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今度は果たすぞ、夏の雪辱(5)
「第一試合おわったみたいですね。」
コーチのお父さんたちが、そう教えてくれた。
ベンチに入る選手の子達は、それぞれスポーツバックをもってスタンド裏に移動する。
応援席に走って行った4年生の子が、ばたばたと戻ってきて伝達に来た。
「S小チーム負けとる。」
緊迫した投手戦で7回までは0対0だったが、タイブレーク方式の延長戦では、
一本のヒットで得点が入り込む確率がぐんと上がる。
Yくんたち六年生は、ライバル視していたS小学校チームの、
同学年のピッチャーの子に、どんな思いを抱いただろう。
と、僕の方は応援者の視点から、俯瞰で選手たちを見つめてそんなことを考えたが、
実際のプレイヤーである彼らには、誰が勝とうが負けようが、そんなことで想いを馳せる暇はない。
自分たちもこれまでの大会で幾度となく経験してきた負ける経験は、
等しく誰にでも訪れるもので、自分たちが倒すべき強敵が、自分たちと当たる前に敗れても、
思うことは、気を引き締めて、自分たちは勝ち上がるぞという強い意志。
ベンチに向かう子ども達の背中から、そんな緊張感が伝わってくるように思えた。
がんばれ!と背中に向って声をかけて、応援席に入っていくと、
そこにはお母さんたちと話しているA先生の姿があった。
「明日は家の用事でこれなくなっちゃったから、今日見に来たのよ。」
A先生は、そう言ってにこっと笑って、こっちこっちと呼び寄せる。
「お疲れ様です。子ども達気合い入ってましたよ。」
「ととろん先生もね。頑張れー!って裏から聞こえてきたから、すぐにわかっちゃったよ。」
「ははは、スタンド裏響きますからね。」
「で、応援席はお母さんたちもいたからこっちでよかったのよね。」
「はい、今日は一塁側のスタンドがうちのチームの応援席です。」
そんな話をしていると、子どもたちが試合前練習に駆けだしてきた。
「わぁ、みんないるね。そしてユニフォーム姿だと、一回りも二回りもお兄さんに見えるね。」
「ですね。高校球児もそうですけど、小学生球児もユニフォーム姿で練習していると、6年生なんかはもう小学生に見えない雰囲気の子もいますね。」
「うんうん、ととろん先生が応援楽しいですっていうのがもう伝わってくるよ。これは学校の中では見られない彼らの顔だね。」
A先生は、試合が始まる前から、子どもたちの姿を嬉しそうに見ながら、そう話してくれた。
そして準決勝戦が始まる。
気合いが空回りしないか、変な緊張感になっていないか。などは、
応援している側の要らぬ心配だったようで、
後攻めのYくんたちは、先発がキャプテンのOくんでスタート。
慎重なピッチングと、丁寧な球さばきで、3者凡退で1回を難なく終える。
その裏の攻撃では、トップバッターのTくんが、いきなりの3塁打で、手堅く得点する。
その後、Oくんがいいリズムでスコアボードに0を並べていく。
三振もそうだが、丁寧な投球でうまく内野ゴロを打たせているので、
投球数も少ない省エネ投法で疲れも見えない。
相手チームが0を並べていく裏で、着実に得点を積み重ねていき、
5回を終えて5点差がついた。コールドにはならないので、
明日のことも考えてのことだろう、ここでOくんは定位置のショートに戻り、
ショートを守っていたMくんが2番手ピッチャーに。
いいリズムが守備から生まれた今日のYくんチームの準決勝は、
終わってみれば7点差で、エースのYくんを温存したままでの勝利。
A先生のクラスのOくんの大活躍に、A先生も大喜びで応援していた。
準決勝とは思えない位安定感のある強さで、
Yくんチームは明日の決勝戦に、駒を進めたのであった。
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