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セリフすっ飛ばし事件(2)

全体練習は、これで7回目になり、子ども達も証書のもらい方、

式次第に合わせた動作など、ばっちり覚えた動きができるようになった。

子ども達が後ろにいるお家の人に、その立派な態度を見てもらえる場面は、

・一人ずつ受け渡しのある証書授与の場面

・一人で言うセリフが2・3個、男子全員や、クラス全員、

 学年全員で言う セリフもある、卒業生の呼びかけ

・自分の歌声を届けられるお別れの歌と校歌斉唱

・おうちの人の横を通る、入退場

などがそれにあたる。

前に書いたとおり、「本当の主役に安心させる役者を全うせよ」

と子ども達に意識付けして取り組んでいるここまでの時間で、

一つ一つに緊張感をもって、6の1の子たちは取り組んでいた。

その緊張感が長すぎたのか、

それとも、練習は最終日と思ってしまったのか、

卒業まであと3日、練習としては最後の日に、

今回のタイトルにあった事件が起きてしまう。

一人一人のセリフが滞りなく進み、3組の子がセリフを言った後、

『1組全員』で言うセリフの時になった。

シーン・・・・・・・・

誰もセリフを言わない。内容が難しいわけでもない。

前の子が3年生の出来事を言い終えた後、「四年生。」

と、声をそろえて言うところだ。1・2・3秒、誰も言い出さない。

「四年生!。」

僕が横から大きな声でセリフを言う。

6の1は、はっと気づいて、しまったという顔になっていた。

練習終了後、、、

ここまで頑張ってきたのだから、疲れも出てるよね。ドンマイドンマイ。

と、優しく声をかけてくるような担任ではないことを

子ども達はよくわかっているので、全員落ち込んだ顔をしている。

そして、今回の卒業に当たって、

カウントダウンノートで鬼編集長をし、

桜の雨計画では大げんかもしたこのめんどくさい担任は、

子ども達の予想道理に厳しさを出して叱る。

「ありえないだろう。誰かが個人のセリフを忘れたのならまだわかる。

 いやそれでもありえないが。休みの人のセリフのカバーをできなかった、

 とかなら、全然かまわないのだけれど、クラス全のセリフよ。

 全員もう卒業気分で浮かれてるんじゃないんか?これで、本番に、

 あなたのその一言を楽しみにしてくれている人に届けられるんか?

 やる気が抜けきってんじゃないんか?」

子ども達は言葉もなくしょげ込んでいる。だけど、最後の最後だから、

気を引き締めさせるために、とことんやる担任は、続けた。

「わかった、もういい。そんな状態で本番もっとグダグダだったら、

 2組さん、3組さんにも大迷惑だ。ならいっそ、もう6の1のセリフは、

 2組、3組の友達に全部譲ろう。みんなそのまま立っているだけでいい。

 立ち姿であなたたちはおうちの人に立派な卒業生の態度を示せばいい。

 無言であれば、今日のようなミスは絶対に起こりえないから、

 おうちの人にも、安心して見守ってもらえると思うから。」

何とも無茶な、残り三日での提案に、普通なら、

(そんなことありえるか。)と思うところだが、

6の1の子ども達は、この面倒くさくて意地悪でしつこくて、

そしてやるときはやる担任が、それを本気でやる気じゃないかと、

そう思ってしまうのだった。


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