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予感

水の声が聴こえる。
声はやがて幾重にも重なる波になって、川になり、山を降りて大地を削り、やがて海と交わっていく。
その合間にいる無数の生き物たち。
ボクの愛する子どもたち。



「さて、もういいかな」
寝転んで神経を集中させていたボクは、身体を起き上がらせて伸びをする。
大地を覆う水をこうして巡らせることで、生き物たちは成長するのだ。
どういう仕組みなのかは分からない。
生まれた時からその役割をボクは与えられていた。
そしてこの星において、ボクのような生き物はボク1人だった。

時々、無性に怖くなる。
自分は何のためにいるのか、分からなくなるのだ。
こんな生きることと関係のないことを考えるのも、この星ではボクだけだ。
余分で余剰。
ボクは水に映った自分の影をじっと見つめていた。



ドン、と凄い音が響いたのはその時だ。
咄嗟に、またか、と思った。
少し前に、おかしな連中がこの星に同じようにやってきたばかりだ。
そいつらはこの星を荒らし、生き物たちを襲っている。
必死に抵抗しているが、ボクに出来ることはほとんどなかった。
まもなくこの星は滅びるだろう。


ザワザワと木々が揺れて不安を伝えている。
「大丈夫だよ。見てくる」
ボクは枝に触れて言うと、音のした方へ向かった。
手が震えているのには気がつかないふりをする。



今度やってきた連中は、先日の生き物とは全く別の形をしていた。
4人いて、何やら互いに話をしている。

しばらくすると3人はばらばらに何処かへ行って、1人だけが残った。
猫背で、表情の読めない顔をしている。
皆に置いていかれてたった1人。
ボクは少しだけ親近感がわいた。

しばらくすると、突然その1人は水の上に寝転んだ。
何やら声を出している。
その声が水に触れて、波になって足元までやってきたところでボクははっとした。


これは、歌だ。
音楽だ。


音楽はこの星にある、ボクが生き物たちと心を通わせられる唯一の手段だった。


ボクは水をすくってみた。
水はこの星の歌となってボクに絡みついている。


何かが変わる。
そんな予感がした。




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このお話は、小説『星の歌』のサブストーリーです。
本編はこちらからご覧いただけます↓
https://note.mu/coko_luvs_u/n/nb8de14ef9328

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#ショートショート
#星の歌
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