2021年 A-POP楽曲50選

今年もあと1日半になったところで更新する2021年A-POP楽曲講評です。
毎年恒例で書いているこの企画も5回目。去年よりはまともな文章になっていればいいのですが相変わらず自信はありません!全くない!(ドヤァ)

今年は生活や環境の変化などもあり、音楽との付き合い方も色々と変わりました。その結果あまり曲数は聴けなかったので必然的に講評を書く曲数も減る……というわけで今年は50曲です。去年までの半分。でも一曲ごとの内容は減ってないはず、たぶん。

曲名のリンクを押してもらうとSpotifyの視聴ページに飛ぶので、気になる曲があればぜひどうぞ。サブスク未配信の曲に関してはYouTubeなどの公式試聴動画へリンクしています。
記事の最後には今年のベストアルバム5選の講評もあるので良ければそちらも。ではどうぞ。

☆頼むから聴いてくれ2021年A-POPマイベスト5

Re:Contact / 茅原実里
作詞:畑亜貴 作曲・編曲:菊田大介 (Elements Garden)

今年はまず何よりも先に茅原実里の音楽活動休止を挙げざるを得ない。
そんな彼女のラストリリースの表題曲となったRe:Contactは、畑亜貴とエレガ菊田大介による疾走感溢れる王道の茅原実里ナンバーで、彼女のパブリックイメージたる"デジタルサウンド×ストリングス×切なさを感じさせるメロディ"を真っ直ぐに追求した楽曲。
過去楽曲のフレーズを巧みに織り交ぜた菊田の手腕もさることながら、やはり彼女の次なる人生を力強く鼓舞する畑亜貴リリックに心を揺さぶられたリスナーも多いはずだ。

Pink Pygmalion / 田村ゆかり
作詞:松井五郎 作曲・編曲:渡辺泰司

田村ゆかりのニューアルバムリード曲・Pink Pygmalionはアンドロイドの恋を描いたデジタリックなダンスナンバー。
EDM方面を向きながらも歌モノとしての侘び寂びをしっかりと感じられる渡辺泰司のトラックに、横文字を散りばめつつ日本語でも必ず印象に残るフレーズを残していく松井五郎の詞、そしてその全てを支配下に置き、キュートながらも芯のある自分色に染め上げるゆかりんのスキル。
三者が互いの良さを殺し合うことなく完璧なバランスで融合した会心の一曲!

クラクトリトルプライド / 夏川椎菜
作詞:夏川椎菜 作曲:田淵智也 (UNISON SQUARE GARDEN) 編曲:HAMA-kgn
夏川椎菜の5thシングル・クラクトリトルプライドは本人作詞にUSG田淵作曲、HAMA-kgn編曲というファンの夢を叶えたような鉄壁の布陣で制作され、その期待を裏切らないキラーチューンに仕上げてきた。
田淵と言えば!なハイテンポかつめくるめく曲展開に、過去作で夏川ボカロックの文脈を紐解いて来たHAMA-kgnによる強烈なギター×ファミコンチックなレトロ成分を孕んだ打ち込み、そして19年のアルバム「ログライン」で作詞家としての才能を開花させ、自らの信条と内省を"あえて綺麗ではない日本語"によってエンタメに落とし込んだ夏川本人の歌詞―まさしくこれらが三位一体となって完成した楽曲だ。
ただ速くて明るくてノリが良い曲ではなく、ただ心中を吐き出して想いと言う名の重りを抱えた曲でもない。その真価は自分で聴いて確かめて、そして感じ取ってほしい。

操り人形クーデター / 渕上舞
作詞:渕上舞 作曲:夜兎, 藤井亮太 編曲:藤井亮太
渕上舞の操り人形クーデターはTVアニメ「魔術士オーフェンはぐれ旅 キムラック編」の後期ED。
不穏な雰囲気を感じさせながら進行するマイナーアップの楽曲で、主役の背後で歌うかの如くエモリフを奏でるエレキギターに、サビで強力に主張するシンセアルペジオとキーボード―言ってしまえばfripSideリスナーに直撃する系統だろう。
渕上自身が手掛けた歌詞も「マリオネット(操り人形)」を主題に置き、希望と絶望、美と破壊のような対極の要素を含んでいて楽曲のスリリング性を見事に引き立てている。

シルエット / 牧野由依
作詞:河邉徹 作曲:杉本雄治 編曲:MEG

牧野由依が歌手デビュー15周年を迎えた今年、周年ライブのアンコールで「次の一歩を踏み出すために作った」というメッセージと共に初披露された新曲がこのシルエット。
複数回のレーベル移籍を経てなお活動を続けてきた彼女とそのファンの歩みを振り返るナンバーは、過去を大切にしながらも未来を見据えていくというコンセプトを、「大切な人と街を歩いて様々な景色を見に行く」というストーリーに落とし込み、彼女の世界だけに止まらない普遍性を獲得しているのではないだろうか。
トラック面では彼女の代名詞たるピアノサウンドに、近年の楽曲を構成してきた打ち込み要素を軽やかに融合させ、ミドルテンポで映える歌声と共に"牧野由依ならでは"のオリジナリティもしっかり感じられる。

☆脳天直撃系エモ強デジタルサウンド(語彙力消失)
永遠Autumn... / フェイルノート (赤尾ひかる)
作詞:仁田俊秀(Studio FgG) 作曲:松田彬人 編曲:HΛL
Misty Love (Prod. ハレトキドキ) / 白金煌 (小宮有紗), 灰島銀華 (澁谷梓希)
作詞:みさつん (ハレトキドキ) 作曲・編曲:ユウフジシマ (ハレトキドキ)
無敵☆moment / Peaky P-key (愛美, 高木美佑, 小泉萌香, 倉知玲鳳)
作詞:Spirit Garden 作曲:上松範康 (Elements Garden) 編曲:菊田大介 (Elements Garden)
Fever Dreamer / Mia REGINA
作詞:hotaru (TaWaRa) 作曲:Tom-H@ck (TaWaRa)  編曲:RINZO (TaWaRa)
Timeless Shooting Star / ストレイライト (田中有紀, 幸村恵理, 北原沙弥香)
作詞:下地悠 作曲・編曲:徳田光希

ニッチな音楽性で攻めるファントム オブ キルのキャラソンには梅崎俊春率いるHΛLが参戦。既発曲のリアレンジとなった永遠Autumn…でゼロ年代初頭=音楽ユニット時代のHΛLサウンドを令和に復権させた哀愁溢れるシンセと打ち込みは必聴!
また、音楽系二次ドルコンテンツでも往年のavexサウンドを追随すると言わんばかりの楽曲が多数登場。
電音部のMisty Loveは安定感のある四つ打ちに90年代のメロウなシンセが絡み合って心地良く、ハスキー成分多めの歌声も一筋縄ではいかない唯一無二の世界観を作り上げている。
対するD4DJの無敵☆momentはトランシーな音作りと多用されるサンプリングが反骨精神溢れるアウトサイダー感を演出。TKのみならずTWO-MIXやI've Soundを通過して来たエレガ菊田大介のデジタル遺伝子に震えろ!
更にバンダイナムコアーツのランティスレーベルからは二次元音楽に焦点を合わせたデジタルナンバーが同時期に発売。
Tom-H@ckチームによるマイナーアップで王道のアニソン路線を突っ切っていくMia REGINAのFever Dreamer、フロア志向で一昔前のハロプロ楽曲(特にモー娘のHelp me!!)を思わせるヘビーかつダンサブルな音像を押し出したシャニマスのTimeless Shooting Star、いずれも良作!

☆今年も続くシティポップ&歌謡曲ブーム
AXIOM / 降幡愛
作詞:降幡愛 作曲・編曲:本間昭光
KU-RU-KU-RU Cruller! / Aqours
作詞:畑亜貴 作曲:Kanata Okajima, Soma Genda 編曲:Soma Genda
Bye-Bye Butterfly / ClariS
作詞:奥村イオン 作曲・編曲:佐久間誠
トーキョーロンリーガール / 雛咲いずみ (諏訪彩花)
作詞・作曲・編曲:Uno Blaqlo
Fairy Night, Fairy Love / 5 to HEAVEN (坂田将吾, 田邊幸輔, バレッタ裕, 草野太一, 堀曜宏)
作詞:hotaru 作曲・編曲:奥井康介

80年代サウンドに特化して活動する降幡愛は、引き続き本間昭光とのタッグでコンスタントに良作を生産。
今年最初のリリースとなったAXIOMでは、人々の宇宙への熱狂と興奮を切り取ったアッパーな打ち込みという新境地を見せてきた。AXIOM=公理(全ての命題の基礎となる仮定)という言葉で宇宙と絡めつつ、歌詞はあえて意味のない文章を並べることでAXIOMという単語の響きと中毒性を高めているのだから、「やられた!」と一泡吹かされたリスナーも多いはず。
その降幡が所属するラブライブ! サンシャイン!!のAquorsも80s回帰系レトロポップのKU-RU-KU-RU Cruller!でブームに追従。トラックの圧が弱いからこそ各メンバーの声の解像度が上がるのも魅力だ。
デジタルサウンドに強いClariSが80~90年代の歌謡曲成分を取り込んできたBye-Bye Butterflyも新旧融合のお手本のような一曲だったり、ゲキドルのトーキョーロンリーガールのように令和を放棄して昭和アイドル歌謡を10代のキャラクターに歌わせた潔い曲もありつつ。
男性声優関連ではFairy蘭丸のFairy Night, Fairy Loveが80~00年代までを総括した哀愁溢れるブラスセクション×四つ打ちポップス歌謡で、このサウンドが明確に刺さるリスナー層がいるはず。要するにおじsうわなにするやめ

☆これぞ大人の嗜み?声優AOR~チルアウト
MORNING:GLORY / 豊崎愛生
作詞:古屋真 作曲:さかいゆう 編曲:臼井ミトン
12月のSnowry / i☆Ris
作詞・作曲・編曲:ARAKI
星空のリグレット / 立川朱音 (山下七海)
作詞・作曲:株式会社コナミデジタルエンタテインメント (亀井順一) 編曲:佐々木聡作
Sunset Bicycle / 小林愛香
作詞:佐伯youthK 作曲:田代智一 編曲:佐伯youthK
Signpost / スーパーセーラーマーズ (佐藤利奈)
作詞・作曲:SHOW 編曲:SHOW, Mitsu.J

歳を取ってステレオタイプな二次元音楽に疲れてきたおじさ……大人にはゆっくり楽しめるAORがあるのだ。
その中でも今年随一の出来を見せたのは豊崎愛生のMORNING:GLORY。
70~80sの洋楽を意識した温かみのあるレトロサウンドに裏声ウィスパー寄りの歌声が絶妙なゆるさを生み出している。なお有識者によると元ネタはThe Doobie BrothersのWhat a Fool Believesとのこと。
90年代邦楽に寄せてきたi☆Risの12月のSnowryは同じくAOR路線ながら、アイドルポップとしての可愛らしさや本人達の成長に見合ったビター色の出し方が的確!
チルアウト系統の楽曲も多数リリースされており、星空のリグレット(ときめきアイドル)はアコギ中心のレゲエな雰囲気に載った少し幼い歌声がなんとも愛らしい切なさを醸し出す。
佐伯youthKの幅広い音楽センスが発揮されたチルwithアーバンポップなSunset Bicycle(小林愛香)、ダンストラックを得意とするDigz, IncのSHOWによるチルwith80sアイドル歌謡なSignpost(劇場版セーラームーンEternal)も聴き逃すべからず。

☆明るさと切なさの絶妙なバランスを楽しむ
Plastic Smile / 石原夏織
作詞:磯谷佳江 作曲:三好啓太 編曲:佐藤純一 (fhána)
W:Wonder tale / SCREEN mode
作詞:畑 亜貴 作曲・編曲:太田雅友
突風スパークル / 諏訪ななか
作詞:micco 作曲・編曲:菊池達也

疾走感のあるデジタルダンスナンバーともうひとつ、太陽のような暖かく前向きなポップスの二本柱で活動を展開して来た石原夏織だが、今年は後者で見事にその魅力を世界へ発信してみせた。
そんなPlastic Smileは切なさの中にも前向きさを感じさせる三好啓太のメロディとfhána佐藤純一の美麗なストリングスアレンジが彼女の清涼感のある歌声とマッチ。
スクモ太田雅友が田村ゆかりへの提供曲をセルフカバーしたW:Wonder taleは、原曲よりもバンドサウンドを前面に押し出すことで硬すぎず柔らかすぎない音像を生み出し、男声で歌っても全く違和感のないグッドポップに再構築している。
日本コロムビアで活動2年目に突入した諏訪ななかは、突風スパークルで予てよりファンであったmarbleからの楽曲提供を実現。軽やかなギターポップに載せて一歩踏み出す人の不安と期待を歌った真っ直ぐな応援歌だ。

☆曲名に糖分が含まれているので実質飯テロ
メロンソーダ・フロート / 中島愛
作詞:児玉雨子 作曲:SoichiroK, Nozomu.S 編曲:Soulife
レースと日向とマキアート / Erii
作詞:なかむらゆめみる 作曲・編曲:森谷優里
Chocolate Mint Magic / 熊田茜音
作詞:畑亜貴 作曲・編曲:塚田耕平 (Dream Monster)

糖分が含まれているからといって、全てが明るい曲というわけではない。
中島愛のメロンソーダ・フロートは溶けていく氷やアイスクリームをモチーフにした切ない失恋ソング。エモメロと流麗なストリングスアレンジに、小説家としても活躍する児玉の文学的な詞や擬音を多用したコーラスが淡く儚い"ソーダ感"をしっかりと描き出している。
様々な音楽性を渡り歩くErii(山崎エリイ)が等身大のモダン音楽を提示してきたレースと日向とマキアート、王道の売れ線ポップスながら詞とメロのキャッチーさで十分な威力を見せた熊田茜音のChocolate Mint Magicも抑えておきたい。

☆エンタメに昇華された内省的音楽(女性声優編)
レイドバック・ガール / 田所あずさ
作詞:大木貢祐 作曲・編曲:神田ジョン
scapesheep / 上田麗奈
作詞・作曲・編曲:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
sketchbook / 楠木ともり
作詞・作曲:楠木ともり 編曲:arabesque Choche (Chouchou)

田所あずさの新譜で冒頭を飾ったレイドバック・ガールは、従前のタドコロック成分を削ってブラスセクションとジャズを全力で混ぜた新境地で、世間の"普通"に逆らっていく怒のマインドを示した一曲。
その名の通り、黒人音楽の文化でもあるレイドバック(演奏や歌のリズムをあえて遅らせる)を多用しているのもまた、"普通"にはならないという目に見えぬ反骨精神を示している。
レイドバック・ガールと同じく内なる怒りを主題にした上田麗奈のscapesheepは、テクノボーイズのミニマルサウンドに乗せて淡々と内省を歌っている……かと思いきや徐々に感情が剥き出しになっていくその様子に寒気すら覚えてしまうから恐ろしい。
シンガーソングライターとして精力的に活動する楠木ともりは、インディーズ時代の既発曲を再構築したsketchbookでarabesque Chocheを召喚。アンニュイさと悲壮感の中間を往く歌声と幻想系アンビエントの世界にグッと引き込まれる。

☆エンタメに昇華された内省的音楽(歌手&男性声優編)
inorganic / TRUE
作詞:唐沢美帆 作曲:久保田真吾 (Jazzin'park), 栗原暁 (Jazzin'park) 編曲:久保田真吾 (Jazzin'park)
measly / 宝田伊織 (斉藤壮馬)
作詞:東妻リョウ 作曲・編曲:小野貴光
more than Zero / 神谷浩史
作詞:只野菜摘 作曲・編曲:黒須克彦

前項に引き続きどこか内省的な面を持つ楽曲をピックアップ。
TRUE×Jazzin'parkとの第2作となったinorganicはミドルテンポのマイナー系ポップロック。失恋の虚しさをドライフラワーになぞらえて綴った詞が、乾いた音色のバンドサウンドと好相性で、サビの張り上げるようなハイトーンも曲の持つ感情を倍増させている。
東京カラーソニック!!の激重マイナーロック・measlyでは、負の感情を数多を抱えながらも人生を歩んでいこうとする語り部の心境を斉藤壮馬が確かな技術で昇華している。
Kiramuneではお馴染みの常連作家・只野菜摘、黒須克彦によるmore than Zeroもマイナーロック系統だが、こちらは負の感情や環境をしたたかに乗り越えていく静かな強さを神谷浩史の声に託した楽曲だ。

☆三者三様のダークテイスト×ラブソング
Love Loser / 江口拓也
作詞:江口拓也, 本多友紀 (Arte Refact) 作曲・編曲:本多友紀 (Arte Refact)
ヒミツのトモダチ / 上坂すみれ
作詞・作曲・編曲:MUTEKI DEAD SNAKE
I tie U / 高野麻里佳
作詞・作曲・編曲:鈴木裕明

デビュー作から攻めっ気の強いミニアルバムを制作した江口拓也楽曲では、ジャズロックに乗せて魔性の女に囚われてしまった男のめくるめく心情を悲痛に叫ぶLove Loserが一押し。
既聴感のある曲調であることは否定しないが、それを越えていくArte Refact本多友紀のキャッチーセンスが大爆発!
最早Vロックかアニメタルの域に到達してしまった上坂すみれ×MUTEKI DEAD SNAKEによるヒミツのトモダチは、所謂イマジナリーフレンドを「愛のない孤独な一人舞台」などと表現しちゃうセンスの塊ソング。
スラップの鬼と化したベースを筆頭に荒ぶる楽器隊、声色を巧みに使い分けながらも決してバックトラックに溺れない歌声のダブル圧倒的主張!
こちらは明るくポップなA面に対してB面がダークテイスト……の典型例だろうか。高野麻里佳のI tie Uはラブソングながらも、前世から想い人に執着し続けた挙句来世まで縛り付けるという狂気の沙汰を描いた四つ打ちデジタルナンバー。

☆横ノリで楽しめる!フロア向きの打ち込み楽曲
Composition / 一色愛梨 (Lynn), 十七夜栞 (種﨑敦美), 四十九院沓子 (木戸衣吹)
作詞:六ツ見純代 作曲・編曲:ヤナガワタカオ
I think I'm in love / キタコレ (小野大輔, 岸尾だいすけ)
作詞・作曲・編曲:永塚健登
Only one thing / 小笠原仁
作詞:小笠原仁 作曲・編曲:高橋修平

魔法科高校の優等生の円盤特典曲・Compositionはヤナガワタカオ作編曲による横ノリダンスチューン。重すぎず軽すぎない歌声と音作りで、ブラスやシンセベース、ダウナーの入れ方も相まってクールかつファンキーな仕上がりになっている。
男性声優楽曲では甘く柔らかなディープハウスで攻めてきたB-PROJECT・キタコレのI think I'm in loveも思わず身体を揺らしてしまいたくなるし、和製CLUB/DANCE系統でヘビーな打ち込みにも負けず歯切れの良いボーカルで対抗していく小笠原仁のOnly one thingも捨てがたい。

☆跳ねるようなリズムで心も踊る軽快ポップス
ぐだふわエブリデー / 悠木碧
作詞:OSTER project 作曲・編曲:涼木シンジ
渚の低気圧ガール / 白雪姫リボン (久保ユリカ)
作詞:スナムランド☆豊中 作曲:Yocke, 生亀貴之 編曲:Yocke
キミと恋の予感 / 駒形友梨
作詞・作曲・編曲:原田茂幸

悠木碧チームの独創的な音楽センスとスライム300年の世界観がばっちり噛み合ったぐだふわエブリデーは、4ピース+ブラスセクションで気分も口角も上がるぐだふわガールズスウィングポップ!KEYTONE涼木シンジの遊び心溢れるメロに確かな読解力で応えたOSTER projectの歌詞も必聴!
モンソニ!の渚の低気圧ガールは懐かしのドゥーワップ系コーラスを多用したロリ声ギターポップ。渋い立ち位置ながら歌いまくるエレキベースにも注目。
原田茂幸(ex.Shiggy Jr.)×駒形友梨の初タッグとなったキミと恋の予感だが、なんと大胆にも広末涼子のMajiでKoiする5秒前をオマージュ。
炸裂するモータウンビートにキラキラドキドキな恋愛を描いた詞、極めつけに最後の歌詞が「5秒前」という。直球ストレートにも程がある。

☆ニッチジャンル×良い声=つよつよ声優楽曲
気づかない? 気づきたくない? / 伊藤美来
作詞・作曲:竹内アンナ 編曲:名村武
永遠と言ってみたい / 小松未可子
作詞・作曲:Q-MHz 編曲:山本真央樹
安曇野小夜曲 / 和氣あず未
作詞:渡部紫緒 作曲・編曲:高橋修平

まさかの伊藤美来×(擬似フューチャー)ファンクとなった気づかない? 気づきたくない?はc/wながらリスナーからの反響も大きく、80-90sを意識したであろうアレンジに、韻の踏み方が気持ち良すぎるラップパートなど聴き所満載。
こちらも驚いたのが小松未可子×フュージョンの融合を見せた永遠と言ってみたい。詞曲はQ-MHz印のチル~シティポップだが、編曲で参加したDEZOLVEの山本真央樹(=本職のフュージョン作家)の手によって煌びやかなシンセや主張強めのウォーキングベースなどが盛り込まれて超濃密。
安曇野小夜曲では和氣あず未×ニュージャックスウィングが実現。昨年から既に声優界隈で存在感を放っていたジャンルだが、彼女の不思議な声質で聴かされるとまた違った味わいがあるのではないだろうか。

☆ニッチジャンル×二次元補正=高火力キャラソン
wi(l)d-screen baroque / 大場なな (小泉萌香)
作詞:中村彼方 作曲・編曲:三好啓太
étrangère -砂海の魔術師- / ROCK DOWN (菊池幸利, 長谷川芳明, 佐藤拓也, 坂泰斗, 増元拓也, 河本啓佑)
作詞:葉月ゆら 作曲・編曲:森慎太郎
Transcend Lights / 星咲あかり (赤尾ひかる), 高瀬梨緒 (久保ユリカ), 柏木美亜 (和氣あず未), 東雲つむぎ (和泉風花), 皇城セツナ (八巻アンナ)
作詞:真崎エリカ 作曲:小高光太郎 編曲:矢野達也, 小高光太郎

みんな大好き女性声優プログレ!(突然のクソデカ主語)
1分10秒にも及ぶイントロから始まる劇場版スタァライトのwi(l)d-screen baroqueはゲームミュージックを彷彿とさせる無国籍サウンドに狂ったようなテンポチェンジ(褒め言葉)が続く限界プログレ。
VAZZROCKのétrangère -砂海の魔術師-では葉月ゆら×森慎太郎タッグが欧州~中東方面の民族音楽を一曲に落とし込むという暴挙(褒め言葉)に出ており、土台のスパニッシュ+仄かに感じるアイリッシュ・アラビアン+打ち込みの電子音までが融合したハイブリッドな一曲。
遂に造語コーラス×民族調×ロリボイスに手を出してしまったオンゲキのTranscend Lights、その音像はアルトネリコシリーズのヒュムノス、あるいはKalafinaなのだが実際に書いたのはLOVE ANNEXの小高光太郎と矢野達也……なるほどね、完全に理解した(理解していない顔)

☆今年の締めくくりは温かみのあるスローナンバーで
波の向こう / mmm (佐藤拓也, 白井悠介, 土岐隼一)
作詞:MASAYA 作曲・編曲:豊田健甫
With You ~魔法使いとウィズ~ / ウィズ (田村ゆかり)
作詞:ヤンクロフス機 作曲・編曲:日野悠平
ひとつ屋根の下 / 坂本真綾×小泉今日子
作詞:坂本真綾 作曲:鈴木祥子 編曲:山本隆二

WAVE!!~サーフィンやっぺ!!~の主題歌・波の向こうは、作品との親和性もあってかカントリー系のサーフミュージックを採用。
エモめのアコギとエレキに引っ張られていく曲に、キャストの真っ直ぐな歌声が好印象。リファレンスはSunrise In My Attache CaseのWhen I Was Youngだろうか。
魔法使いと黒猫のウィズED・With You ~魔法使いとウィズ~は捻りのないストレートなオーケストラバラード。それなのにどうしようもなく刺さってしまうのはメロディとCVゆかりんの歌声の良さとしか言えない。
坂本真綾は初のデュエットアルバムで念願であった小泉今日子との共演を果たした。そんなひとつ屋根の下は鈴木祥子作曲による超上質なスローナンバーで、飼い主とペットの近すぎず遠すぎない関係性を描いた詞が乗る。この絶妙な距離感をデュエットで表現しきった二人に大きな拍手を。


100曲が50曲になったので以前より読みやすくなったと思うんですがどうでしょう。私は校正が楽になりました(なら初めからそうしろ)
もしこの中で好きな曲があったら、サブスクで聴くなり配信で買うなり色々な方法で歌手・作家に還元してもらえれば少しは書いた意味もあるかなと。

サブスクで手軽にいくらでも音楽が聴けるようになった今の時代、消費速度が上がっていく中で真価を発揮することなく埋もれていく曲が山ほどあるわけで。ゆえにキュレーションは曲とそれに携わった人たちに対する一種の救済なのかもしれないと思います。

では最後に2021年ベストアルバム5選(A-POP以外も含む)を書いてお別れです。来年もほどほどに音源回収してほどほどに生きていきます。

2021年ベストアルバム5選
Re:Contact / 茅原実里
年内で音楽活動を休止する茅原実里のラストリリースは、17年に渡る音楽のパレードを締めくくるに相応しい渾身のミニアルバム。
ランティスでの活動開始以降、多数の茅原楽曲を手掛けてきた主要クリエイターが一堂に会するオールスター的な構成は勿論のこと、各所に散りばめられた過去楽曲とのリンク、そして次なる人生のステージへと向かう彼女への愛が並々ならぬ密度で詰め込まれている。
メインライターたる畑亜貴×菊田大介 (Elements Garden)による表題曲を筆頭に並んだ全5曲は、明暗と緩急の美しいグラデーションを描きながら圧倒的な茅原実里ワールドへ聴く者を誘う。
これをきっかけにして過去楽曲にも触れてみると、約30分に及ぶ茅原実里ミュージックとの"Re:Contact"を深く噛み締められるのではないだろうか。

あいことば。 / 田村ゆかり
プライベートレーベル設立後も精力的に活動を続ける田村ゆかりは、前作からわずか10か月というハイペースで12thアルバムを発売。
彼女のアルバムと言えばダークテイストの楽曲が中盤に織り込まれる印象があるが、今回はほぼ全曲で明るさ・キャッチーさに比重が置かれており、正統派ポップス集という意味合いが強めだろうか。
作詞面では彼女が全幅の信頼を置く松井五郎が引き続きメインライターとして制作。それに加えて、ゆかりっくFesから継続的に曲提供しているRAM RIDERの打ち込み系統や初タッグとなったNoisyCellチームの文学的とグッドメロディを融合したナンバーが、一筋縄では終わらない彼女の進化と表現力をしっかりと見せてくれている。
めくるめく時代変化と情勢の波に呑まれる我々に、確かなエネルギーを届けてくれる"あいことば"を散りばめた姫からの贈り物 ― これを聴かない手はないはずだ。

Waver / 田所あずさ
快活なポップスから重量感のあるロックまでを渡り歩いてきた田所あずさは今作で初のセルフプロデュースに挑戦。
その成果を世に知らしめた4thアルバムはサウンドプロデュースを神田ジョン(PENGUIN RESEARCH)、メインライターを大木貢祐が担当し、赤裸々なまでの「心の揺らぎ」を多角的に表現している。
序盤のレイドバック・ガールやちっちゃな怪獣を筆頭とするダークサイドの楽曲では葛藤、苦悩、毒気といったマイナスな揺らぎを、これまでの彼女の楽曲では隠れがちであったピアノ&キーボードと共に放出。
後半戦の大木以外が作詞した楽曲では、従来のタドコロックの系譜に位置するパワフルで快活な面も見せており、プラスの揺らぎも忘れずに残していく辺りが何ともニクい(そして飽きさせない)構成。
壮大なストリングスバラードのリード曲・Waverで終わりを告げる全10曲42分の世界は、自身の抱える"揺らぎ"を吐露しながらも高純度のエンタメとして仕上げてくる彼女の意志と情熱をリスナーに余すことなく伝えている。

忘れられない人 / 藤田麻衣子
デビュー15周年を締めくくるフルアルバムをリリースした藤田麻衣子の世界は、前作から約1年振りとなる本作でも更なる進化を見せている。
クリス・ハートとのデュエットで送るリード曲・君に会いたくなる夜は の切なくも温かいサウンドから始まる盤は、彼女の真骨頂たる恋愛ソング ― その物語を存分に聴かせて=読ませてくれる。
彼女と言えば!なピアノ主体の優しい音像は勿論、情熱的なラテンサウンドで魅せる人魚姫や、シンセサイザーが印象的なanniversaryなどの楽曲が織り込まれてリスナーを飽きさせない。
そして特筆すべきは平川大輔とのデュエット曲となった手錠。かつて提供した共犯者の後日談でもある切なく苦い記憶の歌は、マッシュアップ的に後者が絡んでくるラスサビで最大の破壊力を発揮している。
恋愛を中心として、多種多様な"忘れられない人"との関わりとそこから生まれる感情を丁寧に綴った一枚は、時代が変わってなお普遍的な魅力を以って訴えかけてくるに違いない。

11 Trajectories / MinstreliX
速くてエモくてクサくて強い曲しかなくて最高です。語彙とかないです。