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桜の雨で卒業を(11)


「卒業生退場。」

粛々とした雰囲気が少し緩まって、子ども達が笑顔で退場していく。

卒業式が終わる。

主役であるところの6の1の子ども達は、本当の主役であるおうちの方に、

笑顔を見せながら、その間を歩いて、体育館を後にする。

渡り廊下に全員がでて、階段を上る頃には、

緊張から解放された、楽しそうな話声も聞こえるが、

それだけ子どもたちが頑張った証だと思った。

「さぁ、3組まで退場が済んだらおうちの人が上がってくるから、それまでに準備するよ。」

僕はもう今日は卒業式よりも、その後の【桜の雨で卒業】プロジェクトが、

楽しみで仕方なかったので、足早に教室に向った。

さぁ、ささっと証書を渡して、歌って桜吹雪するぞ。

そう思いながら教室へ入ろうとすると・・・・・

「ちょっと待って、ととろん。教室はいるの3分、いや5分待って。」

RさんとMさんが、僕の前に来てそう言った。

「え?待たんよ。時間ないんだから。桜吹雪バラまくよ。」

というが、二人だけでなく6の1の子達が、口々に、

「ちょっとだけまって。」

「5分だけ!」

と言ってくる。なんでこんなにちょっと待たせるのかな?

不思議に思ったけど、昨日の色紙のことがある。その準備かと思い、

「あ、昨日色紙はチラ見したから、大丈夫よ。」

と伝えたが、子ども達はそれでも、

「ちょっとだけ時間ちょうだい!」

と譲らない。いや入る、いや待って。を繰り返していると、Rさんが、

「先生。最後の日の最後のお願いだから、お願い。」

と、おそらく僕を先生と呼んだのは、これが初めてじゃないか?

と聞き疑うくらいに、真剣な表情でお願いをしてきた。

「いや!入るよ。」

と、それでも入ろうとすると、Mさんがヤレヤレという感じで、

「それじゃ、Kくん、Uくん、それから男子の手の空いている人、ととろん先生押さえとって。ほんと、ととろんは最後まで全くだなぁ。」

と指示を出した。ささっと僕の両脇に腕を組むKくんとUくん。

その動きに連動して僕を囲み、図工室の方まで連れていく男子軍団。

「ちょ、この、はーなーせー。」

呆れた顔で笑いながら、Uくんが言う。

「先生、最後くらいみんなのお願いきいてくださいよ。」

「いや、だから桜の・・・」

言いかけているうちにK君がかぶせてくる。

「それはもうみんなが一番楽しみにしているから。だけどそれと同じくらい大事な事なんよ。いい加減察してな、ととろん先生。」

「だったら、昨日寄せ書きの色紙忘れたりしなけりゃいいのよ。もう、ほんとあんたたちはさ・・・。」

そんな感じで男子軍団とワイワイ話していると、

「みんな、もういいよー。押さえてくれてありがとう。」

そんな声が中から聞こえてきて、しっかり両脇をホールドされながら

連行されるように教室の入り口まで連れてこられたのだった。


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