2024年読書&展覧会記録その3
図解入門業界研究 最新アニメ業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第4版] / 谷口功, 麻生はじめ 著
身近にありつつもよくわからないアニメ業界の色々を解説してくれる一冊。
個人的に不思議に思っていた制作委員会方式の仕組みも丁寧に説明してくれたり、海外市場への捉え方や人材関連の諸問題なんかも取り上げていて読み応えあり。
特に印象的だったのは中国という市場がいかに大きいかということ。地域の特性や嗜好に合わないと広がらないというのは言われてみると当たり前なんだけど気付けなかった。
作詞のことば 作詞家どうし、話してみたら / 岩里祐穂 著
対談形式の作詞家トークセッション本。すいません疲れてたので流し読みしました。
個人的に好きな松井五郎さんがいらっしゃったのでその辺りは精読したつもり。やはり松井さんは左脳的な書き方をするのだなと思いつつ、それがあるからこそ他の作詞家の方々との違いが感じられて面白かった。
本人が意図しないところも相手からの指摘で気が付いたりするなど、作詞家というプロの方々だからこその歌詞を紐解く面白みを感じられた一冊。
ビルボードジャパンの挑戦 ヒットチャート解体新書 / 礒﨑誠二 著
ビルボード日本チャートの成り立ちを紐解き、その読み方を解説する音楽ビジネス書。
今の複合チャートと呼ばれるものがいかに厳しい経緯を経て成立したのかをひしひしと感じると同時に、データを読み解くと音楽業界の現状が見えてくるのが面白い。
個人的に唸ったのは楽曲起因型ファンダムとアーティスト起因型ファンダムという概念。
これまでぼんやりと抱いていた売り方への見方がクリアになったというか。
二次元方面ってアーティスト起因型ファンダムをやり尽くした業界だなって。
リルヤとナツカの純白な嘘 / フロントウィング
ノベルゲームを久々に遊び、もうこれも書籍扱いでええやろと拡大解釈して感想を残す。
思ったより長かったけど面白かった。
序盤~三章はミステリーとしての謎解きを楽しむ面もありつつ、ヒューマンドラマとして人間の心の機微に迫る描写が刺激的で中ダレしなかった。
最終章は全てひっくるめて……という具合で人生論・創作論にまつわるような話も登場したりと濃厚な内容。
あと、百合ゲーなので基本的に登場人物は女性オンリー。私は野郎苦手なのでありがたい。
どこがいいか……夏夏さんとリルヤさんのバディものとしての魅力はまず挙げられる。正反対だからこそ能力が発揮されるバディ系はいいぞ。
そして人生論・創作論は今の自分が考えていることと一致して深く頷いたり、自分の一歩二歩先を行くような考え方が説かれていたりと滋味に溢れていた。
ネタバレになってしまうのでここには書かないが、光というものに関する捉え方の台詞は至言だなと思わされたり。
シャドウ・アサシンズ・ワールド ~影は薄いけど、最強忍者やってます~ / 空山トキ 作
フルダイブ型ゲームを舞台にした二人の少女の友情譚。恋愛ではない。
影の薄さと忍者というジョブを上手く絡めた展開でするすると心地良く読めた。
二人の距離が縮まっていく流れもわかりやすく安心して読め、最後の戦いはバトルものとしての暑すぎない魅力もあってバディものとしての良さをたっぷり感じられた。
勇者になりたい少女と、勇者になるべき彼女 / いのり。作
ルチカさん積極的ですね、という感想が常時出てくる片想い押しかけスタイルで進んでいく作品。
彼女の奔放さに起因して巻き起こるトラブルもイベントも全て自分の力を振るって切り開いていく姿勢が爽快だった。レオニーさんも覚悟が決まるとカッコいい。
かなり早足で進行する内容だったので一部描写に物足りなさを覚えることはあれ、最後のまとまりの良さで終わりよければ全てよしの気持ちになれたので万事OK。
けもみみ巫女の異世界神社再興記 神様がくれた奇跡の力のせいで祀られすぎて困ってます。 / いつきみずほ 作
ほんわかスローライフ人助けファンタジー。ケモ耳もふもふ!
ほんわかは事実なんだけど、なんだかんだ課題や問題が山積しているので心休まるというよりは頭を使う感じというか。なので、そういうのを読みたい時に読むと合うのかも。(今回の私の読書時期にはちょっと合わなかった、誰も悪くない)
香りの装い ~香水瓶をめぐる軌跡~ / 箱根ガラスの森美術館
去年に続いて2度目の来館となったガラスの森美術館、夏でも変わらず美しい。
そして今回は香水瓶を中心とした企画展ということで気になっていた。
まず思ったのはガラス工芸とはいえ瓶という密閉容器の機能が先立つこともあり、透明感があるというよりはしっかり色が付いているという印象が強いこと。
ガラスの透明感に惹かれる部分が大きいということに今更気付いた。
そういう意味でいえばさほど惹かれるわけでなかったのだが、その中でも繊細な美しさや儚さといったものに面白みを感じた。
あとは形の多彩さ・時代の幅広さにも唸った。特に驚異の部屋なんかは「香水瓶でそこまでするか!?」という衝撃もあったり。
ガラスならではの発色も綺麗だったなあ。少し淡いというか、そういう感じ。
終盤の方の展示にはラリックやエミール・ガレの作品もあって、これまでに展覧会を訪れた作家に巡り会えたのも楽しかった。
そしてレストランで4,400円のランチセットを食べた。
フィリップ・パレーノ:この場所、あの空 / ポーラ美術館
正直に感想を書くのですが― わからん! 初心者にはさっぱりわからんかった!
なんとなく気になったから行ってみたものの抽象的過ぎて何をどう楽しむかわからん!
違う世界にトリップする感じがあったと言えばあったけど、そこから先の想像が膨らまなくて本当によくわからなかった。私の鍛錬が足りないということか。
そしてレストランで2,700円のランチプレートを食べた。
今森光彦 にっぽんの里山 / 東京都写真美術館
初めての東京都写真美術館へ。恵比寿ガーデンプレイスは何度か行ったことあるんだけどこっちは未訪問だった。
今回はなんとなく綺麗な風景写真が見れそうだし行ってみるか~と軽い気持ちで訪ねたけど想像以上に良かった。
美しい自然の風景が季節ごとに100枚以上ずらりと並んで壮観。
被写体の近くで撮ったであろうミクロな写真(植物や虫など)もあれば、遠くからだったり空撮だったりするであろうマクロなスケールの写真もあって幅広い。
そして特に良かったのは自然の美しさのみならず、人々の暮らしや農業・漁業・畜産業といった営みとの関わりの中で撮影された作品が多いこと。
自然と人間の共存だからこそ生まれる美しさ、そしてそれゆえに生まれる寂寥感や危うさといったものに見入ってしまった。
決して綺麗なだけではない里山の風景を写真という形で昇華していくその様子にグッとくるものがあった。
ガスで煙る森の中の神社なんかは本当にフィクションの世界みたいで鳥肌立ったよね……
空間と作品 / アーティゾン美術館
初訪問のアーティゾン美術館だったけど大満足。
まず展覧会の内容以前に施設が綺麗で居心地が良かったのでまた来たい。カフェで食事もしたい。
肝心の特別展はといえばこちらも良かった。
展示される作品としては絵画メインで一般的な展覧会とそこまで変わらなかったものの、タイトル通りその作品が置かれていた空間というものを想像するだけで印象がグッと変わるのが面白かった。
6Fでは部屋、5Fでは所持者、4Fでは額縁といった感じで色々な解釈で空間というものを取り上げており、これまでの展覧会では意識しなかった作品の外というものを想像することで、建築やルームデザインのような違う分野への意識の飛躍も起きたりして頭が楽しい。
QRコードを使って追加の解説を読めるという工夫もグッド。
次回の特別展もぜひ参加したい。
高山植物~高嶺の花たちの多様性と生命のつながり~ / 国立科学博物館
上野のあの一帯は平日でもかなり混んでるということを学んだ。
―という雑談はさておき高山植物に関する展示があるということで国立科学博物館へ行ってきた。
花の美しさという点に一番の興味関心をもって行ったのでその展示や映像上映なんかは食い入るように見たのだけど、それ以外の高山植物を取り巻く現状や取り組みというのもしっかりと見て回った。
厳しい環境に生きている植物ならではの個性、そして生き残ることの難しさ、それを保護すべく動いている人間の取り組み、全てが組み合わさって我々が鑑賞の対象としている高山植物が存在しているという事実が重く沁みた。
あと一番ビビったのは海外の植物で黄色い房が花を包んでたやつ。名前メモするの忘れた。あれは衝撃的だった。
空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン / 東京ステーションギャラリー
メインビジュアルに惹かれて参加。
展示品を見て何かを美しさや面白さを見出すというよりは、タイトル通り空想すること(空想させること)を狙っているのかなと思わせる内容だった。
フォロンの作品は初めて見たけど中々独特で、矢印や螺子、仮面にミサイルといった象徴的なアイコンがありつつ、それが様々なパターンで表現されていることが多かった。
そうか、そう来るのか。では、そこから見た人は何を感じ取るのか。まさに空想旅行。
この空間にいる間だけでも違う世界にトリップしているような感覚。
展示会の素敵な形のひとつだった。
花鳥風月―水の情景・月の風景 / 皇居三の丸尚蔵館
三の丸尚蔵館は初めて行ったのだけど、めちゃくちゃ綺麗な博物館でびっくり。
大きめの展示室が二つ備わった会場で今回は水と月にまつわる展覧会。
とはいえ絵画は日本画オンリーで、そこに立体造形品や文筆が加わってくるような形。
水の液体というイメージを感じるよりは、水の存在感・自然としての存在を感じさせる内容が多め。
月に関しても黄色でまん丸できれい~ではなくて、作品における登場人物としての存在感をアピールする感じ。
個人的には月のモチーフが大好きなのだけど、今回に関しては水の方が印象に残った。
水の流れは自然の脅威でありながらそれが美にも繋がる、そして水は生命の根源といったイメージを喚起させる作品が多く、そこに昔から変わらぬ人間の水への怖れと美意識を見出せて面白い。
海、川、湖、滝……水の様々な顔を見ることが出来て良い展示会だった。
個人的には三熊野の那智の御山の滝がめちゃくちゃ好き。
東山魁夷と日本の夏 / 山種美術館
安心と信頼の山種美術館。いつもありがとう。
以前の日本画聖地巡礼で見た東山魁夷の「年暮る」を含む京洛四季が拝めるとのことで見参。
春の静けさ、夏は一瞬不気味に見えてよく見ると清々しい、秋は葉と木々が紡ぐ三者三様の色合い、そして冬は言うまでもなく儚さの結晶。
満ち来る潮の迫力と波の華麗さもすごかったな。