今度は果たすぞ、夏の雪辱(3)
カキーン!・・・・ワーッ!!
ヤバい、もう試合が始まっているのか?
僕は急ぎ足で球場に向かう。
Yくんチームの準決勝戦の時間には間に合っているはずだ。
と思っていたのだが、球場の方からは試合で聞こえる金属バットの音や、
応援の歓声が、風に乗って流れてきていた。
さて、入り口はどこだったっけ。
球場の周りをなぞるように小走りで入り口を探していると、
「先生!ととろん先生!」
と、呼んでくれた声が聞こえた。
声のする方を見ると、Yくんチームの子どもたちが、
おーいと手を振って、こっちだよと合図をしてくれていた。
「もう試合が始まってるのかと思って慌ててしまったよ。」
と、息を整えながら話すと、
「第一試合が延長戦になったんですよ。」
とYくんが説明してくれた。
監督さんや、お父さんお母さんにもご挨拶をしてから、
「あのS小学校チームが、延長戦になってるんだ。」
と、尋ねると、
「やっぱり、打線が不調な時は、得点ができませんからね。」
と、第一試合を見ていたお父さんコーチのお一人が、教えてくれる。
小学生の少年野球では、ピッチャーにすごい子がいると、
チームの失点は格段に少なくなり、安定感が増すのだけれど、
打線の好不調は、結構全員に伝播するものがあって、
ピッチャー同様に一人だけめちゃくちゃ打つ子がいても、
繋がらなければ得点にはつながらないから、
勝ち上がるのは時として、思わぬところで苦戦をすることもあるのだそうだ。
そういったことを踏まえて、当然S小学校のチームも、全員の守備レベルなども高いのだが、
苦戦をすることがあるもう一つの縛りが、投球数制限だ。
これは少年野球の中で遵守されている大事なルールで、
成長段階の子どもの身体に、過度な負担をかけすぎないように、
この後も長く野球を続けていくためのもので、
1人のピッチャーが一日に投げられる投球数が決められているのである。
それを踏まえてチームでは、複数人数ピッチャーの練習も積んだうえで、
内野外野の練習もあまねく行っていて、
子ども達は、一つのポジションしかできないと言う事がないように成長しながら、
その中で自分が得意なポジションの特性をさらに磨いていくといった練習をしてきている。
Yくんチームの6年生は、大体の場合スタメンのポジションは同じ子になるが、
そのピッチャーの球数ルールのことも考慮して、一日2試合あるときには、
1試合目ではエースを温存して外野を守ることや、勝ち抜く戦略としての、
球数制限に余裕を持たせた継投策などもされている。
そんな戦略を立てながら、勝ちあがって行くことを狙っていく中で、
どのチームも一番避けたいと思っているのが延長戦だ。
延長戦になれば当然、投球回数が増え、計画していたリリーフ通りに投手が交代できなくなる。
そして、やはり予定以上に投球をすることで溜まる疲労は、
翌日の試合では必ず見えない負荷になって表れる。
夏は、Yくんチームもそれが一つの要因になって、惜しくも優勝には手が届かなかった。
ライバルチームの思わぬ展開に、子ども達は気を引き締め直すような表情で、
自分たちの試合を待っているように見えた。
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