作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは肝臓病の遺伝的要因があり、死の数カ月前にB型肝炎ウイルスに感染していた可能性が高いことが、毛髪の分析で明らかになった。研究チームが22日、発表した。
英ケンブリッジ大学を中心とする国際研究チームは、ベートーヴェンの毛髪5房を分析し、ゲノム(全遺伝情報)を解読した。
ただ、ベートーヴェンが聴力を失った決定的原因は特定できなかった。
論文の筆頭著者のトリスタン・ベッグ氏は、遺伝的なリスク因子と大量飲酒が、肝臓の状態を悪化させた可能性があるとした。
研究チームは、ベートーヴェンの健康問題を明らかにしようと、公的・私的コレクションにあった毛髪8房を分析。うち5房について、同一の欧州男性のものだとし、ベートーヴェンの「本物」だと判定した。
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ベートーヴェンは1770年、ドイツ・ボンで誕生。1827年にオーストリア・ウィーンで、56歳で死去した。
天才的な作曲家でピアニストだったベートーヴェンは、20代半ばから後半にかけて進行性の聴力低下に悩まされ、1818年までに機能的にろうの状態になった。
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研究チームのベッグ氏は、ベートーヴェンが晩年の10年間に使っていた「会話帳」から、アルコールを定期的に摂取していたことがうかがえるが、量の推定は難しいと説明。
「彼と同時代の人の多くは、19世紀初頭のウィーンの基準からすれば、彼の飲酒量は控え目だったと言うが、現在では肝臓に有害とされる量に相当していた可能性が高い」と述べた。
「アルコール摂取量が相当期間、そこそこ多かったとしたら、遺伝的リスク因子と相互に作用したことが、彼が肝硬変になった一つの説明になりうる」
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研究チームは、ゲノムのデータから判断すると、ベートーヴェンの胃腸の問題はセリアック病や乳糖不耐症が原因ではなかったとしている。
ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のヨハネス・クラウゼ氏は、「ベートーヴェンの死因を断定はできないが、少なくとも、重大な遺伝的リスクとB型肝炎ウイルスへの感染があったことは確認できる」と述べた。
「それに、妥当性の低い他の遺伝的要因の排除もできる」
ボン大学病院人類遺伝学研究所のアクセル・シュミット博士は、「ベートーヴェンの聴力低下の明確な遺伝的背景は特定できなかったが、今回の科学者らは、そうしたシナリオは完全には否定できないとしている」と述べた。
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遺伝系図学者らは、ベートーヴェンの父方の直系に、婚外子がいたことも突き止めている。
研究チームのベッグ氏は、「ベートーヴェンのゲノムを研究者向けに公開し、本物とされた毛髪をこれまでの年代順のものに加えることで、彼の健康と系図に関する残された疑問がいつか解けるのではないかと期待している」と話した。
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