぴくりとも動かない。
彼女が思い切り男を睨むと、男は少し笑った。
「なかなか俺好みの女だな」
カッとしてもう一度大声を出そうとした瞬間、ガツンと頬を殴られた。
痛みよりも衝撃で、目の前がチカチカした。
ビッと服を破られる音がする。
「やめて…」
怒りと悔しさで頭の中がぐちゃぐちゃになる。
もうだめだ、そう思って強く目を瞑った。


と、男の腕の力が少し緩んだ。
そのまま男は動かない。
彼女が恐る恐る目を開けると、鋭い眼光をしたままの男と目が合った。

「お前、アンドロイドか」

アンドロイド。
アンドロイド。
彼女は呆然と男の言葉を復唱した。


#小説
#サイバーシープロジェクト

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