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"楽しい"ライブ

練習はあまり好きではないがライブが楽しいから、といった理由で楽器を続けている友人がいる。
一方で、私はさほど練習は苦にならないがライブが楽しいと感じられた事は久しくない。

こちらも友人の言葉の引用だが、ライブというものの種別の考え方として大まかに「コミュニケーション」と「アート」の2つに分けられるそうだ。

コミュニケーション側のライブをたらしめるのは恐らくお客さんとのコールアンドレスポンスであったり、ある程度の流れが調整されたMCであったり、曲中で一緒に手をかざしたりというようなお客さんとの一体感を重視したスタイルなのだと考えられる。双方の構図として「楽しませる⇄楽しい」が成立しているとしたらそれはもう最高のWin-Winであり、演者がライブをしたくなる理由もお客さんとしてそれを観に行きたくなる理由もよく分かる。

一方でアート側はどうだろう。例として真っ先に浮かんだのはtoedownyのステージであるが、どちらも可能な限りコミュニケーションを排除して「魅せる」ステージングにこだわっているように思われる。個人的な感覚では第四の壁が存在している演劇の観賞に近い。そこにコミュニケーション側で行われているようなある種の親切さはほぼ無く、楽しみ方に関しては全面的にお客さん自身に委ねられていると感じる。

自らこう表現するのは大変おこがましいが、私がこれまでやってきたライブが上記のどちらに該当するかと言えば間違いなくアート側である。
メンバーにはお客さんの方を向かないように伝え、私自身はライトも当たらない位置で椅子に座って黙々とギターを弾いている。MCはおろかインストバンドなので声を出す瞬間すら無い。代わりに耳が悪くなるような音ばかり出している。お客さんにはお金を払わせた上で苦行を強いている形になる。

話は戻るが、私はライブが楽しいと感じられた明確な記憶があまり無い。
(あくまで演者としての話のつもりだったが、この半年くらいを振り返るとチケットを買ったのに行かなかったライブがちらほらあり、観客としてもその感覚を失いつつあるような気がしてたった今悲しくなった)
毎度「自分が見たいライブ」をイメージしてステージを構成しているので、楽しさは別としてわずかな満足感だけは高頻度で持ち帰っている。ただ、言うまでもなくこれはメンバーそっちのけの完全な自己満足にあたる。
ここまでぶつくさと書いてきたが、以下に記述するのはライブを楽しめない理由が間違いなくその「完全な自己満足」の部分にあり、バンドの主宰である自分とその人間性にしか原因がないという引くほど個人的な話である。

大前提として、ライブイベントの開催には多大な準備期間が要る。
主催の方が最も多くのタスクに追われるのはもちろん、各出演者もセットリストの決定から練習の日程調整、現地までの交通手段と金銭面の擦り合わせまで様々な準備と相談が必要になる。その様々な準備と相談が毎回バカほど下手だというのが主たる内容となる。

第一に、私が制作した楽曲のほとんどが楽しんで演奏できるような作りになっていない。リズムも取りづらく、フレーズも小難しいものが多いためにスタジオ練習の度にメンバーが苦悶の表情で演奏しているのを非常に申し訳ない気持ちで見たり目を逸らしたりしている。本来であれば第三者を巻き込んで、ましてやしんどい思いをさせてまでやりたい表現など無いと考えているのでもうこの時点でライブを楽しもうという精神からは遠ざかりつつある。

また、私は自分の意見や考えを言葉にするのが苦手なために、よく「どうしたいのか分からない」「意図が読み取れない」等のレスポンスをいただく。これも本当に申し訳ないと思う。何が一番申し訳ないかと言えば、自分の意図や行動が理由として言葉に変換出来るほど強固なものではない事である。
お客さんの方を向かないように演奏する事も、照明を常に薄暗くする事も、耳が悪くなるような音を出す事も、全て漠然とした「こうだったらいいな」から行動に移しているのでそこに込み入った理由はなく、そのせいでメンバーには曖昧な説明のもと「こうしてほしい」という結論だけ伝えて混乱させてしまう場面が過去に何度もあった。
さらに厄介なのは私自身がどの部分での説明が必要・不必要なのかを全く見極められない社会性の乏しさにある。練習段階でいらない説明ばかりを繰り返し、メンバーが求めている本質の部分には本番直前までほぼ触れなかったために迷惑を掛けてしまった事もある。4人の社会ですら上手くやっていけないのかと我ながら呆れ果ててしまう。
私もメンバーもあらゆる部分から起因する「これで大丈夫だろうか」という不安を抱えたまま進行しているバンドとそのライブを楽しむにはあまりにも無理が生じている気がしてならない。なお解決策は未だ見えていない。

仮にバンドマン100人にライブをする理由を尋ねた結果「楽しいから」という回答が少なくとも過半数を占めていたとして、楽しさがあるからこそ自費で企画や遠征も行い、多少の赤字が出たとしてもライブに参画した人らはきっとそれ以上に喜びや何か得るものがあるのだろうと想像が付く。もしかしたらそれがいわゆる「バンド活動」というものの根源なのかもしれない。
さてウチはどうだろう。上述の通り私の主宰するバンドはあらゆる観点から見て楽しめる環境にはなっていない。にもかかわらず、私は準備段階で散々苦しい思いをさせてきたメンバーから交通費等の金銭まで徴収している。
経済面を含めた私のバンドがライブをするメリット・デメリットの比率など言うまでもなく、サポートとして共に出演してくださっているメンバーの方々には心の底から感謝をしている。もはや慈善事業この上ない。

ところで7月に大阪でライブを行う事が決まっております。

MDさんの企画イベントにお呼ばれしました。
初披露の曲から久々に演奏する曲まで、多種多様なセットリストを引っ提げて臨みます。チケットの取り置き受付中です。ぜひお越しください。

ライブの楽しみ方も楽しませ方も分からなくなりつつある私ですが、会場に来てくださったお客さんに対して「凄いものを見せてやろう」という気概を失った事だけは無いという捨て台詞を以てこの記事の公開に進もうと思います。

こんな人間が音頭を取っているバンドのステージでも楽しんでやるぞというライブフリークのあなた、7月14日に大阪でお会いしましょう。

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