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キーはテクノロジではなくビジネスモデル[20240612]


「クォーツ時計」を発明した話からは、マネジメントの役割についての示唆。

VHS vs ベータ・マックスの話は、雌雄を決したのはテクノロジの問題ではないという示唆がある。

今日は、かつては世界最大だった製鉄会社のUSスチールを日本製鉄が買収する話からミニミル(電気炉式の製鉄技術)の隆盛について話をしたい。

日本製鉄がUSスチールを買収するというニュース。

独禁法など様々な縛りがあり簡単ではないので「根回し」をしていて、その進捗が報道されている。

敵対的な買収ではなく買収される側のUSスチールも協力して当プロジェクトを遂行しているように見える。

ここで買収はテクノロジの話ではない、などと単純な話をするつもりは一切無い。

USスチールは、かつて世界最大の製鉄会社だったが、現在は粗鋼生産量で世界27位に凋落している。

ちなみに、日本製鉄は第4位で、USスチールの生産量の約3倍である。

米国の鉄鋼業界においてUSスチールは凋落してしまったが、先進国では鉄の需要は米国がダントツで年間9500万トンもある。

分かりやすいように他国と比較すると日本は5500万トンで主要ランキングで米国に次ぎ世界第4位である。

参考までに第1位は中国で9億2000万トン、次いで第2位はインドで1億1900万トンになる。

さて米国市場の話に戻るが、USスチールは1450万トンを生産しているが国内需要に全く追いついていない。

では米国市場の鉄は誰が担っているのか?

答えは「ニューコア」という新進気鋭の企業だ。

同社の粗鋼生産量は世界16位で生産量は、2060万トンに及びかつては世界最大だったUSスチールよりも生産量で上回っている。

ニューコアは華僑でもなければ印僑でもない。

元々は米国内の鉄工所(製鉄ではなく鉄を加工するところ)だった企業だ。

ニューコアが鉄工所だった頃、USスチールは世界最大の製鉄会社で向かうところ敵無しだっただろうと想像できる。

ニューコアは、ミニミルで製鉄をする世界最大級の企業である。

製鉄業界は従来、高炉により製鉄をしていたが、現在では生産効率も高いミニミルへの移行が進んでいると言われる。

超簡単に言うと、ニューコアは鉄工所をしていた時に電炉でスクラップや端材を熔解して安物製品(線材や鉄筋など)を作り始めた。

鉄鉱石から製鉄する高炉業界から見れば「テクノロジの欠片も無い」ビジネスを街の鉄工所が始めたという訳だ。

ニューコアのスクラップを集めた製品は、実際に安価だったし販売方法にも工夫を凝らした。

線材や鉄筋などのそもそもの付加価値が無い製品だったので「配達しない」「工場から引き取る」が基本で、注文は電話でしか受け付けないというものだった。

販売経費や物流経費を極限まで廃して「安価に」製品提供をしたのである。

ニューコアが線材や鉄筋などの安物を販売し人気が出てきた頃にUSスチールは「あぁ、助かった」と安堵したそうだ。

製鉄会社において高付加価値製品と言うのは「薄板」が最上位を占め、建材など硬鋼が続く。

簡単に言うと「技術力(テクノロジ)がモノを言う」製品群である。

線材や鉄筋は、生産に技術力が要らない「安物製品」でありUSスチールのような高炉企業はこれらの製品生産を「したくなかった」のである。

だから、売上や利益にも殆ど影響無いし「あぁ、助かった」と思えたのである。

しかし、ニューコアは線材や鉄筋からビジネスを始めて少しずつ上位の製品に手を出すに至る。

下位製品から中位製品に、そしてとうとう上位製品、高級製品へと徐々に実績を積み重ねていく。

しかも「電炉」によって生産性の高さを確保して市場を席巻し始めたのである。

イノベーション研究の世界最高峰だったクレイトン・クリステンセンもニューコアの戦略こそがイノベーションであり米国が生んだ最も賞賛されるべき事例であると評している。

さて、言いたかったことは「テクノロジ」で勝負するだけが能では無いと言うことだ。

多くのイノベーション学者達が「キーはテクノロジではなくビジネスモデル」なのだと発表するが、日本の経営者にこの声は一切届いていない。

国際競争力第35位にランキングされる国の現実なのか。

合同会社タッチコア 小西一有

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