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1人の困難を、みんなで楽しいに(後)

「特訓!面白そう。僕もやっていい?」

と二人の会話に乗ってきたのは、かずくんだった。

そしてかずくんの問いかけに間を置かずに、

「おれもやりたい。」と、はやくん。

「わたしも。」と、まなさん。

「じゃあぼくもする。」と、あまくん。

「じゃあ、みんなでやろうよ。」と、元気よくあんちゃんが返事をすると、

そうくんも、「じゃあ、やってみるか、うん、やるか。」

と、特訓にやる気を出してきた。その様子をあゆ先生と見ながら、

「みんなやる気スイッチどころか、やる気ギアが爆上がりだね。」

「そうですね。組体操なんかもうやりたくないとか言うかもと、ちょっと心配していたんですけどね。」

「だね、この子達は、自分たちで自分たちを乗せていくのが上手だよね。」

やはり、子ども達が楽しみながら伸びていこうとする姿勢は、

眩しいくらいにキラキラ輝いていて、それはいつも僕らにも元気をくれる。

「みんながそんなに特訓モードなら、あれも持ってこようか。」

「あれ?ってなんですか。」

「特訓を安全にできるようにするあれです。」

そう言って4時間目は、みんなで、そのあれを取りに行ったのだった。

あれとは、そう体育の授業で使う分厚いマット。

運動会の練習になると、学校の全員が使わなくなるあれを、

教室に3枚持ってきて、その上で特訓しようという魂胆だ。

「ああ、マットかぁ。でも確かに特訓中にどこかぶつけたりする心配はなくなるね。」

「マットだと地面みたいに、手も痛くないからしっかり特訓できそう。」

子ども達の反応も上々だった。

体育館の倉庫にしまわれてしまったマットの山から、

長さの短めの厚手のカラーマットを三枚運んで、特訓が始まる。

ブリッジの苦手なそうくんが、ぐっと背中をそらせるように、

そうくんの反った背中の下に、あんちゃんが寝転んで、

「俺の体に付いたらダメだからね、それで8数えるよ。行くよ。」

と、そうくんに檄を飛ばす。

「ぬぎぎぎ・・。」と食いしばる声を漏らしながら、

そうくんは8カウント持たせることができた。

「そうくん、できたやん!、やったやん!」

とあんちゃんは自分のことのようにうれしそう。

その様子を見ていたクラスの面々も、

「そうくんよかったね。」

「特訓の成果はすぐに出たな。」

などなど、そうくんに賞賛を贈る。

「でも、一回だけじゃまぐれもあるから、毎回できる様にならないと。」

そうくんは、成功の先を見据えだしていた。

組体操の練習はまだまだ始まったばかり。

この先二人技や三人技でも、きっと苦戦する場面も出てくるだろう。

けれど、仲良しさんクラス1組には【特訓】が生まれた。

子ども達は自分たちで作った【特訓】を、

困難を困難と思うことなく、楽しみながら協力して乗り越えるための、

大事なツールとして使っていくに違いない。

仲睦まじく、そうくんのブリッジを応援し、手助けし合う子ども達を見て、

本当に大事な事は、

一人で挑戦し続けることだけではないのだと、

友達と楽しみながら高め合う協力ができる事でもあるのだと、

改めて教えられたように感じるのだった。

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