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応援団は燃えて萌えて全力で(6)

何よりも、今年は受け持ちの我が子でもあるHくんが、

オーディションの時にみんなに宣言した意気込みを僕は忘れていない。

だからこそ。Hくんの挑戦を、Hくんがやり遂げたと思う結果で掴ませたい。

そんな思いで、厳しく声をかけた。けれど、Hくんは隅っこで動かない。

「Sさん、先に昼練はじめておいて。先生はHくんを連れていくから。」

Hくんは変わらず、「いやーだー。」と座り込んでいる。

担ぐこともできるが、3階からの移動で落っことしてしまうとケガになりかねない。

「じゃあもう引きずってでも連れていく。一緒にね。行くよ!」

そう言ってHくんの両腕をつかみ、しゃがんだままのHくんを引きずっていく。

嫌だー、嫌だー。というHくんだが、6の4の子達は、

さっと机を避けて道を作ってくれたのであっという間に廊下に出た。

「がんばってこい。」

「Hくん、やれるよ。がんばれ。」

引きずらながらもしゃがみこんでいるHくんに励ましの声をかけてくれる。

だけど一旦スイッチが変わるとなかなか戻らない性格のHくんの耳には、

入ってきていないようだ。

隣の4年生の教室の隣は階段で、もうそこからは下りていくだけだ。

廊下に出て、Hくんの「いやだー」が聞こえたのか、

となりにいるHくんの妹が扉から出てきて、

「ととろん先生、兄をよろしくお願いします。」

と、ご丁寧に深々とお辞儀して見送ってくれた。

「承りました。必ずや今日も練習させます。」

と僕もお辞儀をすると、二人でくすくす笑ってしまう。

「ほら、妹さんにもよろしくされたから、絶対体育館まで連れていくからね!階段でこのまましゃがんで引きずられたら、お尻痛くなるから、たって歩き。」

Hくんはというと、妹さんに「お前、覚えとけよー。」

ともう誰にこの感情をぶつけていいか分かんない状態に。

だけどどんどん引きずられて行き、階段まで来てしまう。

「はい、いくよ!」

遠慮なく引きずっていく僕、いやだー、ドスン。いやだー、ドスン。

階段を一段ずつしりもちで下りていきながら引っ張られるHくん。

二階に来る頃には、お尻が痛くなったのか、「いやだー。」が

「いたいー。いたいー。」に変わってしまっていた。

「だけん、自分で歩きっていったやんか。もう立って歩き。先生もね、引っぱっていくだけでだいぶ疲れるんよ。ほんと。」

ううー、と言いながらようやく立って歩きだしたHくん。

しっかりと手をつないで体育館までたどり着いた。

「ほら、副団長が締まらなかったらみんなも気合が入らんよ。みんなにごめんって言って合流しておいで。」

体育館の団員の練習風景が目に飛び込んできたことで、

Hくんは気持ちのスイッチを切り替えて、白組の応援団に合流していった。

本番まではあと1週間、この子達に少しでも大きな自信が持たせられるように。

こちらもまだまだ気を抜くことはできない。

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