1人の困難を、みんなで楽しいに(中)
運動会まで3週間となり、体育館と運動場の割り当ても、
運動会の練習モードになりだした。6年生の練習も毎日2時間ずつ。
仲良しさんクラス1組の子ども達にとっては、試練の毎日だ。
「笛の合図に合わせて、ポーズを止めて揃えます。」
100人近い人数が、ビシッとそろうと確かに壮観だが、
そこは小学生。6年生と言っても習い事でスポーツをしている子もいれば、
日頃昼休みなども含めて外には全く出ない遊び方を楽しみ、
家に帰ってからも、運動はほとんどしない子だっている。
足を浮かせるけど地面に降りてしまったり、
背中をそらしてもすぐにうつぶせになってしまったり、
組体操の練習は、仲良しさんクラスであろうと通常学級であろうと、
同じような難易度なのだなと、見て取れた。
仲良しさんクラスのみんなはというと、うん、よく頑張ってる。
かずくんは、ブリッジの維持に全力を出しているのが伝わってくる。
はやくんは、周りの子たちの作っているポーズを真剣に見つめながら、
笛の合図に送れないように、きびきびと動いている。
いつもにこにこ笑顔のあんちゃんは、口を真一文字に結んで、真剣だ。
男女で集団が別れる中で、一人距離のあるまなさんは、
壇上の先生の話に頷きながら集中しているのが伝わってくる。
一方で、静かに立っているのは得意だけれど、
全体での指示に集中を向けるのが得意でないのが、そうくんやあまくん。
二人の様子は、僕もあゆ先生も、視界から外れないように注意して、
たぶん今の内容は頭に入っていないだろうなという様子のときには、
すぐに声をかけに走って、指示の内容を伝えるように動く。
二人とも素直で、真面目な性格なので、僕らが声をかけに寄っていくと、
はっと気づいて、しっかり耳を傾けて、練習を繰り返した。
【こんなに一生懸命に取り組んでいるその態度だけで、もう満点だ。】
そんなことを思いながら、子ども達を見守りながら駆け回っていると、
あっという間に合同練習の時間は終わってしまった。
「よく頑張った。」
と声をかけながら、仲良しさんクラスの教室に戻る。
着替えをしてお茶を飲んで、クールダウンをしながら体と心が整うまで
ちょっと時間を長めに休憩時間をとっていると、
「一人技は、意外と簡単にできたな。」と、あんちゃんとはやくん。
うんうんと頷くあまくん。
「僕は、片手だけで支えるのがきつかった。」とかずくん。
自分たちで感想のやり取りをしながら、前向きな振り返りをしている姿勢も
素敵だなぁと思って見ていると、
「先生、僕はちょっと悔しいです。」
おもむろにそうくんが伝えに来た。
「何か嫌な事でも言われた?」
そんな余裕は周りの子達にもなかったように感じていたが聞いてみる。
「ブリッジの時に、全然背中が上がらなくて、みんなに笑われている気がしたんです。くやしいです。」
「うん、そうくん。ブリッジをもっと上手くしたいんやね。やる気があっていいやん。あと、さっきのそうくんのブリッジは誰も笑ってなかったから、そこは安心していいよ。」
「なんか、クックって聞こえてきて、笑われた気が・・・」
「いや、そうくんがブリッジの時はさ、みんなもブリッジしているから、ポーズ維持しているだけで必死だったよ。たぶん、クックっていうのは、みんなが踏ん張っている声だと思うよ。」
そうくんは、周りの視線に過敏な性格なので、
一つ一つ安心できるように説明していく。
かぶせるようにあんちゃんが付け加えてくれた。
「そうくん、そんなに気になるなら、俺も特訓付き合っちゃるよ。」
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