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不登校先生(29)

・・・・・・ゴミ出しを済ませ、朝ごはんを作る。

スーパーで買ってきた大根と厚揚げで味噌汁を作る程度であるけど

自分で台所に立ち、切って、お湯を沸かして、出汁を取って、味付けして、

薬で少しぼんやりしたままではあるけど、みそ汁を飲みながら目を覚まし、

朝日が昇るベランダに布団を干して。

今日が月替わり最初のゴールデンウィーク明けの初の診断だ。

初診から4回目。ひと月が立った経過は、決して回復している実感はない。

いまだに薬を飲んでいる事で、眠れているのだろうという状態は、

日によっては、薬を飲んでも

とんでもなく暗い闇に飲まれそうな気持ちになって、

全然寝付けない夜もあった。

それらも、毎週先生に相談しながら、ひと月が立とうとしている。

今回は、校長先生が

「1か月の病休申請がいったん来週までなので、

 今の病状と今後の見通しについて、主治医の先生ともお話ができたらと

 思っているので、ゴールデンウィーク明けの診察の時には、

 一緒に行かせてもらってよいですか?」

との連絡を受けての診察だった。

毎週月曜日の午前中だった診断は、今回だけ午後になり、

自分が15時ごろに病院につくと、校長先生は既に到着していて、

中で待ってくださっていた。

暗めの待合室は、いつも通りオルゴールで流れる小田和正さんの曲の音だけ

シャキッと背筋を伸ばして椅子に座られている校長先生だけが

元気な姿に見えるので、すぐに分かった。

「今日はありがとうございます。」

「いえ、時間が合わせられてよかったです。」

ひとことだけ小声であいさつをすると、

静かに順番待ちに入る。

校長先生は何も話さない。

ひと月前と比べて明らかにぼさぼさに伸びた髪

眼の下にははっきりと目立つクマの様なものも見て取れる顔

マスク越しにもわかるのびた髭

この一か月、薬を契機に立ち直れた!などという上手い話もなく

初日に眠れたようにぐっすり眠れることは少なくなっており、

最近は寝始めこそ薬の服用で悩む夜は減ったが、

目が覚めるのが二時間以内置きで、ぐっすり眠ることはできずに目が覚めて

そのことを主治医の先生に相談しないといけないと思って、

今日の診察に来ていた。

「28番の方のどうぞ」

校長先生も一緒に診察室に入る

「ととろんさん連休中はどうでしたか?」

「はい、先生の薬のおかげで、少しだけ日常生活に意識を向けることが

 できるようにはなりましたが、連休中はしっかりとした睡眠がとれなくて

 悩んでいました。処方して頂いた薬のおかげで、

 眠れないことは少なくなったのですが、目が覚めるんです。

 それも短い時間で何回も。

 二時間以上継続して眠れない状態になっていました。」

「それはきつかったですね。眠ってもすぐに目が覚めてしまう」

「はい、朝までに3,4回、毎晩目が覚めるのでどうも・・・。」

「眠れた感じがしないままという感じですかね。」

「はい、睡眠をとれたという実感がないままに毎日疲れがたまって」

横で校長先生はやり取りから今の僕の症状を、メモしている。

「であれば、今回から眠った後にすぐに目が覚めなくなるよう促す薬を処方しましょう。」

「ありがとうございます。あと先生今日は校長先生も、

 一緒に立ち会ってくださっているのですが、よろしいですか。」

「ああ、どうぞどうぞ。こんにちわ」

校長先生が主治医の先生にお尋ね始める。

「まず、先月申請した病休が来週で1か月になるので切れるのですが、

 療養の状況はどうなりそうですか。」

「いや、ととろんさんは、だいぶ重い症状ですから、

 まだまだ療養は必要だと思います。」

「では病休は・・・」

「そうですね、経過を見ながらですので、また1か月延長で、様子を見られてもらいたいと思います。」

「わかりました。」

「では来週に、診断書を書いてととろんさんにお渡ししますので、よろしくお願いします。」

二人のやり取りはそんな感じの内容だったように思う。

ともあれ校長先生立ち合いの上での、診察は

【症状は重いので、まだ療養はしばらく必要】

という結果だった。

病院で会計を済ませて、外に出ると、校長先生は

「診断書は郵送で大丈夫ですから、来週頂いたら送られてくださいね」

と声をかけてくれた。

「本当に今日はありがとうございます。本当に、すみません。」

「いえ、まずは考え…ないのは難しいでしょうけど、極力悩み考えないで、ゆっくり療養されてくださいね。」

穏やかに声をかけてくれた。そして

「来週も、診察後のお電話待っています。」

と言って、駐車場へ戻られた。

本当に、何一つ、嫌ごとを言わない。

自分がこの人の管轄する現場でどれだけお荷物になっているかと考えると、

わざわざ一緒に診察に立ち会ってくださるなども申し訳なさすぎるのだが、

本当に、気を配ってくださっているのが伝わり、

ただただ戻られるその背中に、深々と頭を下げるのだった。

↓次話





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