日本発の経験に基づいたダンス:認知症の人の記憶と感情を解き放つ
とつとつダンスの力:認知症の人との精神的なつながり
認知症と共に生きることは極めて孤独感が強いとされる。認知力の低下はしばしば、世界、友人や家族、そして自らのアイデンティティからも切り離される感覚をもたらすからだ。それに対峙するのは「とつとつダンス」という今までにない行動療法だ。認知症の人たちとその介護者の間に精神的なつながりを生み出し、会話能力を失った人にも効果が期待されている、新たな希望のかたちである。
とつとつダンスの本質
とつとつダンスは「完璧さ」を目指す通常のダンスではない。日常的な身体コミュニケーションを用いたユニークな実験であり、ゆっくり、ゆらゆらと、ためらいがちな動きが特徴だ。とつとつダンス発案者である振付家・砂連尾理氏は、このダンスはシンプルながらも重要なつながりを育む大きな可能性を秘めていると確信している。
言葉を使わない表現
とつとつダンスでは言葉は不要だ。その代わり、表情力豊かな動きを使って、大切な思い出、日々の出来事、感情、さらに無意識の考えまでを伝える術を学ぶ。Dementia Singaporeは日本の実験的な振付家・砂連尾氏とタッグを組み、この新しいダンス・セラピーへの取り組みに乗り出した。
とつとつダンスをシンガポールへ
砂連尾氏は8月、社会福祉団体のスタッフ及びボランティアを対象に導入編セッションを実施した。また同月、認知症患者とその介護者に対してワークショップも行っている。最近には再度シンガポールを訪れ、以前Dementia Singaporeのアート・プログラムに参加していた4名の参加者とのセッションをOur Tampines Hubで開催した。
ダンスがもたらす自信の力
表現力を扱うダンスには、認知症の人々を孤独から引きずり出す力がある。洗練されていない、瞬間ごとに溢れ出る動作ではあるが、彼らはそれに乗せて、溜め込んだ不満を発散する。砂連尾氏が「とつとつダンス」を始めたのは2009年のこと。京都の特別養護老人ホーム「グレイスヴィルまいづる」の高齢入居者のためにワークショップやパフォーマンスを企画したことが始まりだ。
治療としての可能性
Alexandra病院勤務の老年科医、Hong Liyue医師によると、認知症の人の多くは自身を語る言葉を見つけられず、フラストレーションを溜めたり、興奮状態に陥ってしまうという。しかし、音楽やダンスは彼らが感情を表すツールとなり、また特定の曲や動作に関連づけて記憶を思い出すこともあるという。老年学研究者のKalyani Mehta医師は、ダンス・ワークショップをはじめとしたグループ・アクティビティに参加することで、認知症の人の気分を向上させ、ストレスと不安を軽減し、日常をより余裕を持って過ごせるだろうと考えている。
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