「セミナー講師＝儲かる」と思っている人たちへ。教える側の葛藤と現実

「あいつセミナー講師を始めたらしい。金儲けするつもりだ」

これが、私がセミナー講師を始めた頃に影で言われていた言葉だ。

セミナー＝儲かる。

多くの方がこのような認識を持っている。

しかしながら私自身、1年半程度全国で「超実践セミナー」の講師＋運営をやってきた経験から言うと、「全然そんなことない。むしろ多くのセミナーは大赤字前提で開催しているはず」とさえ思っているのだ。

もちろん中には「儲けるためのセミナー」が存在しているのも事実。だけど比率的にいえば、赤字前提で開催されているものもかなり多いと思う。

一部の悪質なセミナーのせいで、健全な精神で運営されているセミナーにも非難の目が向けられる。

そんなのはとても悲しい。

だからこそ、今日はセミナー講師の葛藤と現実についてお話する。

セミナーの収益構造

セミナーの収益構造はいたってシンプルだ。

お客さんから参加費をもらい、その金額が収益になる。

もし企業からスポンサーを受けた場合はその金額も収益に上乗せされるが、スポンサーが付くケースは結構少ない。

30人のセミナーで企業スポンサーなし、参加費3,000円と仮定して、実際に計算してみると、
・3,000円×30人＝90,000円
という結果になる。

1日で9万円。

こういう単純な計算だけで
「お金儲けのためにセミナーやってる」
と言われることが本当に多かった。

本当にそうだろうか？

決してそんなことはない。
なぜならセミナーには、「見えないコスト」が非常に多いからだ。

セミナーの支出

セミナーでは、様々な支出がある。

例えば、講師が受付業務まで回すのは物理的に不可能だから、受付スタッフが必要だ。さらに当日の司会進行もスタッフにお願いすることになる。

少ないラインだけど日当5千円と仮定したとする。
スタッフ2人分で10,000円の支出。

もちろん支出はそれだけではない。

多くの方が概念として持ち合わせていない支出が「会場レンタル代」なのだ。

東京でテーブル有り、30人収容可能、アクセス良好な会場だと、時間あたり1万円というところも多い。

私が講師をしていたセミナーは、13:00～17:00が基本のタイムスケジュールだった。ただもちろんこの時間には、受付に要する時間や事前準備、撤収に要する時間が含まれていない。

つまり実質のレンタル時間は12:00～18:00ぐらいになる。
合計6時間だ。

さらに、セミナーで使用するプロジェクターやマイクは基本別料金。
実例でいうと、両方併せて4,000円ぐらい。

さて、収入から支出を引いてみよう。

・収入
参加費　90,000円

・支出
会場レンタル代　60,000円
備品レンタル代　4,000円
スタッフ日当　10,000円
支出計　74,000円

・収益
16,000円

1日あたりの収益16,000円。

この金額を見て
「なんだ。ちゃんと儲かるじゃん」
と言う人は、何かを忘れているはず。

そう、講師の報酬や移動費だ。

セミナーは「見えないコストの塊」

「あいつは金儲けのためにセミナー講師をやってる」
と言ってきた人に問いたい。

一切事前準備しないような人間の話を聞くために、何十人という人たちが時間を割いて、さらに費用も負担して参加すると思うか？

答えは「NO」だ。

講師と運営者は、セミナー当日までに
①日程、内容のすり合わせ
②会場探し
③募集ページの作成
④資料の作成
⑤集客
などの事前準備を行う。

ハッキリ言って、④だけでも丸々数日が消えていく。
その間の労力も報酬に含まれる。

だけど残る収益は16,000円。
遠方なら移動費だけで消える金額だ。

さて、セミナー講師は儲かるか？

これがセミナー運営の真実。

これを見ても
「お金儲けのためにセミナーをやってる」
と言える人はぜひやってみるべき。

他方で、「集客人数を増やせばもっと利益が出るじゃないか」と突っ込まれると思うので回答しておくと、実際はそんなに甘くない。

というのも、集客人数が多くなる＝もっと大きい会場が必要になるからだ。
つまりレンタル費も跳ね上がる。

さらに大きな会場になると、スタッフも少人数では足りない。
したがって人件費も跳ね上がる。

そう、セミナーは「見えないコストの塊」なのだ。

多くのセミナーは善意で成り立っている

私自身、超実践セミナーの運営を通して、多くのセミナーがたくさんの人たちの善意で成り立っているのだと痛感した。

一緒に運営していた方にも
「お金儲けのためなら120%今すぐ辞めてる」
と何度も話した。それほど見えないコストだらけだったのだ。

それでも1年半続けたのは、
「誰かの人生が1ミリでも前進するように」
と心の底から思っていたから。

善意で運営されているセミナーが、お金儲けの道具だと思われるのはすごく悲しい。

善意で一生懸命伝えている講師の方が、「お金儲けに走った」と思われるのはもっともっと悲しい。

私1人が声を上げたところで、イメージは変わらないかもしれない。
だけどそれでも、発言することに意味があると思っている。

読んでくださった方の中で、セミナーのイメージが少しでも変われば幸いだ。

とっとこランサー(＠tottokolancer )