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船出から大冒険の予感しかない始まりの日(後)

始業式が終わると、学級ごとに新しい担任の先生と一緒に移動して、

自分の荷物を新クラスに移していくという活動が始まる。

1学年ずつ、時間をずらして移動が始まる中、船長は教務の先生に言った。

「五年生はここで話をしてから移動するので、最後にしてください。」

子ども達の反応は、と見てみると。なるほど、一生懸命にこちらの話に耳を傾けている子達、

列を作ってくれている子達は、緊張感が増したように座っている。

そして、残りの半数の子達は、変わらずにあちこちに固まって、

何やらぶつぶつ言っている。

「なんで五年が最後まで残るんか。」

「え、まだ話あるの。だるいんだけど。」

などなど、今思っていることがそのまま言葉に出てきたように、

つぶやきが聞こえてくる。

しばらくすると、他の学年の子達は皆いなくなり、体育館には5年生の子ども達と、

僕たち3人の担任だけになった。すると、船長が良く通る声で話し始めた。

「改めまして、5年生の皆さんこんにちわ。今年皆さんの担任をする○○です。よろしくお願いします。さて、まずは、新しい学級に間違いなくつれていけるように、自分のクラスに並んでみてくれるかな。」

そう指示をすると、ぶつぶつ言ってた側の子たちが、

クラスの列を作ってくれている子ども達の、その列の中に、

戻っていく。

「うん、よく話も聞いてくれているじゃない。さて、今日から皆さんと一緒に過ごす担任の3人です。よろしくね。で、今日はまず、荷物を移動させたら、ランチルームで学年集会をするので、みんな素早く荷物の移動をしてください。早く始められれば、それだけ早く終われます。みんなの協力次第です。そこで、5年生になったあなたたちに、まず話しておきたいことを話そうと思います。では、移動しましょう。」

と、船長は今日の予定をまずはっきりと子ども達に示して、行動を始めさせる。

そうすると、予定なんざどうでもいいやという子達はともかく、

こちらの話を真剣に聞いている子達は、見通せた予定に従って動く。

半数が動きの流れを作れば、話半分の子達もその流れを感じ取って、

全体が混乱することなく動いていく。

どのくらいかかるかな、と思って見ていた子ども達の活動は、

こちらが思っているよりもずっと早く完了して、学年集会が始まった。

船長は第一号の『今日もどこかで』を配って、そして僕ら3人の担任だけでなく、

子ども達に関わる先生たちを、船のクルーを支える色々な役割に例えながら紹介していった。

そして、子ども達に語り掛ける。

「この一年間は、この今日もどこかでを読みながら、みんなで考えて、育っていく世界一周の航海です。みんなの乗っている船の名前は、この『広い視野と豊かな心で』の学年のめあてからとって、ゆたか丸。一年間、色んなことが起こる航海になるでしょう。ですがみんなで、一年間旅をしている仲間だと思って、過ごしてください。先生たちはそのお手伝いをする船員です。あなたたちを時には厳しく叱りますが、一緒に沢山楽しい時間を過ごせたらと思っています。相談などは何でもしてきてください。」

話し終えると、子どもたちはそれぞれのクラスに戻る。

空っぽになった教室には、2・3枚、子どもがそのまま置いていった『今日もどこかで』第一号があった。

あれだけ話しかけても、関心ないやという子がいるんだな、

僕は少し寂しさを感じたが、船長はにっこり笑いながら、

「おお、ほとんどの子たちがちゃんと持って帰って行ったぞ。」

と、まるでもっと置いて帰る子がいると思っていたがと言わんばかりに、

嬉しそうにその様子を眺めていた。



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