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なにげないお宝鑑定が・・・(後)

件のお宝鑑定屋さんが始まって数日が立った。

さして楽しめる大きなイベントもない、11月の中旬に、

突如として始まった2の3だけのお宝発見ブームは、

まだまだ陰りを見せなかった。

冬の足音はまだ聞こえないくらいの、天気の良い毎日。

休み時間になると、2の3の子たちは、こぞって外に繰り出していく。

独りできょろきょろして地面を探す子や、

パーティーになって、誰がリーダーともわからないままに、

「あっちの木の近くにお宝があるそうだぞ!」

「確かにそんな感じがする。」

「いってみよう!」

などという話し合いの声もベランダから耳に届く。

ぼくはというと鑑定屋さんなので、

ベランダの窓を開けたままで、子ども達の連絡帳を確認したり、

宿題の丸付けをしながら、お客さんを待つ。

2,3分すると間を空けずに、お客さんがやって来る。

「鑑定をお願いします。」

両手で抱えた大きな石。

「これは、どうでしょう。」

何だか学校の木には見た事のない色をした紫色の実。

「なんだかとてつもないお宝な気がするんです。」

とってもいい感じの形をした木の枝。

お宝はどんどん運ばれてくる。鑑定屋さんの鑑定が毎回違って、

おまけに物語時見ていることが必ずついてくるから、

その鑑定を聞くのを楽しみに、子ども達は次から次に個性的なモノを、

探索して持ってくる。確かにうちの学校は広い敷地があるのだが、

どの鑑定品も、面白いものばかり。

こんなに沢山あるもんだと思って鑑定していると、

気付けば僕の教卓の周りは、何だかどこの呪い師の館かというような、

散らかり放題の物置のような状態になってしまった。

とはいえどれも鑑定が付いた「お宝」である。

こちらが勢いとノリとファンタジーで鑑定したものを、

鑑定してもらった子ども達は、自分のお宝としてしっかり覚えている。

こうなったら30対1はかなり不利である。

お宝の鑑定を間違えようものなら、即ダメ出しが入る。

ただ、子ども達はとっても乗せ上手。

「鑑定士さん、お宝がこんなに散らかってるとわかんなくなりますね。」

(散らかってると言ってしまうのか、と内心苦笑いしてしまったが)

「そうだね、何かいい方法はないかな。」

「そうだ!一番丈夫な箱で、宝物入れを作ったら。」

「それはいいね!じゃあ探してくるよ。」

と、校舎裏のダンボール倉庫へ。

図工の教材が入ってたであろう丈夫で大きめのものを一つ取り出して、

重みで壊れないように布テープで底を格子状に張り付けて組み立てる。

上面の淵にもテープを追って貼って、

お宝を出し入れするときに手を切ってしまわないように。

大きなお宝ボックスが教室に設置されると、

子ども達のみつけた鑑定品はどかどかとしまい込まれていった。

結局の12月の半ばまで、そんなお宝鑑定ブームは続いたのだが、

一度巻き起こったブームには、必ずコアなファンがつくもので、

この鑑定屋さんは2の3が終わるころまで、

数人の子にはずっと、外に出るきっかけにもなり、

見つけたもので物語を想像する遊びにもなっていき、

自分たちで鑑定して、お宝ボックスに入れるという遊びに変化して、

3月には、自分で鑑定したものもそうでないもの、

鑑定品の山で満杯の宝箱が出来上がった。

春までずっとお宝鑑定にはまっていたTくんが、

「先生、このお宝はどうするんですか?」

と、尋ねてきた。

「どうしようかね。」

と返すと、Tくん。

「僕が、元の場所に戻してきましょうか。お宝は、またひっそりと眠っていた方がいいと思うので。」

「じゃあ一緒に戻しに行くか。」

「その代わり一個だけ、最初に先生が見つけた竜の石だけ。持って帰っていもいいですか?」

「もちろん。報酬に受け取っておくれ。」

この鑑定屋さんが始まって最初に見つけた奇麗な緑の石を、

T君は嬉しそうにポケットにしまう。

2の3の一年も、もうすぐ終わるんだなと、しみじみ思った。


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