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石垣佐和「沈みながら考えたこと」
電車に乗ろうとした。
荷物を一つ忘れたので取りに戻った。
不意に、落ちた。
水の中。
沈んだ。
水中に荷物が入った袋ごと、沈んで行く。
浮かばなきゃ。荷物と一緒に浮かんで、戻らなきゃ。
でも重い。明らかに重い。
これを持ち上げて浮上するのは無理だ。
持っている限り、沈んで行く。
荷物と一緒に沈むのか。荷物を捨てて浮かぶのか。
死ぬのか、生きるのか。
捨てたくない。諦めたくない。
せめて、大事なものだけでも持って浮かびたい。
大事なものってなに?
中身はなに?
借りた本。
読みたくて持ち歩いている本。
いつか読むつもりの本。
着物。
帯に、長襦袢に、足袋。
書類。
いつか整理して必要な情報を入手できるように。
きっと必要なもの。
なんだか大事そうなもの。
なんだか必要になりそうなもの。
いつか役立ちそうなもの。
捨てたくない。
捨てられない。
捨てたくない。
捨てたくない。
でも持っていけない。
あがく。
急いで決めなきゃ命がない。
でも決められない。
見上げれば水面に光。
行きたい。
生きたい。
意識が遠のく。
電車に乗りたかったのに。
行きたいところがあったのに。
のに。
のに。
の。
に。
いきた、かった。
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