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失った経験を取り戻そう(前)

理科の学習は「ものの燃え方」、燃焼の単元だ。

ものが燃えるとどうなるのか。子ども達に沢山意見を出させてから、

仲良しさんクラス1組で確保している2時間続きで理科室が使える時間に、

さぁ実験するぞと出かけた時に、その出来事は起こった。

「じゃあまず、スタンドと、ビーカー、そして火をつけるための準備で、マッチクズを入れる空き缶。そして、燃焼皿ももってこよう。」

8人クラスで不登校が2人。2人をそれぞれの班に分けて、

実質3人班での実験になる。子ども達は教科書を見ながら、

あれもいるんじゃないかな、これはどこにあるかなと、

ウキウキしながら道具の準備をしていく。

昨年科学クラブで活動をしたあんちゃんは、ちょっと先輩気分のようで、

「かずくん、スタンドはこっちの方が安定するから。」

「あまくん、ビーカーの小さいのは向こうの棚にあるよ。」

と、しどろもどろに動くみんなに、明るく声をかけてくれていた。

「あんちゃんの指示が助かるね。」

と僕はあんちゃんに言う。任せてって顔であんちゃんは嬉しそうに笑った。

さて、今日の実験は、酸素を貯めてそこに選考を入れる実験と、

二酸化炭素を貯めてそこにろうそくを入れる実験。

後普通の空気の状態のろうそくを瓶で閉じ込めるとどうなるか。

そんな内容だ。それぞれの実験に予想を考えながら進めていく。

「さぁやろう。じゃあまずは普通の空気の状態から実験してみるよ。ろうそくに火をつけて。」

教師用の机でも同じように実験を行い、確認できるようにしているので、

ぼくはマッチで火をつけて、瓶をかぶせた。

と、子ども達の方に目をむけると、子ども達が火を付けようとしない。

どうしたんだろう。思ったことは聞いてみようのスタイルで、

「どうした?火がつかないならマッチを交換するよ。」

と、みんな何だか恥ずかしそうに申し訳なさそう。

さっきまで張り切って道具の準備を指示してくれていたあんちゃんが、

ここはリーダーの僕が、という感じで口を開いた。

「先生、僕たち一度もマッチで火をつけたことないんです。」

「え?一度も?4・5年生の時に付けなかった?」

「交流で理科の時は、他の子たちが、僕たちは危なくてできないだろうから火はつけなくていいよって、させてもらえませんでした。」

「えっと、あんちゃんだけじゃなくて、みんなもそうなのかい?」

みんな恥ずかしそうに、申し訳なさそうに首を縦に振る。

そうか、この子達は、交流という時間に、

ただじっとしていればいいを要求されて、

こんなにも好奇心いっぱいなのに、何もさせてもらえていなかったんだ。

おそらく声をかけた通常学級の子ども達には、悪気はないのだろう。

仲良しさんクラスの友達には、そういった危ないと思われる事は、

させないほうが良いのだと心底信じていたのだろう。

その積み重ねで、この子達はじっとしていれば良しだけを強いられて、

色々なことを体験して、自信を持つ機会を奪われていたのだ。

「わかった。じゃあまず、今日は予定を変更して。

 マッチで火を付ける練習からやってみよう。」

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