悪ふざけの代償は(3)
「ととろん先生、ととろん先生。」
3時間目が始まってすぐに、MさんとHさんが声をかけてきた。
「ん、どうした?何か困ったかい?」
調べ活動で困った時には、前に来て質問に来る様になっている。
「いや、Tくんと、Dくんが、先生が禁止にしている動画を観ています。」
禁止にしている動画とは、学校で調べ学習には関係ない動画など、
そういった基本的なものではなく、その時のニュースを騒がせていた
閲覧にふさわしくない厳重注意の内容をしていたものだ。
その当時は、新興テロ組織によるシリア侵略が、
世界的に問題として取り上げられていて、
日本では、戦場ジャーナリストだった方が、
前年の末から拉致され、年明けに、公開処刑をされた。
その動画がネットでも中継されて大問題になっている中で、
どこかの地方の中学校では、情報を伝えるあり方としてと言う事で、
授業時間にその動画を流してしまい、その先生が懲戒処分になったなど、
問題の余波も広がって言っていた時期だった。
今回の調べ学習の時期に、日々大きく取り上げられるニュースと、
悪い意味で刺激の強い動画の情報に、関心を持つ子も出てきていて、
日本と関係の深い国として、シリアを調べたい。
しらべてもいいかという質問も子ども達から投げかけられていた。
どちらかというと僕は、子どもの興味関心は後押しするタイプなのだが、
今回はちょっと調べさせてと、家に帰って情報の確認などを行い、
今回の調べ学習でのシリアはNGとしたのだった。
理由の1つは、調べてまとめるには情報が少なすぎること。
ニュースなどで取り上げられている大きさほどに、
国同士の関わり方については、情報は集めにくい国である。
もう一つは、今問題になっている動画に、
学校のパソコンからのアクセスなどはできないとは思うが、
こればっかりは、どう検索して出てくるかわからない。
そしてその動画はやはり、子ども(というより大人も含めて)には
視聴することで情緒面で悪い影響があると判断したと伝えた。
その上で、今回の調べ活動についての絶対厳守のルールとして、
現在問題になっているジャーナリスト関連、シリアについての調べ活動は、
この単元の学習の中では行ってはいけないこと。
それらを、事前の1時間で話していたのだった。
そのことをしっかり心に覚えていてくれたMさんとHさんは、
そんなルールを、ふざけ半分で破っているT君とD君の様子を、
きちんと伝えに来てくれたのだった。
「ありがとう。あとは先生が対応するね。」
お礼を言って、教師用パソコンでT君とD君の視ている画面を確認する。
なるほど、一番視てはいけないといった、該当動画ではなかったが、
そのまとめのような動画(その惨い事件の静止画などが使われている事がほとんどな動画)を見ている様子だった。
大きく深呼吸をすると、僕はそのまま教師用パソコンから、
全員のパソコンの電源を落としたのだった。
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