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万城目学『八月の御所グラウンド』感想

 万城目学の本はずっと前に『プリンセス・トヨトミ』を読み、「小学生が考えそうな、奇想天外でわくわくする妄想を、親しみのある登場人物と歴史的事実、自分にとって馴染みのある街への愛情でユーモアある物語にしている小説家」という印象を持っていた。
 
『八月の御所グラウンド』に収録されている二編はいずれも京都であり、やはり作家にとって縁の深い場所を舞台にしている。そして、両方とも、京都に過去ゆかりのあった、歴史上の有名人が関係してくる。

 表題作の「八月の御所グラウンド」、主人公は大学生だがいろいろとくすぶっており、友人からの断れない誘いで、真夏の京都の早朝、しぶしぶ野球をすることになる。彼と友人たちとの野球大会の様子が、脱力した雰囲気で進んでいくので、構えずに読んでしまうのだが、途中から奇妙な事が判明していく。
 ラストの、五山送り火の大文字焼を見ながら、主人公と友人が交わす言葉が切実なものになる場面は、読んでいて胸が痛くなった。
 
 最後にうるさいことを書きます。
 
 個人的に、過去の死者を使って(表現が悪くてすみません)、現代を生きる主人公にやる気を起こさせる形式の作品は好きではないのですが、この作品には好感を持ちました。
 まず、作者の書き方はユーモア主体であること、主人公は最後に少し前向きになるとはいえ、あくまで「次の試合ではヒットを何としても打ちたい」という、目の前に迫ったことに対して、数日前よりも少しやる気が出て来た程度で大げさではないこと、暗闇の中で大文字焼を見ながら友としんみり話をする中で胸に灯がともったという描写が良かったことが理由です。

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