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桜の雨で卒業を(10)

「もう忘れものはないね。5年生が準備に来るからはよかえりよ。」

6年生を送る会からあっという間に2週間がたった。

いや、あっという間というには、濃すぎるほどに、

この2週間も様々な事件は起こっていたけど。

・予行練習でクラス全員でセリフすっ飛ばし事件

・カウントダウンノートラストスパートのととろん鬼編集長

・最終関門:締め切りに間に合うのか学年総まとめ算数プリント爆弾             

本当に6の1の子達との日々は、何もない日がないくらいだった。

(※今あげたそれぞれの事件も、後日また綴れたらと思います。)

ともあれ、明日はいよいよ卒業式だ。

前日の6年生は、給食を食べたら即下校。

給食後昼休みを挟んだら、5年生以下在校生が、

卒業式のために学校をピカピカにしてくれて、

教室の飾りつけや、式のための設営を頑張ってくれる。

6年生、本番前の最後の仕事は、さっさときれいさっぱりに帰ることだ。

「もう、忘れ物ないね。全部確認するんよ。」

数日前からかさばるものは全部持って帰らせていたので、

前日に山ほど荷物を持って帰る子はいなかったが、

それでもさよならした後に、見回ってみると、

上靴袋、筆箱、赤白帽子、ちょこちょこと忘れ物が出てくる、

まだ下足箱の所辺りでわちゃわちゃしていたメンバーに、

「Kくんが、上靴忘れてる!まだいる?」

「いまーす、ととろん先生、上から落として。」

「いや、取りにこんね。当たってケガでもしたらたいへんやろ。あと、Mさんの筆箱と、O君の赤白帽子も!」

下から聞こえる笑い声、そんななかU君が上に向って質問してきた。

「せんせい。あれは引き出しに入れていてもいいんよね。」

「うん、あれは明日自分でポケットに入れなきゃだから、机の中でいい。」

「よかった。俺たくさん入れてるから。」

「五年生には、それはそのままにしておいてというから大丈夫だよ。」

もちろん『あれ』とは、小さなジップの袋に入れた、桜の紙吹雪だ。

結局一人両手に2回分、3回分と作って、みんな机にしまい込んでいた。

空っぽになった引き出しには、その花弁だけが、6の1には残っている。

明日はきっと、桜吹雪の雨の中で見送れるだろうな。

そんなことを思いながら、ランドセル棚に忘れ物がないか確認していると、

「・・・・・・・これは、忘れちゃいかんだろ。」

思わず吹き出してしまう。


【ととろん先生ありがとう】


しっかりとそう書かれた色紙が、ほとんど空っぽのランドセル棚に、

しっかりと置いてあった。

「いや、これは、明日まで観ちゃいかんやつじゃないんかな?」

そう思いながらもう一度廊下に出て下に呼び掛ける。

「Ⅰさんまだいる?Ⅰさんのランドセル棚に先生への色紙があるんだが。」

「え!ととろん先生それ見ちゃダメ!」

「はよ取りにこんね。もう見てしまったがな。」

「いやいや、それは見なかったことにしておいて。」

下で笑いながらも大慌ての6の1の子達。

本当に可愛くて、素直で、おっちょこちょいで、一生懸命で。

そんなあの子達に、最高の明日が来ますように。

Ⅰさんが上がってくるのを待っていると、

「え、ととろん先生、なんでまだ教室いるん?」

大きな署名の連判状をしたためた、あのRさんとKさんが、

ひょっこり後ろの入り口にやってきたのだった。

「そりゃいるよ。明日の飾りつけを5年生と一緒にするのは、先生よ。」

そう言うと、二人ともちょっと焦った様子で。

「あ、そうか、そうだね。じゃあまた明日。」

「二人もなんか忘れ物かい?」

そう言いながら色紙を見せると、

「何やってんの!もう私たちが持って行くから!」

と、二人はぱっと色紙を奪うと、ダッシュで階段を駆け下りていった。

「走らないよ。最後の日にケガしないようにね。」

「さよならー。」

二人の声が小さくなっていく。忘れ物はなかったのだろうか?

ちょっと心配しながらも、5年生がやってくるまでに、

教室が空っぽになるように、箒で掃きながら教室を片付けていった。

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