宇宙の叡智が宿る糸「志村ふくみ―母衣(ぼろ)への回帰」

※「ハニカムブログ 」2016年11月8日記事より転載

過日、友人に「きっと好きだから!」と勧められて世田谷美術館の「志村ふくみ―母衣(ぼろ)への回帰」に足を運びました。

染色家で随筆家。人間国宝でもある、志村ふくみ さん。

お名前は存じていたものの、その作品や活動に関してほとんど把握していなかったのだけれど...。

見るほどにこちらの身体や心が透明度を増すような、織物の色を通して自然の風景に自らも溶けていくような錯覚に陥る作品群に目を見張りました。

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「私たちの仕事は、色を染めることから始まります。

それは地球を形作る三つの要素、動物、植物、鉱物の力で成り立っています。

糸は蚕の繭(動物)から、色は草木(植物)から。

その両者をつないで定着させる媒染剤には金属(鉱物)も使われます」(web siteより)


草木を採取し、糸を紡ぎ、染色するところから始まる志村ふくみさんの作品作り。

糸が水に浸され、水をたゆたう音。そしてキリッとその水が絞り上げられる。

染め上げられた鮮やかな糸の美しさ。

糸を織りににかけるために淡々と準備し、機織りがトントン小気味よく合わさるリズム。

全ての工程が美しさに満ちている。


糸とそこから織りなされる作品には、光や風が、水が...自然の全てが内包されている。

そして、添えられた文章によってその光がさらに膨らんで、体内に染み込む。


「ある夜 夢を見ていた

その時 漆黒の夜空に光を穿ち 瑞々しく瞬く星が 私の魂に直結していることを感じた

私たちは光を宿す宇宙の星屑である

その小さな一片一片が地上に降り 人間や草や花、小鳥や虫たち、石など 全ての生類としての生命を与えられ、それぞれ愛しい生命をはぐくんでゆくのである

しかし人間のみは 自己と他という区別を知り 一ではなく二(自他)という罪を負ったために 現世において苦しみ 悩み また喜びや楽しみを共に味わうこととなった


生者必滅の理を知ったのである

その苦慮の中で 人は思考し 学問や芸術という原石を研磨して 言葉や色を創り出し 美という賜物を授かったのである

伝書より 志村ふくみ」


驚いたのは、円、ピラミッド、月、十字...などをモチーフにした「シュタイナーのシンボル」という作品があったこと。


シュタイナーは哲学者、教育者、神秘思想家であり、「人間の叡智」を意味する人智学(アントロポゾフィー)の提唱者でもある。

年表によると、志村ふくみさんは60代でシュタイナーと出会い、「色」の観点からシュタイナーや人智学、ゲーテなどに対する研究を深めていったそう。

自然療法の世界に身をおいていると、シュタイナーや人智学のことは少なからず耳に入ってくるし、その思想が、教育、芸術、医学、農業、建築など多岐にわたり、今も様々な形で世の中に影響を与え続けているのは知っていたけれど、こうした日本の芸術との融合を果たしていたとは...。


展示されていた映像の中であった、ふくみさんの娘さんである洋子さんの「新月の日に藍を仕込むと出来上がりの色合いがちがう」といったような発見も、シュタイナーとの出会いからきているのかもしれない。

様々な自然療法で目指すのは、心身の健康だけでなく、どこまでその人の本質を取り戻せるかということだと感じているけれど。

ふくみさんの作品には、人をそうした本質に引き戻してくれる全て=宇宙の叡智が存在しているように感じました。

■ 小松ゆり子 official web site
http://yurikokomatsu.com

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